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可愛い皇女様

私の可愛いお姉様は、誰にも譲らない!

「好きだと伝えたいだけなのに全てが嫌味っぽく聞こえてしまう可愛い皇女様」の派生作品です。

クスッと笑っていただけると嬉しいです。

 退屈な日々に飽き飽きしていた。

 私の世界は常にモノクロ。決して色づくことのないフラットな景色。

 正直、私はこんな人生を送ることに疑問を抱いていた。

 私を楽しませてくれるもの。気分を高揚させてくれるもの。ひたすらに渇望してしまいたくなるもの。そんな私を突き動かすような大切な何かを探し求めては、それを見つけられないということを繰り返す。


「つまらない……」


 私にとって、世界はただ生きていくためだけの場所。そこに幸福なんでのはなかった。

 私はレイテ姫。

 人前では、嫌われないように理想のお姫様を演じた。

 表社会の反対側にある闇にも足を踏み入れた。私が創設し、拡大した裏組織は、裏社会ではある種有名な集団となった。

 富もあり、権力も、そして物理的な力さえも掌握した。……けれども、この心が満たされることはなかった。


 ……唯一、私の心を揺るがす存在がいた。


 お姉様だ。


 コウカ皇女。物言いが厳しく、お城の内外で悪い噂が絶えない。

 以前、お城の掃除中に使用人が話している内容を聞いた。


「皇女様、また側仕えのに酷い仕打ちをしたんですって」

「可哀想に……傷はどんなものなの」

「外傷は見ていないわ。きっと服の中はアザだらけになっているのでしょうね」


 お姉様のことを何も知らないくせに。


「勝手なことを……」


 根も葉もない噂を流している使用人に私は憤慨してしまった。

 だってお姉様は、そんな酷いことをするような人ではないのだから。

 しかし、お姉様が周囲に誤解されているのにはちゃんと理由がある。お姉様は優しさの表現が極端に下手なのだ。素っ気ない態度ばかりを取り続けてしまったせいで、お姉様の評判は地に落ち、冷酷で残忍な皇女様という不名誉なレッテルを貼られてしまうことになってしまった。


「可哀想なのは、お姉様の方よ」


 悪い噂はお姉様を傷付ける。本当に悔しかった。

 ……けれども、そのことに関して、デメリットだけではなかった。

 お姉様の悪評が広まるたびに職業としてのお姉様専属側仕えの人気は落ち、お姉様に近付く者が少なくなった。これはつまり、側仕えがお姉様に仕える期間が減少して、私がお姉様に接触する機会が増えるということ。


「……私のお姉様。私だけのお姉様。私だけがお姉様を愛してあげられる」


 他の誰にも理解されなくていい。理解したところで、そいつらはお姉様の優しさに漬け込んで利用しようとするだけの最低な人間ばかりだ。

 それならいっそのこと、お姉様の優しさは私だけが理解していればいい。


 ……お姉様に命を救われたあの日から。


「私は、お姉様に夢中なんだから……」


 だから、私がお姉様を守るの。

 幸い、私の評判はかなりいい方であると自負できるほど。私に隠れて、私のことを聖女様のようだと崇め奉るような人達が多数存在していることも分かっている。

 お姉様を守るのに必要なものは既に持っている。

 胸を張って堂々と私はお姉様の前へと向かえる……はずだった。


「新人の皇女様専属側仕えの子が決まったそうよ。ディランって子」

「へ〜、男の子なんて珍しいわね」

「男の子を登用するくらいに、皇女様の側仕えの募集に困っているみたいね。けど、今回の子も多分すぐに消えちゃうんじゃない」

「こらっ、誰かに聞かれてたらどうするの……でも、確かにディランって子には気の毒だけど」

「ディランくんは、辞職するのか、それとも行方不明になっちゃうのか」

「せめて私たちだけでも、心のケアをしてあげましょう」

「そうですね」


 お姉様に新しい側仕えが決まったそうだ。まあ、どうせ一月もしないうちにお姉様のことを怖がって逃げ出すことだろう。


「さっさおお姉様から離れればいいのよ」


 お姉様は絶対に暴力を振るわない。ただ勝手に近くにいる人が誤解して、勝手に怖がって離れていくだけのこと。万が一にも、お姉様に危害が加わらないように監視を付けとかないとね。


 新しくきた側仕えのディランという少年は、お姉様にどのような言葉を浴びようとも平然と変わらぬ態度を貫き通していた。まるでお姉様の意図をちゃんと理解しているかのように、言葉に込められた真意を見透かしているかのように、お姉様を恐れることのない瞳が、私に危機感を覚えさせた。


「あいつは……あいつはダメ!」


 本能的にあの男はお姉様から引き剥がさないといけない気がした。言葉にし難いモヤモヤした暗い感情が次から次へと溢れ出てくる。抑えが効かない。どうしても、お姉様の隣で変わらない忠誠を誓っているあの男のことを憎らしく思えてしまう。


