【cut-004】街に着きました
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「見えました!」
私が指差した先を皆が見ると、そこには、私たちがよく見慣れた、いえ全世界のアニメファンが見慣れた、円形の城塞都市がありました。
「本当にあったんだ……」柊監督が、感慨深そうに言いました。
なぜ、どの制作会社の、どのアニメでも、同じような城塞都市が登場するのでしょうか。もちろん、原作の記述や挿絵を参照している場合もありますが、往々にして、設定制作の横着というのもあると思います。美術設定の参考画像をインターネットの拾い画で、安直に用意するのはやめましょう。
それはともかく、街に着いたら、この世界の情報を得ることが出来るかもしれません。私は、ホッとしたと同時に少しワクワクしてきました。
「行きましょう!」
私が駆け出すと、木田さんも「おー!」と声を上げて走り出しました。
「皆さんも、早く!」
「おっさんは走れません」澤田さんが言いました。
澤田さんと香月さん、それに高崎さんの三人は、疲れ切った表情です。確かに、ここまで歩きっぱなしで、かなり体力を消耗したはずです。
「街に着いたら、別れて行動しませんか? 疲労が溜まっている方々は、宿で休んでいただいて、それ以外のメンバーで情報収集に出かけます。交代して休みをとったほうが、色々な時間帯で街に出ることができるので、効率的かもしれません」
「ぜひそうしてくれ」高崎さんも、ウンウンと小さく頷いて同意しました。
☆
城塞には、300メートルくらいの間隔で、立派な門がいくつも開かれていました。そのどれもが開け放たれており、外部と街中の往来は、自由に行えるようでした。
私たちは、念のため、街の裏手と思われる、小さな門から街に入ることにしました。
「では、ここで一旦別れましょう。私と黒木さん、木田さん、馬場さん、早川くんで情報収集に行ってきます。柊監督と澤田さん、香月さん、高崎さんのおじさま達は、宿を見つけて休んでいてください」
「僕、おじさんじゃないよ!」柊監督が、不満そうに言いました。
「とても50歳には見えないですね……」
「ギャップ萌えです」馬場さんが、ハアハアと息を荒くして言いました。
「それでは、のちほど」
プクーと膨れている柊監督たちに手を振り、私たち若手組は、街の中へと入っていきました。
☆
やはり、私たちが入ってきたのは街の裏側だったようで、通りには人影がありませんでした。
それでも、中心部に向かうにつれて、徐々に喧騒が大きくなってきました。
「緊張しますね」
「私たち、こんな服装で怪しまれないかニャ〜?」
黒木さんは、自分のTシャツの裾を引っ張って、クンクンと匂いをかぎました。「臭いニャ!」
と、その時でした。
「食い逃げだ!」
行く手の先から、叫び声が聞こえてくるやいなや、通りの角から小さな人影が、こちらに向かって駆けてきました。どうやら、まだ幼い、男の子のようです。
「捕まえてくれ!」
コック姿の男が、フライパンを持って追いかけてきましたが、ゼエゼエと息も絶え絶えの様子です。
「捕まえましょう!」
私たちは、男の子を取り押さえようと、横に広がって構えました。しかし、男の子は、バッと勢い良くジャンプをすると、私たちの頭上を飛び越えて、走り去っていきます。
「あ! 待て!」
すかさず、早川くんが追いかけます。
やっぱり、こういうときは男子が頼りになるなぁ! そう思った瞬間、「うげっ!」と言いながら、盛大にすっころんでしまいました。
「え、ちょっと!」
その間に、男の子は路地の奥へと走り去り、すぐにその姿は見えなくなってしまいました。