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リヴィアニア王国の現国王は28歳のベルンハルト・ドゥ・リヴィアニア。
ベルンハルトが結婚し、第一王子が産まれ1歳になった時、父である国王が退位し、王妃と共に隠居した。
彼は23歳で即位し、2歳年下の王妃ユーリアと現在6歳と3歳の王子がいる。
ベルンハルトには2人の弟がおり、22歳のエルヴィン、18歳のアルフォンス、ともにまだ独身である。
エルヴィンの方は外交関係を得意とし、国王をそっち方面で補佐している。
下の弟は魔力が強かった事もあり、現在王国軍副総帥として王国軍魔道士部門を束ねて、防衛方面から国王を支えている。
お互いの足りない部分を支え合い協力してリヴィアニア王国の繁栄を導いている。
性格が良いのか、前国王の育て方が良かったのか争いもなく、兄弟仲は非常に良い。
そして彼ら3人の父親が森の中から連れて帰ってきた少女に対しても、すでにベルンハルトの婚約者であったユーリアと共に兄姉妹のように接し、過ごしてきた。
特に一番年の近いアルフォンスは魔力の事もあり、何においても少女を気にかけていた。
言葉も発せれず、名前も無かった少女に
「レーツェル・シュヴァルツ」
と名前を贈ったのも彼、アルフォンスだった。
王宮の奥の離れに住むようになった彼女にほぼ毎日会いに行く。
軍の遠征時には仕方ないが、それ以外の日は朝会うことを前提に予定が組まれている。というか組んでいる。
彼女の住む離れで朝食を取り、彼女の身支度を手伝って、彼女の耳飾りの自分の瞳と同じ色の紫水晶に魔力を込めてからその日の公務を行うのだ。
本来なら王弟で、軍の副総帥でもありこの国最強と呼び声高い魔道士でもある彼は、結婚適齢期でもあるため、同じ様な適齢期の娘を持つ貴族達からみたら、婚約者でもない、身元もわからない少女に毎日会いに行っていると言う行為は許しがたいのではあろうが、何せ前国王が連れてきて現国王他、王室関係者が認めているため文句のつけようがないのである。
それでも言いたい奴はいるので、レーツェルは必要最低限以外離れからは出ないようにしている。
3日ぶりに会った2人は朝食を食べながら、会わなかった間の報告をしていく。
基本アルフォンスがいない時はレーツェルは離れから出ないので、ほぼほぼアルフォンスの報告となるのだが。
「レーツェル、今日明日の予定は?」
「今日は何も。明日は王妃様のお茶会に呼ばれております」
「あぁお仕事か、了解。では明日は朝食後は準備だね。私はその後ちょっと討伐に行ってくる」
本来ならまだ15歳のレーツェルは社交界デビューもしていないので貴族の方々が出席するお茶会などには呼ばれないのだが、王妃様主催のお茶会は別の理由で何度か出席している。
もちろん王妃の妹分としての扱いもあるのだが、それよりも護衛としての役割が大きい。
レーツェルは前国王と前王妃から知識や教養、マナーや振舞いなども叩き込まれたが、体術や護衛術、剣術などに関しても徹底的に叩き込まれていた。
女なのに、と周りから言われたが、性別云々の前にレーツェルの教えられたことを吸い込み、身につける力が半端なかったのである。
教えられたことをほぼ一度で覚え、使いこなせる能力は凄かった。
教える者からしたら楽しくなり、じゃあこれはできる?あれはできるか?と色々教えたくなるらしい。
そうして5年前に退位し、ルカリスティア公爵となり王宮近くの領地に隠居した前国王と前王妃の屋敷で3年近く全てにおいてスパルタ教育(本人はスパルタとは思っていないが)を受けたレーツェルは13歳にして完璧に近い淑女に仕上がっていた。
13歳で王宮の離れに戻ったレーツェルは、その足で王宮内の軍部に連れていかれ、腕試しとして王国軍の騎士部門の者達と対戦させられたが、ほとんどの者達がわずか13歳の、しかも女の子に倒された。
