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精霊主がこちらを向き
『この子がもう少し大きく、強くなるまで保つ防御壁を、と思っておりましたが、先日『黒竜王』が現れたと知らせが来て、動けない私のためにあの三人が貴方方の元へ飛んでくれたのです』
レーツェルは瞬きもせずに精霊主の話を聞いていた。
『あの子達も自分の森のことがあるのに、私のためにと……。本当にいい仲間に恵まれました。』
感謝いたします、と。
「あの三人の所にも近いうちに必ず行かせていただきます。ご安心ください」
『ありがとうございます』
「少しお話させていただいても?体調というか、無理させるのであれば遠慮させていただくが」
アルフォンスが尋ねると精霊主は
『大丈夫でございます。『黒竜王』の『加護』のおかげで保護壁を解いても魔獣の侵入がなくなった分、身体が軽くなりました』
良かった、とほっと息が漏れる。アルフォンスが続けて尋ねる。
「あなたは先程、何頭もの竜に会ってきたと言っていたが、その中に黒竜はいましたか?」
『いえ、私はレーツェル様が初めてお会いした黒竜王でございます。私の先代が会ったことがある、と記憶の中にあります』
やはり『黒』はあまりいなかったのか。アルフォンスが何かに気づいたように
「記憶の中、とは?この森の代々の精霊主の記憶か?」
『はい、次代に引継ぐ時に今までの記憶も全て渡しますので。私の中にはタカスの森の精霊主初代からの記憶が残っております』
そういうふうになっているのか。教えると云うより記憶そのままを渡すのか。
「ではその永い記憶の中の『竜』で、女性が『竜化』したというのはありますか?」
ハッとアルフォンスを見る。精霊主も記憶を辿っているのか、考えているように見える。
しばらくすると答えてきた。
『初代からの記憶の中にはこざいません。『契約者』が女性というのは何人か記憶ございますが、女性が『竜化』したという記憶はございません。レーツェル様が初めてでございます』
やっぱりそうなのか。書き漏れとかではなく、本当にいなかったのか。
「ではあなたから見て、レーツェルの『加護』は今までの男性の『竜』と比べて違いはあるだろうか?」
思い出しているのか、少し考えてから
『違いと言うか、私が今まで見てきた『加護』の中で一番強いと思います。光りの色が綺麗で強く見えます』
男性と女性での力の差はないのか。それとも『黒竜』だから基礎的な力が違うのか。
とりあえず、男性の場合より弱い訳ではないみたいなので安心した。
「ならこれで何年間は大丈夫だろうか?」
『何年ではなく何十年と大丈夫かと。私もこの子とゆっくり過ごせそうです。ありがとうございます』
と、次代の子を抱き寄せて答えてきた。
もう一つ聞きたいことと言うか承諾をもらいたいことが。
「シリスの森でも聞いたのだけれども、今後何も用事がなくてもこのタカスの森をたずねてきてもいい?」
二人共ちょっとだけ驚いた顔をしたが、すぐに
『もちろんです。どんな時でも我らがタカスの森一同、お二人の訪問を歓迎いたします。空から来る場合は見えたらすぐに道を示しますし、陸路の場合も森の入口で呼んで頂ければ』
道を作りますので、と。
良かった、この調子だと他の森も大丈夫かな、と考えていると、アルフォンスが
「精霊主同士は仲がいいのですか?連絡を取り合うこともあるのですか?」
その質問を聞いた精霊主は
『はい、この王国内の森の精霊主に関しましては全て繋がってといいますか、連絡を取ることは可能です』
「基本的に私達は貴方がたに好意的に歓迎はされているのだろうか?どこの森にも嫌われてはいない、と考えてもいいのだろうか?」
『もちろんでございます。この王国内の精霊、皆がお二人を歓迎しております。いつでもお好きな時にお好きな場所に尋ねて頂ければ。ああそれに何か助けが必要であれば、呼んで頂ければすぐに全ての種の精霊が飛んでくるでしょう』
「全ての種、とは?」
思わず聞いてしまった。精霊主はニコッと微笑み
『地・水・火・風・空において各々の精霊が存在しております。人間の考えで言うと各々の「得意分野」というものでしょうか』
なるほど。精霊達も得意不得意があるのか。
『ちなみに私は地。レーツェル様の周りに普段いるのは基本風かと』
「了解した。これからもどうかよろしく頼みたい」
精霊主は肯定の微笑みを見せてくれた。
「では早速なんだが、レーツェルと私にこの場所で一休みすることを許してもらえるだろうか?」
『はい、もちろん。ゆっくりなさっていってくだされば』
何のことかわからずアルフォンスを見る。
「『竜化』も一旦解いたことだし、時間的に昼食にしようかと」
急ぐ用事もないしね、とエルゼ達が用意してくれたリュックを下ろす。
「そうですね。ちょっと場所をお借りしますか」
樹木の根の辺りに移動して、座ってリュックの中身を確認する。
バスケットの中にサンドイッチといくつかのフルーツ。ありがたくいただくことにする。
「こんな風にピクニック気分で二人で食べるのもいいものだな」
とアルフォンスが楽しそうに準備をする。
「そうですね」
と答えると目の前にアルフォンスが持つサンドイッチがやってきた。
「はい」
「あ、ありがとうございます…」
手に取ろうとするが離してくれない。これは?
「はい、あーん」
「っつ!」
一瞬にして顔が赤くなるのが分かった。
「誰も見てないしいいでしょ。はい」
「…………。」
これは食べるまで引かないパターンだ……。誰もいないし諦めるか。
アルフォンスの持っているサンドイッチにパクっと食らいつく。
ニコニコ顔のアルフォンスがもれなくついてくる。
ということは、だ。レーツェルは考えてサンドイッチを手に取り、アルフォンスの口元に持っていく。
さらに天使の微笑みが増したアルフォンスがパクっとレーツェルが持っているサンドイッチを食べる。
……やっぱり。と恥ずかしくて顔が真っ赤なレーツェルを見てアルフォンスが
「たまにはこうやってゆっくりしようね」
と、レーツェルの口元についていたパンのかけらを指ですくって、自分の口に持っていった。
「…………っ!」
レーツェルが何も言えないまま食べ合いっこしていると視線を感じた。
ふっと見ると周りに小さな動物達が集まってきていた。栗鼠や兎などこちらの様子を伺っている。
「あらら、警戒させてしまったかしら?」
『いえ、歓迎しておりますよ。どうやら近づきたいようです』
精霊主が間に入ってくれた。
一匹の栗鼠が足元にやってくる。手に何かを持っている。目の前にそっとそれを置いていく。
――――木の実だ。
とても美味しそうな色をしている。食べられるのかしら、と手に取ると周りにいた動物達が一斉に下りてきて足元に色々な物を置いていく。
あっという間に山積みになった。
「……えっと、これは…」
一体?と思っていると精霊主がクスクス笑いながら
『『加護』へのお礼だそうです。食べても大丈夫な物ばかりですので、もしよろしければ、と』
「あ、ありがとう!」
周りにいるみんなに届くように言ってみた。アルフォンスが
「とりあえず、この空いたバスケットに入れて持って帰るか。リュックで来て良かったな」
と笑いながら木の実を拾い始める。
「そうですね、帰ってから料理長に相談しましょう。デザートや焼菓子なんかに使えそうですね。楽しみです」
二人で話しながら木の実をリュックに詰め込んだ。
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