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【cut-003】ピンチでした

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 「よけろ!」

 私たちは、とっさに散り散りになり、すんでのところでゴブリン達の攻撃を回避しました。

 「逃げましょう!」

 私たちは、森の出口へと駆け出しました。

 「ま、待って!」

 その声に、足を止めて振り返ると、柊監督が地面に膝をついて、ワナワナと震えていました。

 「柊監督、早く!」

 「だめ……腰が抜けちゃって……」

 柊監督は、その場から動くことが出来ないようでした。すると、ゴブリンたちが柊監督を取り囲むようにジワジワとにじり寄ってきました。

 「ひぃ……」

 「く、黒木さん! さっきの! さっきのやつで!」

 私の呼びかけに、黒木さんはシュンとした様子で、手にしたタップを見つめながら、

 「試してるんニャけど……必殺技は連続して撃てないみたいだニャ」

 と言いました。

 「そんな!」

 ゴブリンたちは、柊監督をすっかり包囲し、いまにも飛びかからんとしていました。柊監督は、怯えきった表情で私たちを見つめています。

 「では誰か! 何か技を撃てる方は!?」

 黒木さんの言った言葉が本当だとしたら、私たちも何か必殺技を撃つことができるはずです。

 「私、デジタル作画だから、タップなんて持ってないよ」

 「……自分はいつもクリップで留めているので」

 木田さんと高崎さんが、申し訳なさそうに言いました。

 「じゃ、じゃあ馬場さんは!?」

 私は、色彩設計の馬場さんに尋ねました。

 「わ、私ですか?」

 馬場さんは、困惑した表情で、眼鏡の位置を直しました。「そんな技なんて、ないです」

 「色彩設計っぽい、何かありませんか!?」

 「ないです!」

 と、ゴブリンたちが一斉に柊監督に飛びかかりました。

 「ひっ!」

 「監督!」

 お願いーー誰か!

 「カ……カラーディサピアー!!」

 その瞬間、馬場さんが、意を決した表情で叫ぶと、馬場さんの手のひらから、眩い光線が放たれ、ゴブリンたちの体を貫きました。そして一瞬のうちに、ゴブリンたちは、色が消し去られ、線画のみになってしまいました。

 色の無くなった棍棒は、スカッと柊監督の体をすり抜けました。

 「色が……消えた!?」

 馬場さんを見ると、ゼエゼエと息を荒げながら、ドサリと地面に崩れ落ちました。

 「大丈夫ですか!?」

 馬場さんのもとに駆け寄って、その細い体を抱きかかえると、馬場さんはうっすら笑って「ひさびさに大声出しました」と呟きました。

 線画になったゴブリンたちは、何が起こったのかわからない様子で右往左往していましたが、やがて「ギェー」と叫びながら、森の奥に消えていきました。


    ☆


 「ありがとうございました」

 柊監督が、馬場さんに深々と頭を下げました。

 「恥ずかしいです……」

 馬場さんは、真っ赤な顔で俯いていました。「カラーディサピアーなんて……」

 「こんな危険なとこ、いられないよ」

 澤田さんが、言いました。

 なぜ私たちは異世界に転移してしまったのか、ここはどういう世界なのか、そんなことよりも、命の危険に晒されていることに、私たちは一気に恐怖を感じました。

 私たちは森を出て、もとの草原に戻りました。

 「いったい、どうすればよいのでしょう」

 「現実に戻る方法を探さないといけませんね」香月さんが神妙な面持ちで言いました。「明日は朝からアフレコですので」

 とはいえ、見渡す限り、さっきの森が見えるだけで、手がかりとなりそうなものはありませんでした。私たちは、森と反対方向に歩き出しました。

 木田さんが、ウーンと伸びをして言いました。

 「久々に外を歩いて、ちょっと気持ちいいね」

 「そうですね」

 確かに、私たちはいつも会社の中で、昼も夜もなくずっとお仕事をしていましたので、青空の下、草を踏みしめながら歩く感覚は、とても新鮮に思えました。

 その時、遠くから、かすかに水の流れる音が聞こえてきました。


    ☆


 「ぷはっ」

 異世界の川の水が、こんなに美味しいなんて。

 「いつも無駄に綺麗に描いといて、良かったっすね」

 「無駄とはなんだ」澤田さんは、川の水を飲まずに、スキットルのお酒をグビグビと飲んでいます。

 「ここって、本当に異世界なんでしょうか」

 「どうやら、間違いないようですね。この川も、何度も見たことがあります」

 しかし、ここが異世界だと分かったところで、私たちには元の世界に戻る手がかりは何もありませんでした。何か、情報を得る方法はないものか……。私は、ウーンと頭を捻りました。

 「この辺に、人とか住んでないのかニャあ」

 「いなそうっすね。見渡す限り、草むらばっかりっすもん」

 確かに、この世界の住人に出会えたら、少しはヒントが得られるかもしれません。しかし、周りに人家の気配はありませんでした。どこかに街があれば……。

 「!」

 私は、ハッと気がつきました。

 「三井さん?」

 皆が、私の方を見ました。

 私は、いつも印刷している大量の美術設定の記憶の中から、ひとつのイメージが浮かんできました。

 「あるはずです、きっと、街が」

 「どこに?」

 「この川を辿るんです」

 私は、川の流れる先をキッと見つめました。

 「街の中を川が流れる、城壁で囲まれた円形都市が、あるはずです」

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