 今までこんな感情になったことはなかった。


 この感情は一体なんなのだろうか。自分のことなのに結局分からないままだった。

 私のお姉様を奪い去る盗人。

 あり得ないわ。あり得るはずがない。お姉様の理解者は私だけなのだから。


 数ヶ月間が経過しても、ディランはお姉様の側仕えを辞める素振りを見せなかった。

 我慢の限界だった。


「失礼します。私に何か御用でしょうか」

「はい。取り敢えずここに座ってください。今お茶を出しますね!」


 だから、私は彼を呼び出した。

 彼の素顔の裏に隠れた仮面を暴いてやろうと思った。

 ニコニコとした柔らかい表情を保ち、理想のレイテ姫を演じ、それとなく話題を切り出した。


「……本日ディランさんを呼んだのは、個人的に貴方に興味があったからです」

「興味、ですか?」


 嘘ではない。お姉様の側仕えのことをよく知ろうと思っていることに嘘偽りなんてないからだ。


「そうです。聞くところによると、ディランさんはとっても優秀であると。噂では、使用人の方々が不満に思っていた労働環境の見直し案を提出したとか」

「そうですね。労働環境の問題に関しては、早めに解決すべきだと判断しました。皇女様に頼み込み、この問題を議題に挙げてもらいました」

「そうなんですね!」


 ……つまり、お姉様を利用したってことね。このクズめ。(極端)

 これは本格的にブラックリストに登録した方が良さそうね。お姉様を悪用するやつに待っているのは、絶え難い苦痛なのよ。


 はらわたが煮え繰り返りそうであったが、あくまでそれは心に秘めておく。絶対に私の本心も本性も悟らせることはなく、ただ向こうがポロポロと愛らしいレイテ姫という理想像に魅せられて情報を吐き出すのを待つだけ。

 変わらない微笑みを続けていれば、この男もお姉様についての愚痴を言うはずよ。


 その時がチャンス。


「時にディランさんは、お仕事に不満を持ったりとかしませんか? 労働環境の改善も現在の待遇に納得がいっていなかったりだとかが含まれてるのでは?」

「いえ、私は今のままで十分満足しておりますよ。労働環境の改善は、他の方々の苦労を少しでも和らげてあげようと考えてのことです」


 ボロを出さないわね……。


「では、実は他の仕事をしてみたいとか……」

「私は、今の仕事に誇りを持っています。こんな俺を手厚く迎え入れてくれた王家の方々には感謝しかありません」


 ……何故だ。お姉様関連の愚痴を一つも漏らさない。

 普通こうまで私が相手に対して、人当たり良く察してやれば、大抵の本音をぶち撒けるものなのに。

 

「……あの、ディランさんは皇女様についてどう思いますか?」


 焦りから、私は直接そんなことを聞いていた。誘い込む方法が封じられた以上、こちらから踏み込むしかない。

 彼は、少し困ったかのように考え込む。

 ほらみたことか、お姉様のことになると途端に顔色を悪くした。やっぱりコイツも他のやつらと変わらない。なんだ、警戒する必要もなかったわね!(嘲笑)


 返事を待たずして、私は最後の一押しをする。


「あの、私から提案なのですが……」

「はい」

「ディランさんさえ宜しければ、私が運営する組織で働いてみませんか?」


 裏組織のことではない。まっとうな表向きの機関のことである。


「当然ですが、金銭的な待遇は今より良くなるとお約束できます。どうですか? 悪い話ではないと思うのですが……」


 緊急措置とはいえ、この私がここまで気を遣ってあげているんだ。なにより、お姉様の側仕えになりたいなんていう人間は金銭的に厳しい生活を強いられているようなものばかり。給料の金額を吊り上げておけば、ほいほい釣れることでしょう!(腹黒聖女スマイル)


 私は優雅に紅茶を啜る。

 ああ、勝利の美酒は本当に美味しいわ。(酒ではない)


 余裕綽々で彼の返事を待っていると、彼は深くため息をついた。そのことが予想外すぎて、私の思考は一瞬停止する。


「……えっと、どうされました?」

「あっ、いえ! ……とても魅力的な提案なのですが、遠慮させていただきたいなと思いまして」

「えっ⁉︎」


 な、なに? 何が起きたっていうの!

 この私からの好条件過ぎる提案を断るですって⁉︎

 この男、実は馬鹿だった?(失礼)


「ど、どうしてですか! 貴方にとって、この条件はかなり良いはずです」

「確かに、今より高待遇を用意してくれるというのは、私自身の実力が認められたみたいで嬉しくは思いますが……」


 彼は、真面目な顔で告げた。


「でも、そこには皇女様がいません」


 ……聞き間違いかと思った。


「私にとって、皇女様に仕えることが一番の生き甲斐なのです。朝から晩まで、皇女様のために働けている自分自身のことを幸せ者だと本気で思っております」


 ……予想は正しかった。コイツは、お姉様の優しさに。溢れんばかりの魅力に気付いている!(同類発見)

