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朝、今日はアルフォンスが来ないのでとりあえず髪の毛は軽くひとまとめにして、作業用の軽装に着替えて、エルゼと共に昨日譲って貰った薔薇の苗を場所を考えながら植えていく。
アルフォンスに運んでもらった肥料も使わせてもらう。
2年前にこの離れに来た時に庭は好きにしていいよ、と言われたので、ならば、とエルゼと二人であれを植えたい、これも、と考えたのだが、流石ににルカリスティア公爵領で庭の手入れは習わなかったので、アルフォンスにお願いして、庭師を紹介してもらった。
ジノ様は最初は教えてくれず、他の人に習っていたのだが、数回通っただけで、手入れの仕方や順番、果ては奥庭全部の花や樹木の名前と位置まで覚えてしまったレーツェルに目を剥き、認めてくれたのか、ジノ様も少しずつだが教えてくれるようになった。
一度教えた事をすぐに覚え、忘れず間違えないレーツェルに楽しくなるのは今までの指導者達と同じで、さらに気難しい人物ほど、レーツェルを可愛がってくれる。
これはレーツェルの性格と才能の一種だと思う。
そして2年経った今、離れの庭は素晴らしい庭園と化している。10代の女の子二人が創り上げたといっても誰も信じられないほどに。
今までの薔薇達の邪魔をせず、かといってせっかくの新種なのでそれなりの場所を確保して植えた。
あとはしっかり根付くのを楽しみに待つだけだ。
あとは掃除や洗濯などを片付けると中々いい時間になったので、騎士隊の訓練用の隊服に着替えてアルフォンスを待つ。
約束通り昼前にアルフォンスがやって来たので、エルゼと3人で軽くお昼ご飯をいただく。
食べ終わって、髪の毛を整えてもらうためにアルフォンスの横に座ると何やら考えている。
「どうかしましたか?」
「うーん、どうしようかな……」
と言いながら、櫛で梳かしている。
しばらく梳かして、手を止める。
「よし、今日はこれで」
と一つも結ばずそう言った。
「……横も無しですか?」
「うん、無し。大丈夫でしょ」
途中で結ぶかも知れないから紐は持っていくけどね、と笑顔で言っている。
エルゼが後ろから
「あら、久しぶりですね、全下ろし」
普段時のアルフォンスが来られない時はよく全部下ろしたままが多いのだが、訓練に行く時の全下ろしは意味が違ってくる。
レーツェルの髪はアルフォンスが丁寧にお世話をして、柔らかく艶も良く仕上がっている。アルフォンス渾身の作である。
そのため毛先を切ったりするのもアルフォンスだけであり、アルフォンスがいない時のエルゼ以外他の人には触らせない。
だから普通は訓練時は三つ編みや編込みなどで纏めて間違っても剣で切られないようにしているのだが、
たまに下ろしてハンデと称してレーツェルに動きの制限をかけて訓練させている。
もちろん、隊長クラス相手にはしないが、格下相手だとそれぐらいハンデをつけないとあっという間に終わって訓練にならないからだ。
長い髪は柔らかく軽いため不規則な動きになり、レーツェルは切られないように、そのことを考えながら攻撃しなければならない。
「初めての対戦相手なんですけど…」
「大丈夫」
ね?と言われました。
「……がんばります」
今日は騎士隊の隊服なので短剣は仕込まず、帯剣ベルトに二本長剣をセットして腰回りに付けていく。
アルフォンスも今日は魔道士隊の隊服で腰回りに長剣を二本、同じように付けていた。
普通、魔道士は剣術は得意ではなく、魔法で攻撃するため帯剣はしない。
だがアルフォンスは魔力も強いが剣術も強い。騎士部門に入ったとしてもカイル様と肩を並べていただろう。
魔法と剣術を組み合わせて攻撃したら多分、間違いなく王国一の攻撃者だろう。
だから彼も護衛はいらないタイプだ。
