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「始め!」
二人が長剣を構える。
レーツェルがアルフォンスのマントを抱え持ち、ゲルト総帥の横で見守る。
アルフォンスが声を出した。
「一息で倒されるのとジワジワとゆっくり倒されるのとどっちがいい?」
「?は?何言ってんのあんた」
……王族をあんた呼び……知らないって怖い。周りの部隊長達もこころなしか顔色が悪くなってきたような、でも楽しんでるような……。
「選ばせてやる、どっちがいい?」
「……どっちもごめんだね!ってかやられないし!」
「じゃあ、レーツェル!どっちか選んで」
「?」
私?何で?
「選んでやれよ、どっちで引導を渡すか」
ゲルト総帥がクックッと笑いながら言ってきた。
一息とジワジワって、自分だったらどっちもごめんなんだが、どっちがマシなんだろう。
「……じゃあ一息で」
「わかった」
と、微笑みのようで微笑んでないアルフォンスが答えた。
―――それは一瞬の出来事だった。
アルフォンスが一歩前に出たかと思うと、気づいたら相手の懐に入り込んで、剣を持っている右手を振り払い彼の剣を落とす。
剣が離れた右手を左手でクイッと引っ張り、体制を崩させて背中から倒す。
そして心臓に向けて縦に剣を振り下ろす。
その剣先は隊服ギリギリでピタッと止まった。
地面に背中をつけて倒れた彼を剣を突き付け見下ろす体でアルフォンスが宣言する。
「終了」
「それまで!」
ゲルト様も声を上げる。
本当に一息だったな、と思っているとアルフォンスが彼から剣を離しこちらに向かってくる。
新人君は何が起こったのかわからない感じでまだ起き上がれない。部隊長の一人が確認に向かう。怪我はないはずだ。
アルフォンスもまだ18歳、もうすぐ19歳で新人君とは三年も違わないのだが、これまで積み重ねてきたモノが全然違うのだ。こればかりは仕方ない。
新人君も起き上がらせてもらって、端の方まで連れて行かれている。アルフォンスがそばに来たのでマントを渡す。
「少しは手加減してやれよ」
ゲルト様が呆れたように言う。
「手加減してるぞ。怪我させてないだろう?」
ちょっと不機嫌に答える。
「もうちょい心広くなれよ。まだまだお子様だな」
「悪かったな、心狭くて」
親子程年の離れた二人だがアルフォンスが小さい時から教えて貰っているので公式の場以外ではこんな感じだ。
レーツェルがちょっと笑っているとアルフォンスが
「今度から一人で来るの禁止ね。最初から隣にいれば寄らせなかったのに」
「……私は大丈夫ですよ?」
と、微笑むと
「だからその顔は他の人に見せちゃ駄目です」
「惚気けてるとこ申し訳ないが、次俺とレーツェルなんだが、試合してもいいか?それともお前とするか?」
俺はどっちでもいいんだが、何なら二人でも、と。
「んーレーツェルどうする?疲れてるんなら私だけでもいいし」
「いえ、休ませて貰いましたし、ゲルト様と出来る機会も少ないのでよければ」
させていただきたい、と答えると、
「じゃあレーツェル先に。その後私ともお願いします。レーツェル、思いっきりやって総帥疲れさせといて」
「誰が負けるかよ」
と、開始位置に向かう。アルフォンスがいるので真剣で勝負だ。
「よろしくお願いします」
「始め!」
アルフォンスが開始合図の一声をかける。
この前のカイル様の時と同じようにこちらから仕掛けて好機を伺いつつ細かい攻撃を続ける。
しかし流石にこの王国軍トップ、そう簡単には攻撃が届かない。ことごとく跳ね返される。
5分経った頃、アルフォンスの声が響く。
「止め!終了」
とりあえず引き分けで。これ以上長い時間だとどうなるかわからない。
「じゃあレーツェル、合図よろしく」
と私と入れ替わりで開始位置に向かう。またマントを渡される。
「おいおい、俺は休憩なしかよ」
「いらないでしょう?」
始めていいのだろうか?考えていると
「レーツェル、合図ちょうだい」
あ、いいんですね、では。
「始め!」
「ずるいぞ!」
ゲルト様が叫ぶ。
「それもまた戦略です」
二人の剣が交わる。力の押し比べだ。こればかりはレーツェルにできない。
元々の筋肉量の違いか、鍛えてもアルフォンスやカイル様、ゲルト総帥並の剣の振り下ろしの重さはどうしても手に入らなかった。
ないものは仕方ないので他の所を利点にして、攻撃していくしかない。
幸いにと言っていいのかはわからないが、指導者である影達から色んな方法をいくつも学べたので、その中で自分に合ったものを伸ばしていった。
アルフォンスとゲルト様は互角の戦いで剣が交わる音だけが響いている。もうすぐ5分になるので、そろそろ止めようかと思った所で、カキン!ひときわ高い音が鳴る。
ゲルト様の剣が飛んだ。
「それまで!」
レーツェルが叫ぶとふうっとアルフォンスが息を吐き剣を下ろす。
「……ヤラれた、ちきしょう」
「レーツェルのおかげですね。私だけだと無理でしたね」
二人がかりでなんとかなので、まだまだですよ、総帥、と本気なのか冗談なのかわからない感じである。
