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 王宮の三階にあるバルコニーからは王都ラーズがかなり見渡せる。


 今日は王弟殿下のお祝いで、国王、王妃、王弟や前国王や前王妃などが揃って姿を見せるとのことで、王都中から集まったのではないかと思うほどの人だかりである。


 それこそ王都だけではなく周辺の都市やそれこそ王国中から見に来てる人もいるだろう。

 

 それだけ『竜』と『契約者』の出現、お披露目は注目されているということだ。



 まず国王と王妃がバルコニーに出て、皆から見える位置に立ち、手を振り挨拶をする。


 その後、ルカリスティア公爵と夫人、エルヴィン王弟殿下が続く。


 最後に本日の主役であるアルフォンスとレーツェルが登場するとひときわ大きい歓声が起こる。


「おめでとうございます!」

「お幸せにー!」


 『竜』と『契約者』の出現、さらにその二人の婚約発表と王国民としては最大のお祝い事と言っても過言ではない。

 このバルコニーから見える人の多さがその喜びを表している。


 さらに王弟殿下と貴族出身ではないある意味平民の娘との婚約というのも二人の人気に拍車をかけた。


 今回、レーツェルの事を「前国王が森で見つけた拾い子である」ときちんと隠さず説明した。

 下手に隠して後でどこからかわかるよりも、こちらから情報を出したのだ。


 レーツェルが『竜化』して『竜』になった今、身分や出生など、一切足枷になどならず、アルフォンスとの婚約、結婚に際して立場が上なのはどちらかといえば『竜王』であるレーツェルであるからだ。


 隠す必要はないと国王陛下が判断し、お披露目に際して王国中に広めたのだ。

 

 この王国最強と呼び声の高い王弟殿下と共に育った少女。


 出自や身分関係なく、自らの努力でその位置を掴み取った少女。


 その話を聞いて好意的な王国民がほとんどであり、見た目も相まって応援し、温かく見守ってくれている。

 

 二人のこれからを祝福するかのように晴れ渡った青空の元、バルコニーの真ん中にアルフォンスとレーツェルが立つ。

 アルフォンスは慣れているので軽く手を振る。それを見た王国民から歓声が上がる。


「レーツェルも手を振ってみなよ」

「え、でも」

 なんせ、このような場に立つのが初めての者にとってはいかんせん緊張して固まってしまう。

 いくらレーツェルと言ってもそれは例外ではない。


 横からベルンハルトも

「そうだね、今日の主役だ。是非手を振ってあげて。竜になってしまうと出来ないからね」

 と、軽くウィンクされた。


 竜になってしまった方が気が楽なような気がするが、と思いつつ右手を上げて振ってみた。


 今日最大の歓声が起こった。


「「おめでとうございまーす!」」


 あちらこちらでお祝いの声が起きる。


 その言葉を聞き、光景を見ていると自然とレーツェルの瞳に涙があふれてきた。


「レーツェル!?」

 横にいたアルフォンスが慌てる。

「すみません、なんだか勝手に…」

 すぐに手で拭うが次から次へとあふれて止まらない。

 アルフォンスが心配そうな顔で、

「どこか痛いとかひどいとかじゃない?大丈夫?」

「大丈夫です。こんなに歓迎して頂いて嬉しくて…」


 何の権力も身分もない自分がアルフォンスの横に立ち、肩を並べている。つい一ヶ月前までは考えられなかった姿だ。


 アルフォンスが頬に流れる涙を拭き取ってくれる。


「うん、嬉しいね。これもレーツェルががんばってくれた証だよ」

「……はい」


 国王陛下が尋ねてくる。

「レーツェル大丈夫かな?行ける?」


 もう一度きちんと涙を拭き取って

「はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします」

 と、力強く答えた。


 その返事を聞いたベルンハルトが前に出て、手を挙げると一瞬にして静まりかえった。



「親愛なる我がリヴィアニア王国の民よ。今日はこの佳き日に集まってくれてありがとう」

 声が響き渡る。

「通達した通り、レーツェル・シュヴァルツ嬢と我が弟アルフォンスが『竜』と『契約者』になった事、そして同時に婚約も発表する。二人はこれから先、共にこのリヴィアニア王国の安寧と繁栄を誓ってくれた。二人にこの先、幸多からんを!」


