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青い空と白い雲が広がる、リヴィアニア王国。
その国は昔から精霊達に愛され、精霊達の加護があった。
そこに住む者達は皆、僅かながらでも魔力を有し、魔法を使い、生活をしてきた。
魔力や魔法と言ってもほとんどの者は簡単な物、例えば部屋に明かりを灯すための小さな火をつけたり、水をお湯に温めたりとかだ。
ごく稀に強い魔力を秘めた者は、その力を国のためにと、魔道士と呼ばれ、軍や城に所属し仕事として仕えている。
その魔道士達の国防力のおかげもあるのだが、このリヴィアニア王国が隣国や他国に攻められる事なく長い間繁栄し続けてるのにはもう一つ理由がある。
それは精霊達の中でも最強と言われる竜の加護があるからだ。
リヴィアニア王国の端の方に広がる森には魔獣と呼ばれる人成らざる者達が暮らしているが、その者達が森から出て人を襲ったりしないのは昔から竜による加護の力が働いていると言われている。
実際、何十年程に1度の周期で竜が人前に現れ力を使うと伝えられている。
その現れる竜は普段人なのだが、力を使う時だけ竜化するとも伝えられている。
魔力の強い者がなる、とも色んな言い伝えがあるがよくわかってはいない、どういう風に竜化し、力を使い、また人化するのか。
ただ1つわかっているのは、その竜には必ずそばに仕える者がいると言う事。
竜は人と契約し、その力をその者のために使うと言う事。
そして今までリヴィアニア王国の繁栄と安寧を護ってきた。
そんな竜と精霊達の加護のあるこの王国の王都ラーズの真ん中に位置する王宮。
豪奢な王宮の建物の他、奥に森が広がるこの土地全体にも強大な結界で覆われている。
そんな王宮の奥、森の入口近くに1つの立派な建物がある。
王族が住んでると言ってもおかしくないような、豪華な造りだが、少し変わっているのは2階建ての高さがあるのだが、中は天井が高い平屋造りの建物だった。
庭に出られる様になっている部屋の窓も特別仕様のような高さのある大きいガラス張りとなっている。
朝日を取り込むようにその窓を開けて腰の位置まである長い綺麗な黒髪を揺らしながら1人の少女がバルコニーに出てくる。
少女と言ってもかなりの高身長で、170cm近くあり、
この国の女性としてはかなり高い。
その朝日を浴びて彼女の左耳にある紫水晶の耳飾りが眩しく光をはなっている。
長い黒髪と漆黒と呼ぶに相応しい黒瞳のたとえようのない美しさが凛とした佇まいと相まって、見た者の心を一目で掴んでしまいそうだ。
「おはようございます、レーツェル様」
そう呼ばれた少女は振り返り、部屋に戻る。
「おはよう、エルゼ」
エルゼと呼ばれた侍女服を着た女性が部屋の中の朝の準備を開始する。
レーツェルと呼ばれた黒髪の少女も自分でクローゼットの中からシンプルで動きやすそうなドレスを出し、1人で着替える。
その間に先程の開け放たれた窓のそばのテーブルに二人分の朝食の準備が並べられる。
「今朝はいらっしゃるの?」
レーツェルがエルゼに問いかける。
「昨晩遅くに帰られたそうですが、明朝必ず行くとの伝言があったそうですよ」
と優しい笑みを浮かべて答える。
「今回の討伐遠征、3日間でしたけどお疲れではないのかしら。無理なさらなくてもいいのに」
「レーツェル様にお会いするのが何よりの回復薬かと。あ、いらっしゃいましたね」
エルゼが答えるのと同時にレーツェルは窓に向かう。
王宮からこの離れに繋がる道を向こうからやってくる人物が目に入る。
朝日を浴びて眩いばかりの銀髪と深い紫色の瞳の青年が足取り軽くやってくる。
レーツェルの姿を確認するとさらに速度を早めて向かってくる。
あっという間にレーツェルの前に立つと、190cmはあろうかという体格で背の高いレーツェルをものともせず抱え上げた。
「ただいまとおはよう、レーツェル」
「おはようございます、無事のおかえりなによりです、アルフォンス王弟殿下」