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 朝、いつも通りアルフォンスがやってきて、髪形を整えてくれた。


「今日、午後から準備できたら私の執務室来てくれる?そしたら一緒に図書館に行こうね」

「わかりました」


 じゃあ待ってるね、と左耳に口づけをして帰っていく。


 今までも魔力を耳飾りに移して貰うために口づけに近いことをしていたはずなのに、いざ求婚されて、了承してそういう関係になった途端、前と同じことをしているはずなのに、意識してしまうのはなぜだろう。

 顔が真っ赤になっているのがわかる。



 午前中は洗濯や部屋の掃除、庭の手入れなどいつもの雑用をこなし、軽く昼ご飯をいただいた後、王宮に向かう準備をする。


 一応警護などをする立場上、王宮内での帯剣は許可されてはいるが、簡単な造りでもドレスの時はガッツリ腰回りにつけられる訳ではないので足に短剣を何本か忍ばす程度である。

 太もも辺りと足首辺りにセットする。ドレスも加工されていてめくらなくても短剣が取り出せるようにある部分から手をいれれば届くようになっている。

 スカートをめくって素足が見えるなんてもっての他だーとアルフォンスの渾身のデザインのドレスである。


 今日も一応短剣をセットして準備完了である。エルゼに行ってきます、と伝えて歩いて王宮内のアルフォンスの執務室へ向かう。




 離れから少し歩くと王宮の奥庭と呼ばれる庭園が広がる場所につながる。

 時期によっていろんな花が咲き乱れる。王宮の庭師達がいつも手入れをし綺麗に保たれている。


「おや、レーツェル、今日は仕事かい?」


 レーツェルの姿を見つけた王宮一と言われる庭師のジノが声をかけてくる。

 小さい時からこの道をよく通り、公爵領から戻って来た後、離れの庭の手入れを自分達でするためにエルゼと二人で彼に弟子入りしたのだ。

 最初は渋っていた彼も何でも吸収してすぐに自分のものにするレーツェルに驚き、楽しくなり、色んなことを教えてくれたのだ。


「今日はアルフォンス殿下の所へちょっと」


「帰り寄れたら寄ってけ。新しい薔薇の苗が手に入った。そっちの庭にも合うだろうから持っていけ。準備しておくから、俺がいなくても誰かに言えばわかるようにしておく」

 今日ダメだったら明日でもいいぞ、と。


「ありがとうございます、是非いただきにきます」

 

 こんな風にレーツェルを気にかけてくれる人は王宮内に何人かはいる。大体が一度でもレーツェルと話したり仕事したりしてレーツェルの素直さや勤勉さなどを理解して見た目など関係ないとわかってくれた人達である。


 まあ話しをしてくれるまでが一山あるのだが。やはりこの黒髪黒瞳のため遠巻きに見られて話すなどはもってのほかという方々が多く、特に貴族の皆様方は見て見ぬふりの姿勢を貫いている。

 ルカリスティア公爵やアルフォンスの庇護があるので表立って攻撃してくる人はいないが。



 奥庭側からの王宮入口の扉の前に立っている兵士達に挨拶をし中に入る。

 長い廊下を王宮中央区に向かって歩く。陛下ら三兄弟と王妃の執務室や居住区がある王族専用エリアがそこにある。

 そちらに向かいマナーの見本となるような姿勢と歩き方で進んでいく。遠巻きに見られるのもなれたものである。


 いつもは廊下を歩いていて誰かとすれちがっても、レーツェルの方が端に寄るし、向こうも目を合わせずに足早に歩いていくのだが、今日は様子が違った。


 向こう側から3人のご令嬢が歩いてくるのが見えたため、いつも通り右端に寄り、すれちがおうとすると目の前を塞がれた。


 廊下は広いため、3人と1人くらいかなり余裕をもってすれちがえるはずなのだが……。

 ということは、わざとですかね、と思っていると一番前のご令嬢が口を開いた。


「何故、ここに身分のない方がいらっしゃるのかしら」

「本当にこんな所にまでどうやって入り込んでいらしたのかしらね、兵士達は何をしているのかしら」

「いやだわ、こんな不吉な色の髪」

「どうして殿下方は近くに置いてらっしゃるのかしら」

「まあ憐れみもありますでしょうし、お優しい方々ですから、ねぇ?」

 