 うおー!というような轟音が沸き起こる。


 ちょっとびっくりしているとアルフォンスが手を差し伸べてきた。手を重ねて一緒に前に出る。アルフォンスが手を挙げるとまた静かになる。


「ありがとう。皆からの祝福、二人でしかと受け取った。これから二人でこの国のために尽くすとここに誓う」


 またまた轟音が響き渡る。


 アルフォンスが頬を両手で挟んでくる。

「大丈夫?いくよ」

「はい」

 私は笑顔で返事する。アルフォンスも笑顔で答える。

 いつも通りコツンとおでこをくっつけてくる。私は目を瞑り、アルフォンスに全てを委ねる。


「レーツェル、竜になれ」


 優しい声が身体に染み込んでくる。あっという間に光が溢れ、輪郭が崩れてくる。



 すーっと光が上に向かっていったかと思うと一瞬にして黒竜が姿を現す。


 一度伸びをするように上空まで上がり、旋回してアルフォンスの近くまで降りてくる。

 バルコニーの少し上で滞空している。


 初めて見る『竜化』の瞬間と『竜』に皆息を呑み静まりかえったが、アルフォンスが手を伸ばし、黒竜の鼻先に触れた途端、歓声が上がった。


 恐怖や異端を見る声ではなく、感嘆と称賛の声である。そんな声があがるほど、澄み渡る青空に、漆黒の鱗と瞳が見事に輝いている。


 アルフォンスが足元にあるレーツェルのドレスを拾って、魔法で小さくして自分のポケットに入れる。


「では国王陛下、これでバルコニーからのお披露目終了ということでよろしいですか」

「ああ大丈夫だが、離れに戻るんだろう?」

 と、陛下が聞いた所でアルフォンスが、レーツェルと目を合わせる。

 

 レーツェルは少し高い位置から首を伸ばしていたのだが、バルコニーの手すりギリギリまで降りてきて、背中の羽根を下げた。


 バルコニーにいる陛下達も下から見ている国民達も、何だ?と思った瞬間、アルフォンスが動いた。


 手すりに足をかけ、レーツェルの、黒竜の背中に跳び移ったのだ。

 

「うわ!」

 と、あちこちから声が上がったが、当のアルフォンスは当たり前のように黒竜の背中に納まった。昔からの定位置のように座っている。


「アルフォンス!」


 国王等もびっくりして声を掛ける。


「大丈夫です。レーツェルが図書館の資料の記述から出来るはずだと教えてくれたのです。一応今朝一度試してあります」

「でも、レーツェルに負担は」

 ないの?と公爵夫人が尋ねる。

「はい、レーツェル曰く『契約者』は乗って当たり前の存在らしく、私の重さは感じないそうです」

 大丈夫なんだよな、レーツェル?と尋ねると、こちらに首を動かし、頷く仕草をする。

「あと、なんとなく感じるのですが、繋がっているので落ちることも、もちろん落とすこともないそうです。だから胴具がなくても平気です」

 と、アルフォンスがレーツェルに朝聞いたことも交え伝える。

「ですので、今日これからお披露目と練習も兼ねて少し街の上空を飛んできたいと思います。そしてから離れに戻りますので」

「わかった、気をつけろよ。くれぐれもレーツェルに無理はさせるなよ」

「はい、大丈夫です。じゃあ行こうかレーツェル」


 黒竜が振り返り、一度頷き羽根を上にあげて、上昇態勢を取る。


「では行ってきます」

 と、アルフォンスが言うと同時に黒竜が羽ばたき始める。

 バルコニー下の広場に集まっている国民達の上をゆっくりと通りすぎ、王都ラーズの中心部に向かう。


 ラーズの上空を一周し、離れに戻る頃にはアルフォンスを乗せて滑空する黒竜の姿に、皆瞬きも忘れ、ただただその素晴らしさに心奪われていた。






本日もがんばりました。

ご覧いただきありがとうございます。

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