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朝起きて、いつも通り準備をして朝食を食べて。
今日は馬で移動するからスカートではなくパンツスタイルの乗馬しやすい格好に着替える。
アルフォンスと共にエルゼ達に行ってきますと告げ、馬房に向かう。
奥の方から嘶きが聞こえてくる。
アルフォンスには小さい時から乗っている白毛の馬がいる。リーンと名付けられているこの牡馬は中々気難しい所もあるが、体格的にも性格的にも非常に強い馬である。
「おはよう、リーン。今日はよろしく頼む」
アルフォンスが声を掛けると、わかっているかのようにブルっとふるわせる。
リーンの隣の馬房にいる真っ黒い馬体がこちらを覗いて首を傾げている。レーツェルが手を伸ばして鼻筋辺りを撫でながら
「おはようローザ。あなたも元気そうね、久しぶりになってごめんね。今日はよろしく頼めるかしら」
そう告げると手の平に顔を擦り付けてきた。
黒い馬は他にも何頭かいるのだが、どこか一部分白い毛が混じっているのが殆どだ。
このローザは全身真っ黒で、公爵が見つけてレーツェルに、と連れてきてくれたのだ。
騎乗者に似たのかはわからないが、気難しいリーンのそばにいることができる唯一の馬がローザである。
馬房長であるリックに今日出掛ける事を告げると、リーンとローザに馬具が取り付けられた。
本来なら王弟殿下の身分だと護衛の者達が付いて出掛けると言うことになるが、何せ王国最強の魔道士と軍部も認めるレーツェルの二人なら護衛の方が足手まといになる。
馬房の者達に見送られながら二頭並んで出発する。
王宮の門番にも挨拶をして扉を開けてもらい、公爵領に向かい二頭で駆けて行く。
リーンもローザも二頭で駆ける事には慣れているので同じ速さで並んで走る。
あっという間に公爵領に入り、ヴァイツェンの邸の前に着く。
この前の時と同じようにヴァイツェンの妻のライラが出迎えてくれる。
玄関前に二頭をつなぎ、水を貰う。
アルフォンスとレーツェルはライラに案内され、ヴァイツェンの研究室に向かう。
扉をノックするとどうぞ、と声が聞こえる。三人で中に入ると変わった薬草の匂いがする。
「また新しい薬を開発中ですか?」
アルフォンスが尋ねる。
「んーこれはまだまだだね。もうちょっと味と匂いに改良の余地があるかな」
でも効くよ、飲んでみる?と言われたが二人で首を横に振る。
ライラが普通のお茶を用意してくれたので椅子に座る。
ヴァイツェンがえーっとと机の上を探して、紙を一枚私達の目の前に置く。耳の後ろの紋様の写しだ。
一応解読できたんだけど、といいながらもう一枚紙を並べて置く。
「まあほとんど契約の文言だね。理によって契約する、みたいな」
後から置いた紙に文章が書いてある。これが訳になる。
確かにほとんどが契約に関する言葉だが一箇所だけ、目に止まる。
アルフォンスもそこで止まったみたいだ。
「やっぱりそこで止まるよね」
とヴァイツェンがクスッと笑いながら言ってくる。
「僕もそこが一番難しくてね。ん?と思ったんだけどそれしか当てはまらなくて」
『古からの理により竜として契約者に全てを委ね全てを預かる レーツェル・シュヴァルツ』
私の方に刻まれている紋様の訳だ。名前まで入っているのか。いや、問題なのはこっちじゃない。
『古からの理により契約者として竜に全てを委ね全てを預かる アルフォンス・シュヴァルツ』
「アルフォンス・シュヴァルツ……?」
思わず声に出してしまった。
「そう。シュヴァルツなんだよ。この二つの紋様で違う文字は一箇所だけで、それがレーツェルとアルフォンスの綴りなんだよね」
で、と次の文字を指差す。
「これが迷ったんだけど、綴り的にシュヴァルツなんだよね」
レーツェル・シュヴァルツはわかる。アルフォンスがつけてくれた私の名前だ。間違いない。
