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王都ラーズの空をゆったりと飛ぶ黒竜とその背中に跨いでいるアルフォンス。
街中、お祭り騒ぎの様に、皆建物から飛び出して空を見上げている。
初めて見る竜に感嘆の声を挙げる者、手を振る者、涙する者など色々だ。
飛んできた後にキラキラと光る道ができている。虹のようにも見えるが、精霊達が一緒になって飛んでくれているのだ。
どうやら自分達の王と一緒に飛べるのが嬉しいのか、かなりの数が集まっている。
一人一人は小さく力も弱くても、これだけ集まると増幅されてキラキラと輝きを放つ塊となる。
普段精霊が見えなくても少し魔力が強い者ならこれなら感知できるのではないかと思うほどの輝きだ。
「凄いな」
アルフォンスが黒竜の背から感嘆の声をあげる。
「レーツェルは本当に皆に愛されてるね」
と、紫色のリボンが絡みついてる鬣を優しく触れながら囁く。
「さあ、そろそろ離れに戻ろうか」
その言葉を聞いた黒竜がクイッと首を下げ、高さを少しずつ落としていく。
王宮の上を通ると今度は兵士や騎士達も空を見上げている。
普段、対峙する魔獣とはまた違った感じがするのだろう。さすがに仕事中や訓練中に手を振る者はいなかったが。
離れ近くまで来るとさらに降下する。こういった飛び方は初めてなのだが、身体が覚えているのか、竜としての本能的なものなのか、練習などしなくても完璧に飛んで降りたい所に着陸できる。
アルフォンスも普段、馬に乗ることはあるが、手綱がないとまず無理である。
しかしレーツェルの、黒竜の背中に乗る事は馬に乗るより楽である。
手綱や胴具などなくても、きちんと安定して座れるし、身体がふらつくこともない。
これが『契約者』という事なんだろうか。
と考えているとレーツェルは綺麗に静かに離れの庭に着陸した。
アルフォンスは背から飛び降りて、黒竜の前に回り込み、鼻先に手を触れて言葉をかける。
「ありがとうレーツェル。お疲れ様。バッチリだったよ」
窓が開く。エルゼとレミリアが待っていた。
「おかえりなさいませレーツェル様、アルフォンス様」
「ただいま、二人とも」
と声を掛けつつレーツェルと二人、窓からリビングに入る。レミリアがシーツを渡してくれる。
ありがとう、と受け取り、黒竜に向かって優しく、
「レーツェル、戻ろうか」
アルフォンスが声を掛けると黒竜の輪郭が崩れてくる。シーツを被せて抱きしめる。
「おかえりレーツェル。お疲れ様でした」
「アルもお疲れ様でした」
コツンとおでこを合わす。
着替えておいでと言われたので、自分の部屋に入り簡単な普段着を着る。
リビングに戻るとアルフォンスが自分の隣に座るよう促してきた。大人しくソファのアルフォンスの隣に座る。
左耳を触りながら尋ねてきた。
「気分は?疲れてない?」
「大丈夫です。これくらいの飛行なら全然大丈夫そうですね。アルこそ大丈夫ですか?」
「私は乗っているだけだしね、飛行は圧倒的にレーツェルに負担がかかっていると思うんだ。飛ぶ、という事もだし、私を落とさないように気を遣っていると思う」
「そうですかね、アルが乗っても重さなど感じませんし、なんでしょう、こう、落ちるとか落とすとかっていう概念がないのです。乗っているのが当たり前という風に身体が感じているのです」
だから申し訳ないけど気を遣っているということがないのです、とよくよく考えれば失礼なんじゃないかと思う事を言ってみた。
アルフォンスはクスクスと笑って
「ならいいんだけど」
「それより、アルは高いのは大丈夫でしたか?」
「ん?全然大丈夫だったよ。むしろ凄い景色で楽しかったよ」
普通は見られない景色だからね、と。
今日の初めての飛行について確認し合っていると、テオがいくつか荷物を持って入ってきた。