 少しばかり嬉しさを感じるも、それ以上に悔しさが勝っていた。お姉様の真の素晴らしさを知りながら、こいつはちゃんとお姉様の隣を守り続けたいのだと。


 ……私は陰で見守ることしか出来ていないのに。

 私は、お姉様の唯一の妹なのに。

 それなのに、どうして、ポッと出の側仕えのなんかにお姉様にとってただ一人の味方という立場を崩されなければ、ならないのか。


「……もう、いいわ」


 お姉様のこと間違った目で見てないんだもんね。ああ、周囲と同じように誤解し続けていれば良かったものを。

 私は作り笑をやめた。


「えっ、なんですか急に……」

「貴方は、お姉様のことが好きなのですか?」

「……はい」

「お姉様の他者には見えにくい優しさを知っているんですか?」

「当然です!」

「お姉様が使用人と会話した後に部屋でずっと言い方が悪かったことを嘆いている姿を知っているんですか!」

「はい! 可愛いです!」

「ですよね! 私もそう思う!」

「皇女様のあの可愛さに触れてしまったら、もう後戻りなんて出来ません。萌え死にさせる気ですかって!」

「分かる! 普段は冷たく見せてる分、リラックスした状態だとポンコツ感丸出しの純粋無垢な口調が本当に愛らしくて……私が女じゃなかったら結婚してました!」

「自分が可愛いってことを自覚していないところもまた、庇護欲をそそると言いますか」

「……守ってあげたくなります」

「それです!」


 ……。


 ねぇ、ちょっと。

 こいつまさか、私と同レベルにお姉様のこと好き過ぎるじゃないのよ!(変態同士の出会い)


 一旦、落ち着きましょう。頭を冷やして、お姉様に関する熱い想いを心の底に仕舞い込む。そして、目の前にいる私と同じレベルのお姉様信者の方へと真剣な眼差しを向ける。


「え〜っと、つまりディランさんは、お姉様にご執心ということでよろしいのかしら?」


 提案を蹴ったということに加えて、私と盛り上がった先程の会話。


「そうです。私は皇女様が死ぬほど好きです」


 彼がそれを否定することはもちろんなかった。

 隠す隠さないの次元ではもうなかったからだろう。それに私も釣られて、お姉様が大好きアピールを盛大にしてしまった。お姉様に対して誤った認識を持っている人間にこのことが知られるというのは、非常に困るが、同類であるというのなら話は別だ。


 そう、これは弱みを握られたと同時に相手の弱みを握った。痛み分けなのよ!(多分違う)


 さて、彼の気持ちはよく分かった。

 しかし、それでも釘を刺しておくべきことはある。私がお姉様のことを好いているという点に関して、誰にも劣らないという事実だ。


「貴方のお姉様への気持ちは十分に伝わりました。……スカウトは諦めることにします」

「そうしてください」

「しかしながら、一つだけ言っておくべきことがあります」


 彼に言うべきこと。それは私から送る最大限のある種脅し文句のようなものであった。


「お姉様の一番はこの私です。後からやってきた貴方が私を差し置いてお姉様と仲良くなろうなどと間違っても考えないでくださいね」


 聖女スマイル!(圧倒的殺意)

 これで、私との格の違いに分を弁えることでしょう。お姉様のことを悪く思っていないこの男がお姉様の側仕えのをするのであれば、私の苦労も減るし、何より私のことをお姉様に引き合わせてくれたりとか、そういう優遇をしてくれれば、私は晴れて、扉の陰とかからお姉様を眺めるだけではなくなる。


 そう、合法的にお姉様とお近付きになれるのよ!(考え方が違法)



「……残念ですけど、その要望には沿えませんね」



 後の幸せな光景を想像していると、まるで夢を打ち砕くかのような返事が飛んできた。


「はい? 今なんとおっしゃいましたか?」

「ですから、皇女様の一番をレイテ様に譲るつもりはないと言ったんです。耳でも詰まってるんですか?」


 コイツっ!


「あらあらぁ、側仕え風情が随分と立派な物言いをするのですね。……でしゃばるなら、それ相応の覚悟があるのよね」

「レイテ様こそ、その名演技を忘れて素の状態を晒すというのは、貴女のイメージに大きく影響してしまうのでは? ……バラされたくなかったら、大人しくしてろ」


 なるほど、これがこの男の本性。……良い子を装っている時の私と同じで、従順で物静かな側仕えを演じていたってわけね。


「アンタみたいな失礼な男にお姉様は譲らないわ」

「お前みたいな、礼儀の欠片もないようなやつに皇女様を関わらせたくないな」

「黙れ、潰すわよ」

「それはこっちのセリフだ」


 お姉様の側仕えであるディランとの睨み合い、口論はそれから小一時間続いた。


 こんな男にお姉様を任せるわけにはいかない。

 待っていてね。お姉様。

 私が必ず、お姉様の横で永遠に愛を囁き続ける未来を実現してみせるから!

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

できれば高評価をお願いいたします。

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