でもアルフォンスのフルネームはアルフォンス・ドゥ・リヴィアニアであってアルフォンス・シュヴァルツではない。
二人共無言で固まっているとヴァイツェンが
「アルフォンスの婿養子決定かな。どうやら竜の方が立場が上らしいから」
レーツェルの方が上だねーと、明るくヴァイツェン様が言っている。
はい?婿養子?なんの事?と頭の中が少しパニックになっているとアルフォンスがいい笑顔で
「本当に?それはいい!そう決められたんなら従わなきゃ!」
なにやら凄い嬉しそうにはしゃいでるんですが……。
「なんだ、アルフォンスはそれで良かったのか。じゃあ万々歳だね。おめでとう」
よくわからないんですが。ポカンとしてるとヴァイツェンが
「この紋様の文言って所謂結婚の契約みたいな感じだと思えばいいと思うよ。これから先一生涯共にいることを誓う、みたいな」
「それは何となくわかりますが」
「で、最後の名前が結婚証明書のサインみたいな物なんだろうけど、もう強制的にシュヴァルツ姓なんだよね。だからこれからはアルフォンスはアルフォンス・シュヴァルツが正式名」
――――はい?
「王族だろうがなんだろうがとにかく竜が上。契約主。結婚というか二人で一つだから名前も竜側の姓になる。だからアルフォンスが婿養子でシュヴァルツ姓」
OK?と確認してくるが、え?と目を丸くしていると、隣のアルフォンスが
「ちょうど良かった。レーツェルと結婚したら臣籍降下するからシュヴァルツ姓になればいいんだな」
「そういうことだ。自分でつけた名前だし異存はないだろう」
「ないどころか助かる。陛下にすぐにでも報告したいくらいだ」
アルフォンスとヴァイツェン様でどんどん話が進んで行く。
「というわけでよろしくね、レーツェル」
「……よくわかりませんが、わかりました。私の名前は変わらないと言う事ですね」
「そうだね、それでいいと思うよ。変わるのは私」
一気に話が進んでついていけない部分も多々ありますが……。
「ではこれは陛下に報告するとして。あと一つ聞きたいんですけど」
「何?」
「物質を小さくする魔法を使っている物を元に大きさに戻すと同時に他の物質に纏わすとしたらヴァイツェンだったらどう組み合わせる?」
「ん?どういう事?」
「正確に言うと脱いだ服を小さくして手に持っていて、レーツェルの『竜化』を解くと同時に大きさを元に戻してレーツェルに着せるを魔法でやりたいんだけど」
「ああそういうことか。だったら」
ヴァイツェン様とアルフォンスであーすれば、こーすればと掛け合いしているが、私には一切わからないのでお茶を飲んでいると、ライラ様が
「楽しそうですよね、新しい魔法のこととなると二人共」
「本当に。魔法に関しては二人について行ける人いないですからね」
「掛け合わせなんて普通は中々出来ませんからね。それを当たり前のように話してますから」
クスクスと笑いながら二人を眺めている。
「分かった。それが一番うまくいきそうだな。今度試してみる」
「多分ね。やってみてダメそうだったら連絡ちょうだい。違うパターン考えてみるから」
何か納得いく掛け合わせが見つかったみたいだ。
「じゃあ今日はこれで失礼します。また何かあったら寄らせてもらいます」
「陛下によろしく言っておいて」
「わかりました」
お礼を言ってライラ様に玄関まで送ってもらい、リーンとローザの所に戻る。二頭仲良く待っていてくれるので助かる。
「お利口さんに待っていてくれてありがとう」
声を掛けると二頭とも当たり前、とでも言うようにブルっとする。
騎乗してルカリスティア公爵の邸に向かう。すぐ近くなのであっという間に着く。
門番に挨拶して中に入る。正門前まで来ると扉が開いてマルク様の姿が見えた。
「いらっしゃいませ、アルフォンス様、レーツェル様」
馬から下りて二頭を公爵家の馬丁に預けて中に入る。
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