 言いたい放題、わざわざ止まって言われたのは初めてじゃないかしら、と考えていると、


「ちょっと!聞こえてらっしゃるのかしら?それとも私達の言葉が理解できないのかしらね?」

「まあ教育もまともに受けてらっしゃらないのかしら?そんな方が王宮に出入りするなんて」

 笑い声と共にと下の方から聞こえてくる。


 なんせレーツェルは170cm近くあり、ご令嬢方は150cmから155cmといったところか。向こうからは見上げる感じだし、こちらも目線を合わせるのはちょっとつらい。


 まあこんな事もあると知識としては知っていたが面と向かって来られるとは。

 さぁどう対処しようかな、売られた喧嘩は喜んで買いますが、と思ってもう一度お三方の顔を見る。


 一番前が侯爵家、男爵家が二人。記憶している絵姿で顔と名前を一致させる。

 

 あれ?この家名どこかで……あ、あの手紙の束だ!


 『覚えておいてね』ってこういう事か……。


 ということはこのご令嬢達はアルフォンス狙いで明らかに私が気に食わない方々ですね。一ヶ月後に向けて牽制をしにきたと言う事でしょうか。

 しかし、このやり方は逆効果ではないかしら、とか心の中で思っていると、無視されていると思ったのか、

「ちょっと!喋れないわけではないでしょう?何か言う事はないの?!」


 さあどうしようかな?私が怯えて返事もできないと思っているのか段々とヒートアップしてくるご令嬢達。


「本当に教養がないのね!返事もできなければ、何かしらそのドレスも品がないと言うか」

 クスクスと笑う声が聞こえる。

「髪形も暗いなら暗いなりにまとめたり切ったりすればよろしいのに。ああ伸ばしっぱなしという発想しか浮かばないのかしら」

 3人ともレーツェルが反撃しないと思い好き放題言ってきた。



 ドレスと髪形のことに触れられて、レーツェルが静かにキレた。


 普段抑えている気配がレーツェルを纏う。戦いの時の殺気に近いオーラを醸し出すレーツェルに令嬢方がビクつく。周りの空気の温度が下がった感じだ。

 

 漆黒の瞳が令嬢達を睨みつけると彼女達は一瞬にして動けなくなった。声も出ない。

 訓練を受けている者でもこの殺気にあてられると厳しいだろうに、蝶よ花よと育てられた令嬢達だとひとたまりもないだろう。立っているのがやっとという感じか。

 それだけドレスと髪形を貶されたレーツェルの怒りが凄まじいという事だ。

 

 自分の事だけを貶されるのならいくらでも耐えられるが、知らないとはいえ、その二つはアルフォンスを貶されるのと同義だ。許す訳にはいかない。


「な、なによ、睨むなんて。やっぱり生まれのわからない……」

 やっと振り絞って侯爵令嬢が声を出した所で、後ろから声が響いた。



「こんな所で何をしていらしてるのですか?」



―――宰相のイーヴォ様である。



「……イーヴォ様」

 レーツェルがオーラを解く。空気が元に戻る。


「レーツェル嬢、何かありましたか?」


「いえ、何もありませんわ、イーヴォ様」

 にっこり笑って答える。

「?そちらのご令嬢方は」

 イーヴォ様に見られてビクッとなるお三方。


――ビクつくくらいなら構ってこなければいいのに。


「ああ、ルージュナ侯爵家アデルナ様にレカヒト男爵家マルガレータ様、ユピドア男爵家リーザ様でございます。今通りすがっただけでございますので。そうでございますよね?」