彼女とまともにやりあえたのは上位の者達だけだった。その時のことは今でも語り草となっている。
前王妃のルカリスティア公爵夫人と現王妃のユーリア様主催のお茶会限定だが、むさ苦しい男の護衛よりは可愛らしいレーツェルの方が雰囲気を壊さなくていい、との事で護衛係も兼ねて出席しているのだ。
レーツェルの強さが分かっているから騎士団の方からも文句がないし、やはりどんな時でも女性の側につけるというのは助かるらしく、その時ばかりはレーツェルにお仕事としてお誘いが来るのだ。
レーツェルの事を分かっている2人の主催だけに招待される方々もレーツェルに好意的な方々しか来ないので、アルフォンス達兄弟もこの仕事については黙認している。
「……討伐とは?帰ってこられたばかりなのに何か問題でも?」
レーツェルは心配そうにソファの隣に座っているアルフォンスに問いかけた。
「微妙に魔獣達が騒がしくてね。昨日まででかなり抑えたんだが。少し加護が薄くなってきたのか、防御壁が破られやすいような気はする」
輝くような銀髪をさらりとかきあげ、美貌の青年は続ける。
「まあ、明日は討伐というよりかは防御壁の点検と強化という所かな。そんなに遠くではないから夕方に戻れるはずだ」
と、紫の瞳を細めて微笑みながらレーツェルの髪を触りながら答える。
腰くらいまであるレーツェルの黒髪をアルフォンスは器用に編み込みしながら纏めていく。
「無理なさらないでくださいね」
と、アルフォンスが長い黒髪を整えていく間、動かず大人しくしているレーツェルが心配する。
「そろそろ自分が竜化して精霊達とも対話して、加護の力をと思うのだが、こればかりはわからないし、俺が竜化するとも限らないしな」
小さい時から竜化するならアルフォンス殿下ではないかと言われ続けているが、こればかりは本当に本人もわからないし、いつなるか、どのようになるかさえもわからない。
違う人がなるかもしれないし。
「まあそうなったら、俺の契約者はエルヴィン兄上かレーツェルに頼むからよろしくな」
アルフォンスはレーツェルの髪の仕上がりを確かめながら微笑んだ。
「私には無理ですからね」
とレーツェルはいつも答えている。
竜化した者は自分の契約者を1人定めて、自分の人間としての意識を保つための協力者として繋がってもらうのだ。そして人から竜になる時、竜から人に戻る時に導く役割も果たすと云われている。
竜化する人も契約者も多くの魔力が必要と云われているため、レーツェルは魔力のない自分には無理だと思っている。
「もしアルフォンス殿下が竜化された際は契約者様の御身はこの身にかえてもお護りいたしますから」
――その為に強くなろうと思いましたから。
「……レーツェルの事は俺が護るよ、よし仕上がった」
今日は上の方だけ編み込んで、下の方はそのまま流している。用事のない日はなるべく黒髪を流している。レーツェルの好みではなくあくまでアルフォンスの好みだ。
そして最後に左耳についている紫水晶に唇を近づけて魔力を移して朝の日課は終了となる。
「今日もありがとうございます、アルフォンス殿下」
「いつになったら殿下呼び止めてくれるの?昔みたいにアルがいいのに」
頬を少しふくらましたアルフォンスが言う。
「あの頃は立場も分からず、言葉の発音もままなりませんでしたから、失礼をいたしておりました」
にっこりと微笑んだレーツェルが答える。
「そのままで良かったのに。じゃあまた明日の朝来るね、本当はこのままここで一日居たい所だけど書類が溜まっているからテオに叱られるな」
テオはアルフォンスの侍従だ。確かに3日遠征に行っていたのだからその間の王弟殿下としての仕事が滞ってはいるだろう。さらに明日また出るとなれば今日中にしてしまわなければならない用事は少なくないはずだ。
入ってきた窓からまた出ていくアルフォンスをレーツェルも立ち上がって見送る。
「ではまた明日」
軽く手を上げ、銀髪の青年が見えなくなるまでレーツェルは見守っていた。




