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公爵邸の中に入ると応接室に通され、ソファに座ると侍女がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
並べ終わる頃に公爵と夫人が入ってきた。アルフォンスと立ち上がる。
「いらっしゃい、レーツェル、アルフォンス」
「お邪魔してます、父上、母上」
「お忙しい所わざわざありがとうございます、お、お父様、お母様」
まだちょっと慣れない……。
二人共もクスッと笑ってそばに来て、夫人がレーツェルを抱きしめて
「身体は大丈夫?またちょっと痩せたんじゃない?ちゃんと食べてるの?」
「だ、大丈夫です。三食ちゃんといただいてます」
アルフォンスの方を向き
「ちゃんと見張っててよ、何かに夢中になるとすぐ忘れちゃうんだから」
「大丈夫ですよ。朝と夜は私がいますし、昼はエルゼとレミリアが見張ってますから」
――――どれだけ信用ないんですか、私………。
四人で座ってお茶をいただく。一息ついた所でアルフォンスが
「今ヴァイツェンの所で聞いてきたんですが、私、婿養子になるんですがよろしいですよね?」
「「は?」」
公爵と夫人がハモる。
あまりにも話を端折りすぎである。
「アル、それはかなり説明不足かと思います」
思わずツッコんでしまいました。
「どういうことだ?」
公爵が尋ねてくる。
「ヴァイツェンにこの耳の後ろにの紋様の解読を頼んでいたのですが」
これが訳です、と先程貰った紙を広げる。
公爵と夫人が覗き込んで紙を見る。
「あら?」
「ん?」
同じ所で止まりますよね………。
アルフォンスが補足する。
「王族相手だろうが竜の方が立場が上なので強制的に私の名前がシュヴァルツ姓になってます。従属的な契約だと思います。なので私の正式名はアルフォンス・シュヴァルツとなります」
「そういうことね」
「なるほど」
お二人共すんなり理解してますが、よろしいんですか?と思っていると公爵が
「ちょうど良かったんじゃないか?レーツェルと正式に結婚したら臣籍降下して爵位を貰うことになるから、シュヴァルツ公爵で」
「そうよね、アルフォンスがつけたんだから文句ないでしょうし」
普通に許可が出た。
「今度陛下にも伝えますが、反対はないと思ってます」
「まあないだろうな。しかし臣籍降下したら領地はどこにするんだ?欲しい所とかあるのか?」
そこまで話が進むともうついていけないので大人しくお茶をいただく。するとアルフォンスが
「領地は要らないかなと思ってます。あの離れさえいただければ」
「いいのか?」
「貰っても『竜』と『契約者』の仕事で領地経営とか携わる暇ないでしょうし、私の魔道士と副総帥の手当だけで十分やっていけると思います。ああ『竜』と『契約者』の仕事でも手当貰いますかね」
「まあそうだな。レーツェルはそれでいいのか?」
いきなり振られてちょっとびっくりしたが
「全然考えてませんでしたが……確かに離れさえ使わせていただけるのでしたらそれで」
いいかな、と。
「二人がいいなら私達は何も反対しないわよ。離れはもちろんあなた達のものよ」
夫人からもお許しをもらった。
「ではそういうことで。じゃあレーツェル、行こうか」
「あ、はい」
「もう行くの?何処へ?」
夫人が尋ねてくる。
「入れるかどうかわかりませんが、レーツェルのいた森へ行ってみようかと」
「まあ!場所わかるの?」
「父上に大体の場所は聞きました。あとは動物と精霊達次第という所でしょうかね」
「気をつけて行けよ。無理はするな」
「はい、大丈夫です。リーンとローザに乗っていくので二頭にも無理させられませんしね」
立ち上がって、四人で応接室を出て正門の玄関に向かう。アルフォンスが思い出したように
「そういえば父上と母上はレーツェルの作った焼菓子を食べた事があるんですよね?」
急に話が変わった事に驚きつつも
「ああ、何回かあるな。美味しかったぞ」
「そうね、シンプルだけどとても美味しかったわ。また食べたいわ。レーツェル今度是非作ってきて頂戴な」
「あ、はい」
「でも急にどうしたの?」
アルフォンスが少し不貞腐れたように
「食べたことなかったんですよ、レーツェルの作ったお菓子。昨日離れにレーツェルの友達が来た時に作ってて、初めて知りました」
「あら、そうだったの?それで不貞腐れてるの?ごめんなさいね、レーツェル。甘やかしてはいけないのわかってるんだけど、今度作ってやってくれるかしら?」
「あ、はい、もちろんです。約束もしましたから」
お願いね、と頼まれる。
「お菓子も何だが、レーツェルの友達が来たのか?アルが通したのか、珍しい」
「私だってそこまで狭量じゃありませんよ、同じ年で仲良くなれそうでしたから」
「どちらの娘?」
夫人が聞いてくる。アルフォンスが
「ワナズア男爵の下の娘のアメリ嬢です」
「ワナズア男爵って…例の?」
「そうです、父と継母と姉は各々隠居と修道院。兄が男爵を継ぎアメリ嬢は騎士部門に。中々いい筋をしてますよ」
「あらそうなの?私達の警護にも入るかしら?」
「その内なりそうな感じですよ、なあレーツェル?」
「そうですね」
このまま行けば近いうちにはなるだろう。
「でも良かったわ、レーツェルにもお友達が出来て。これから多分お誘いが沢山来るだろうけど、気をつけてね」
お誘い?と思っているとアルフォンスが
「すでに結構来ているみたいです、お茶会や夜会の誘いが。今の所陛下宛に届いているので、あそこで吟味してもらってますが」
「そうなんですか?」
………知らなかった。
「まあレーツェルは無理に出なくてもいいと思うぞ。アルフォンスと一緒に行けるやつかユーリアかアレクシア主催のものだけで」
「そうね、それがいいわね」
「レーツェルが出たいなら話は別だか」
「……いいえ、私は極力出なくてよろしいのならそれで」
ドレスやらその前の準備のことを考えるだけて頭が痛くなりそうだ。
「あら、せっかく可愛らしいのに。たまには着飾っていいと思うわよ」
「……ドレス自体は着るのはいやではないのですが」
「何がいやなの?」
「……心もとないのです。何も仕込めないのが」
三人が足を止め、振り返ってくる。
「仕込むって短剣とかってこと?」
「はい。いつも足などに付いていていつでも取り出せられると思っていると安心なんですが。夜会のドレスだとそれがなくて、ちょっと不安です」
「……レーツェル」
夫人の声が低く響く。
「……はい」
「淑女は普通、足に短剣など仕込みません!無いのに慣れなさい!そのための護衛がつくのでしょう?」
「……はい」
がんばります。
玄関に着き、外に出るとリーンとローザがすでに準備されていた。
公爵と夫人に挨拶をし、二頭に跨がり公爵邸を出て東の方へと向けて駆け始めた。
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