 と、目線を合わせてみる。肩をビクッと震わせたご令嬢方は


「そ、そうですわ、何でもございませんわっ」


「双方何もないとおっしゃるならよろしいですが。レーツェル嬢、アルフォンス殿下がお待ちではないのですか?」

「はい、今伺う所です」

「お待たせしないように。あと王宮内での出来事は報告してあげてくださいね」

 流石にイーヴォ様には感づかれてますね、チクッとご令嬢方に釘をさしてきましたね……。

 

「報告することなど何も。ねぇアデルナ様?」


 真っ青な顔のお三方。男爵家の2人は震えているようにも見える。アデルナ様がやっと声を出す。


「そうですわ、な、何もありませんわっ!っ失礼いたしますっ!」


 慌てた様子で踵を返して足早に見えなくなった。あの歩き方は減点ものだな、とレーツェルが思っていると、イーヴォ様が口を開く。


「手助けは不要でしたかね?」

「いえ、助かりましたイーヴォ様。何せはじめての事でしたので」

「しかしか弱いご令嬢にあの『気』はやり過ぎですよ、しばらく思い出すでしょうね」

 とクスクスと笑いながら言われた。やはりバレてる。


「近くで見ていた兵士がまずいと思って誰かいないかと探しに来たところにたまたま私が通りまして。でもあの殺気は私も声をかけるのを躊躇するほどでしたよ」

「……申し訳ありません、ちょっと我を忘れてしまいまして。今後気をつけます。まだまだですね、私」


 ではアルフォンス殿下の所に向かいますか、途中までご一緒しますと言われ連れ立って歩きだす。


「あの手紙の束は役にたちましたか?」

「陛下はあの時点で分かってらしたんですかね?この状況を」

「多分何人かは直接来るとは思っておりました。こんなに早いとは思いませんでしたが。あなたがいつ通るかもわからないのに待っているのも大変でしたでしょうね」

 と楽しそうにクスクス笑っている。


「あの対応で良かったのでしょうか?」

「大丈夫だと思いますよ。相手はレーツェル嬢の記憶力を知らないと思います。まさか王国貴族の顔と名前を一目で一致させられるなんて思ってもみないでしょうから、さっと言う事をだけを言って帰れば特定されないとでも思っていたのでしょう。あのお三方は今頃フルネームを言われて震えているでしょうね」

 さらにイーヴォ様に暗にアルフォンスに報告を、ととどめを刺されてもいる。

 この事が広まれば同じ事を仕掛けてくる輩は出てこないだろう。来るとすれば、よっぽどの考え無しか。


「もしかしたらまだ来るかも知れませんが今のような対応で。お名前を言って報告させていただきます、でいいかと」

 思いますよ、あと少しの間なので、とおっしゃって下さった。

「流石にレーツェル嬢相手に武力行使してくる輩はいないと思ってます」


「……ですよね、その場合は返り討ちという対応でよろしいでしょうか?」


「よろしいと思います」

 とクスクス笑ってる。と二人で会話しながら廊下を歩いていると、向こうから人影が見える。


 アルフォンスだ。


 まだ約束の時間には早いが、と思っていると駆けてきた。


「レーツェル、なんかあっただろう?」


 目の前に来ていきなり当てるもんだから、一瞬動きが止まってしまった。


「隠し事はできませんね」

 と隣でイーヴォ様が苦笑している。


「隠すつもりだったのか?イーヴォ、何か知ってるのか?知ってるなら教えろ」

「私も最初からは知りませんよ。まあ予想はつきますが。私が見た事だけは陛下にご報告いたします。詳しい事はレーツェル嬢にお聞きくだされば」

 と、手を振り陛下の執務室の方へ向かって行った。


 残されたレーツェルはどうしようかと思案していると

「怪我はないんだな?」

 と、聞いてきたので、


「ないです、何故」

 そう思ったのか聞こうとしたら


「とりあえずここではなんだし私の執務室へ」

 と、連れて行かれてしまった。





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