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リュックに全部詰め込んで、精霊主に挨拶をして、木の実をくれた動物達にも挨拶をして、帰る準備をする。
アルフォンスがリュックを担ぎ、周囲を確認して
「じゃあ行こうか」
「はい」
頬を大きな手で挟まれ、おでこが近づいてくる。ちょんとくっついたと同時に
「レーツェル、竜になれ」
アルフォンスの優しい声が響く。
黒竜に変わり、低い態勢になる。アルフォンスが服を小さくして回収し、ポケットに入れてからレーツェルの背に乗る。
「ではまた来た時はよろしく頼みます」
アルフォンスが精霊主に声を掛けると頭を下げてきた。
「行こうか、レーツェル」
一気に上空に上がり、広いタカスの森が見渡せる高さまで来た。
「レーツェル、ゆっくりでいいからね、無理しないように」
と、アルフォンスが黒竜に向かって囁きかけると、了解した、という感じで一回頷いた。
ラーズの街の方角へ飛んで行く。
もうお昼も終わった時間なので、朝見られなかった民達が外に出て見上げているのが目に入った。
朝とは違って街はかなり活発に動いている。
「今度はレーツェルの姿であそこに行こうね」
街を見下ろしながらそう告げた。黒竜も嬉しそうに飛んでいる。
王宮の上を越えて離れの庭に降り立った。
エルゼとレミリアがリビングの窓を開けて待っていてくれた。
黒竜から飛び降りて、レミリアにリュックを渡す。
「シーツいりますか?」
エルゼが聞いてきた。
「いや、もう大丈夫」
そういえば解除と同時に服を着せるから、リビングに入る必要もないのか。
ポケットから小さくした服を取り出し準備する。黒竜の首筋を触りながら
「レーツェル、戻ろうか」
その言葉に反応して黒竜からレーツェルの姿に戻る。同時に魔法をかける。
アルフォンスの腕の中にレーツェルが戻ってくる。
「お疲れ様、レーツェル。ありがとう」
「こちらこそ。ありがとうございました、アル」
綺麗にワンピース姿に戻っているレーツェルを見て、エルゼとレミリアは
「流石ですね、完璧に服が戻ってますね」
「本当に。この魔法、何種類のかけあわせですか?」
普通、中々出来ませんよね、と、尋ねてきた。
「うーんと、四種類かな、一緒に発動させるのは」
「流石ですね。普通は二種類でも難しいのに」
話しているとレミリアがリュックの中身に気づいたようだ。
「……これ、何です?」
「わ!凄い!全部食用ですね」
一応この四人は野営についても学んでいるし、毒関係の知識も一通り持っている。
小さい時から毒に対する訓練も受けているため、よっぽどでないかぎり毒見は必要ない。
一応毎日の食事は形式的だが毒見をしてはいるけども、まあこの離れに不審者が入ってこれる訳もなく。
「今日行ったタカスの森の動物達が『加護』のお礼にってくれたんだけど、何かに使えるかしら?ソースとか焼菓子とか飾りとか」
「そうですね、料理長に相談してみますね。この実なんてジャムとかにしてもよろしいかも」
エルゼがいくつか摘んでみて言う。
「しかし、お土産が貰えるとは思わなかったな」
クスッと笑いながらアルフォンスが呟く。
「今度からもリュック必要ですね。あ、昼食ありがとう、美味しかったわ」
「良かったです。今度からも用意しますね」
「嬉しいけど無理しないでね」
「今回みたいに前もって行くとわかっていれば大丈夫ですよ」
優しい微笑みでエルゼが答える。
ではちょっと料理長と相談してきます、とエルゼとレミリアがリュックを持って部屋を出ていく。
アルフォンスがちょいちょいと手招きしてソファに座るよう促す。
大人しくアルフォンスと並んでソファに座ると
「今、自分の感覚で辛いとか疲れたとかはないの?痛い所とか」
身体を動かしてみて考える。
「大丈夫です。何もないです」
と答えると
「レーツェルの事信じてるけど絶対無理しないでよ、隠し事は無しだからね」
「はい」
アルフォンスが両手で頬に優しく触れて、クラウンゾーンにキスしてくる。
そのままゆっくりと回復魔法をかけてくる。全身に力にが流れるのがわかる。
「はい、完了」
「ありがとうございます」
「今日はもう予定ない?」
「……そうですね。大人しくしています。借りてきた本を読んでいようかと」
「それがいいね。ゆっくりしてて」
優しい微笑みとともにおでこにキスをしてくる。
「あ、アルは?」
「少しだけお仕事してくるね。陛下に今日の報告もしてこようかと」
「よろしくお願いいたします」
じゃあゆっくりしててね、とアルフォンスが部屋から出ていく。
借りてきた本の続きを読んでいるとエルゼが入ってきた。
「レーツェル様、お茶にしませんか」
時間を見るとかなり経っていたようで、流石エルゼ、無茶をしないように見張っていたみたいだ。
「あ、ありがとう。いただきます」
とリビングに移動してソファに座る。レミリアがお茶とお菓子の準備をしてくれた。
「今日貰った木の実は明日のお菓子に使われるみたいですよ、料理長がはりきってました」
「それは楽しみね」
お茶とお菓子をいただいて、また本を読んでいると夕方になり、アルフォンスが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
おでこにキス。……慣れません。アルフォンスは赤い顔の私を見てクスッと笑っている。
四人で夜食をいただいているときにアルフォンスが
「レーツェル、明日予定ある?」
考えるまでもなく
「いえ、何も」
アルフォンスが把握してない予定などまずないのだ。
「午後から陛下がちょっと時間欲しいらしい。一緒に行こうね」
「陛下が?何かありましたか?」
「いや、多分レーツェル宛に来ている手紙の事だとは思う。全部あちらに届くように手配してあるから」
私だけじゃ決められないしね、と。
「わかりました。では昼食後ですね」
「うん、頼むね」
片づけをエルゼとレミリアにまかせて、湯浴みに向かう。
お湯に浸かって、ふうっと息をつく。
「大丈夫、大丈夫」
と自分に言い聞かせる。
『竜化』の後、アルフォンスに変わりはないか聞かれるが、自分自身は何も変わってはいないと思ってはいる。見た目的にも何も変わってはいないはずだ。
疲れや痛みもない。回復魔法が効いているからかも知れないが。
ただなんとなく、本当に心の奥底の一部分で不安に思っている自分がいるのも事実だ。
『女性の『契約者』はいたが『竜化』はいない』
今日はっきりと聞いたその事実が心に重く響く。
少しモヤモヤと考えているとノックの音が聞こえた。
「レーツェル?大丈夫?」
アルフォンスの声がした。
「……っ、はい!」
「あまりにも静かだから、何かあったのかと思って」
……するどい。
「だ、大丈夫です。もう出ますから」
急いで出る準備をする。お湯から上がってタオルを手に取る。
寝間着に着替えて髪の毛をタオルで押さえながら寝室に入るといつも通りアルフォンスが迎えてくれた。
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