エルゼとレミリアが手伝って奥の寝室に運んでいく。ん?と思っているとアルフォンスが
「ああ、私の私物。服とか小物類とか」
少しずつ運ばさせてもらうね、と笑顔が眩しいです……。
「あ、はい。手荷物で持ってこられるほどの量なんですか?」
「まあ、本当にいるものだけだし。仕事関係は向こうのままだし」
私とテオで運べるくらいじゃないとね、と苦笑する。
確かにこの離れはアルフォンスの二重防御壁の関係で普通は入れない。アルフォンスが許可した人のみすんなり出たり入ったりできるのだ。
テオが荷物を置いてこちらに来た。
「アルフォンス様、陛下ができれば今日の飛行の感想など聞きたいとおっしゃられてましたが」
「ああそうか。レーツェル、荷物そのまま置いておいてくれる?帰ってきてから片付けるから」
「荷物って服ですか?何か大事なものはありますか?」
「いや、今日持ってきたのは本当に服だけかな」
「じゃあよければ仕舞わせてもらっても?」
「いいの?」
「はい、今日はもうすることもないですし」
「じゃあお願いしようかな」
無理だったら置いておいていいからね、と。
「じゃあ、ちょっと王宮行ってくる。陛下と話した後、少し仕事してくるから」
レーツェルはゆっくりしててね、休んでるんだよ、と念押しされた。
「はい。アルこそ無理しないでくださいね」
いってらっしゃいませ、とアルフォンスとテオを送り出した。
寝室に入り、テオが持ってきたアルフォンスの荷物を確認する。
離れに移動してくると言われたので、アルフォンスの私物を置く場所は作ってはあった。
元々レーツェル自体もそんなに私物がある訳ではなく、服もドレスも多分貴族の娘に比べるとかなり少ないだろう。
レーツェルの場合、普段着のドレスがちょっと特殊な仕様のせいもある。
これから先、ドレスの数が増えるのは間違いないだろう。まあそれでも置く場所はかなりあるから大丈夫だろう。
荷物の中の普段着や寝間着など分類しつつ、アルフォンス用に準備した棚に仕舞っていく。
普通なら侍女の仕事になるのだが、レーツェルはエルゼ達の手をあまり煩わせないよう、出来ることは自分でするし、それが当たり前だと思っている。また、綺麗にできるので、反対に頼まれることもあるぐらいだ。
今回持ってきた分はそれほどの量でもなかったのであっという間に片付いた。
終わった頃を見計らったかのようにエルゼが顔をを覗かせる。
「終わられました?」
「はい、できました」
「では少しお茶にでもしませんか?」
と誘ってくれたので遠慮なくいただく事にした。
温かいお茶と焼き菓子を一口いただきながら、エルゼに問いかける。
「そういえばエルゼはお酒平気なの?」
急に振られたエルゼは、一瞬目を丸くしたが、
「そうですね、弱くはないと思います。果実酒一本くらいなら全然」
一体何が違うのだろう……。体格的にもそんなに変わらないし、どちらかといえばレーツェルの方が身長が高いくらいだ。うーん、と思っていると
「こればかりは体質もありますからね。どうしても飲まなければならないってわけでもありませんし」
レーツェル様はそのままで、と微笑まれてしまいました。
そうですね、大人しくしておきます。
お茶も終わり、さてどうしようかと考えているとエルゼが
「少しお休みになられたらどうですか?気も張っていらっしゃったでしょう」
寝なくても横になるだけでも、と勧めてくれたので、お言葉に甘えて寝室に入ってベッドに横になってみた。
そう簡単には眠れないだろうと高をくくっていた自分は裏切られ、プツンと糸が切れたように眠りに落ち、夕方アルフォンスが戻ってくるまで目を覚ますことなく眠り続けた。
それを聞いたアルフォンスにまた心配をかけてしまったのは言うまでもなかった………。
本日もありがとうございます。
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