周りの見学の兵士達から拍手が巻き起こる。
「すげー俺総帥負けたの初めて見た!」
「いや、三人とも凄かった!剣筋見えないし」
「どうやったらあんな動きできるんだ、ってかお互い見えてるのが凄いな」
色んな感想が聞こえてくる。
「レーツェルもありがとな。怪我ないよな?」
とゲルト様が聞いてきた。
「ないです。私の方こそありがとうございました。また次も是非お願いします。ゲルト様もお怪我はないですか?」
「ああない。しかし今度は二人連続は止めておこう、一人ずつな。休憩入れるぞ」
「まだまだそんなお年じゃないでしょう?」
とアルフォンスが苦笑しながら言うと
「……鍛えなおすかな」
と、笑顔で返してきた。アルフォンスにマントを渡す。
「では今日はこれくらいで。また今度是非。しばらく忙しくなるので落ち着いたら相手してください。レーツェル、帰ろうか」
「はい。ゲルト様、皆様ありがとうございました」
と、兵士達に向かって頭を下げる。兵士達も
「「ありがとうございました!」」
と、一斉に言ってきた。耳が痛くなるほどだ。
そうしてマントをはおり直したアルフォンスと共に訓練場を後にした。
仲睦まじく微笑みあいながらその場を後にする二人を見ているまだ少年に近い男にゲルトが近づく。
「怪我ないか?」
突然話しかけられ驚いたが、気を取り直して
「っ大丈夫です、総帥。あ、あの」
「もし後から痛みが出たら俺でも部隊長にでもいいからちゃんと言えよ。責任もってアイツに治させるから」
「……アイツ?」
「お前とやったひょろ長い男だよ。回復魔法かけてもらうから」
そういえば魔道士の隊服だったと思い出してると、
「すまなかったな、けしかけたみたいになって。訳わかんない間にやられただろ?」
二人共、と聞かれ
「はい、気づいたら剣を弾かれ、突きつけられていました。実際何が起こったのか今でもわかってないです」
と自分の右手を見て答えた。
「……アイツら二人共、ちょっと複雑でな、特殊な環境で育ってきたんだわ」
と、ゲルトは一呼吸置いて
「お前さんと二つぐらいしか違わねぇし、レーツェルにいたっては年下だが、さっきみたいに俺でも敵わない時があるくらい」
二人は強い、と。
「それにアイツは剣もあの腕前で、さらに魔道士としても一級品だ。もし魔法も使われたら誰も敵わないだろうな」
………そんなに強い相手に俺は、と顔色を悪くしていると、
「まあ、どんな相手でも向かっていくってのは悪くはない。今のは特に味方内でのことだから訓練としてはいいと思う」
ただ、と
「本当の戦場になったらまた話は別だ。できれば戦う前に相手の力量を判断して、敵わないと思ったら戦うな。命より大事なモンはないんだからな」
「……はい」
「アイツらみたいになれ、とは言わない。あの二人は特別だ。小さい時からお互いに、お互いの弱点にならないように育ってきたからな。普通じゃない」
だから、
「悪いことは言わない、アイツらには手を出すな。あの二人は離れない。二人より強くなることもまず不可能だ。諦めろ」
「……で、でもがんばれば」
「あの二人は今まで途方も無いことをしてきてあの位置にいる。普通の人間が追いつこうとしてもまず無理だ。それに言わないでおこうかとも思ったが、お前さん、アイツ、誰か知ってるのか?」
しばらく考えてから
「いえ、魔道士部門の隊服だったから、魔道士なんだろうなぐらいです」
「だろうな、知ってたらあの物言いはできないわな。教えといてやるよ、アイツは、ああアイツなんて言ったら駄目だな。彼は王国軍魔道士部門のトップで王国軍副総帥の肩書き持ちだ。名前はアルフォンス・ドゥ・リヴィアニア。顔を見た事なくても知識として知ってるだろう?」
魔道士トップ、副総帥、名前に王国名までつけば貴族でなくてもこの国の民なら知っている。思い当たるのはただ一人だ。
――――顔から血の気が引くのが分かった。
「……あ、王弟殿下……?」
「だな」
見えないかも知れないがなとゲラゲラ笑いながらゲルトが答える。
「……あ、俺、もしかしてヤバいですか……?」
「いや、あいつはそんなこと全然気にしねぇよ。寧ろその肩書き邪魔だろ」
「でも…」
「大丈夫だ。なんかあったら俺に言えよ。まあそんなことはまずないとは思うがな。反対に顔覚えてもらえたんだ、これからがんばれば良い方に向うと思うぞ」
「…そんなものですか…?」
「そんなもんだ。だからこれ以上あの二人の仲の邪魔はしないでやってくれな」
あの二人の邪魔するんだったら俺が許さんぞ、と言ってゲルトは去っていった。
一人残された男は、あの去り際の二人の間の雰囲気には絶対割り込めないだろ…と思いながら同期の者達の輪に戻った。
彼の淡い恋心はわずか数時間で終わった―――
その後しばらくは周りの兵士達は彼にとても優しかった………。
彼が三週間後にさらに驚愕の事実を知ることになるとはこの時点では知る由もなく。
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