二人とも準備が出来たのでエルゼに行ってきます、と伝え、騎士部門の訓練場所に向かう。
訓練場所を上から見渡せる所で止まり確認して見る。すでに訓練は始まっているらしく、走り込みをしている隊や、模擬戦をしている隊などいくつかに別れて訓練をしているのがわかる。
模擬戦をしている隊の中に背中の真ん中辺りまでの長さの薄い茶色の髪を首の後ろで一纏めにしている女性が目に入った。
多分彼女がアメリ・ワナズア様だろう。
男爵家の絵姿で見た事がある。
「彼女かな?」
アルフォンスが確認してくる。
「そうだと思います」
新人同士の模擬戦なのか、確かに今対戦している男性よりかは強いような感じだ。
「どう思う?」
「それなりに動けてますね。女性の中では強い方だと思います」
あれだけできたら確かに自分は強いと過信しても仕方ない。
ただ護衛に必要なのは強さもだが、経験に裏打ちされた咄嗟の判断力だ。
多分彼女は家での剣術の先生との練習でここまで来たのだろう。ただ漠然と誰かと剣を突き合わせ回数をこなすだけである程度のレベルにはなれる。だが護衛や兵士に求められるのは、イレギュラー時の対処だ。
普段と違うことが起こると身体は一旦停止する。
その停止時間をいかに短くして事態に対処できるかだ。こればかりは剣の突き合わせの練習だけではどうしようもならない。
そのため新人は王宮警備などから始めて、侵入者や
揉め事の対処から学んでいくのだが。
それをすっ飛ばして王族の護衛に就きたいというのならかなりの実力を示してもらわないといけない。
王妃様の『レーツェルに勝てたらいいわよ』という言葉はある意味理にかなっている。
「さて、まずはレーツェルのお眼鏡に叶うかだな」
「私よりアルフォンスの、でしょう?」
どうかな?と笑いながら、下の訓練場に向かって階段を降りていく。
流石に顔は見た事なくてもその漆黒の髪の持ち主が誰かは皆知っている。更に王弟殿下と共に現れたものだから、訓練中の皆が手や足を止めてこちらを見ている。
「アルフォンス!レーツェル!」
奥の方にいたカイル様が声をかけてくる。気づいていなかった者も手を止めて一斉にこちらを見る。
―――思いっきり目立ってます……。
まあ人の目に晒される事は慣れてはいるし、更にアルフォンスと一緒というのも注目度倍増だ。仕方ない。
「カイル、すまない遅くなったか」
「いや、大丈夫だ。レーツェルもすまないな、ありがとう」
「いえ、私は全然」
カイル様と挨拶をしていると、好奇の視線の中に違う感情の視線を感じた。
――彼女か。
こちらを見ている。うん、中々いい度胸をしていますね。嫌いじゃないですね、こういうのは。
アルフォンスも気づいたらしく、カイル様に
「彼女か?」
「ああそうだ。わかりやすいな」
と軽く笑っている。
「私が来ることは伝えてあったんですか?」
「いや、都合が悪くなるかもしれないし言ってはない。まあレーツェルを見た時点で感づいてはいるだろう。しかし、今日はその髪形なのか?」
「アルフォンス殿下からの課題です。途中で結ぶかも知れませんが」
「結んだら是非私とも対戦頼むよ」
周りに何人か集まってきた。見知った顔ばかり、部隊長達だ。
「来るなら知らせといてくださいよ、カイル副総帥」
「そうですよ、予定変更しますよ」
「で、まずは彼女とですか?その時は全員見学でいいですよね?」
「そうだな。レーツェル、すぐ行けるか?ウォーミングアップいるか?」
さっと身体を動かしてみて、指を握ってみて、
「すぐでも大丈夫です」
「じゃあお願いするか。アメリを呼んでくれるか」
と、カイル様が部隊長の一人にお願いする。頷いて呼びに行く。
呼ばれたアメリ嬢がこちらに向かって歩いてくる。
――――さあ、駆け引きの始まりだ。
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