8、王子候補
「先輩どうですかそっちは?」
「どうって別に。あの子を見てるだけ。転移者は城内の教会に呼び出されてこの国に幸運をもたらす存在として崇められてる。15歳の誕生日に召喚される設定だから、神父様がならば学校へ行くのは?あそこは全寮制ですし何よりこの国を学んでいただくのに都合がいいって言い出してあの学校に入る。」
「へーそれであの登場はやばいですね。」
「そうね、それに災いとか言い出してるからね。想像通りだけどね。そっちはどう?」
「どうもこうもないですよ。まず自分の事をめちゃくちゃ冷静に受け入れた後楽しむって決めたみたいで貴族でめちゃくちゃ偉い身分だって分かっていながらお嬢様らしく振る舞わないしヤ〇ザみたいだし本当に面白いです。」
「それなら良かった。よく考えたら転移させられるわ皆から嫌われてるわもう一人転移者が居てそっちはちやほやされてるわで最悪だよね。本当に猫丸のせいでごめんね。」
「いやあんたのせいだからな。猫丸は悪くないから。」
「ぴえん。」
「てか王子も王子で面白いな。今回の設定本当に面白いよ。考えた人は馬鹿だよ本物の。」
「まあとにかくサポートよろしくね。」
「はい。まあ見てるだけですけどね。」
「グレアム氏何かおすすめはありませぬか?」
いつも通り漫研で漫画を読んでいる。中々トッド氏に会わないので聞いた所兼部されていて殆どこちらには来ず名前を借りているに近い状態らしい。確かにあの筋肉、運動部にはもってこいと思ったらチェスクラブらしい。
なので漫研に居るメンバーは大体、グレアム氏、会長、私の3人が殆どである。ここに来てもう2ヶ月なのでだいぶ仲良くなってきた。
「うーんハント氏は少女漫画が好きだから…。これは?」
見せてくれたのは花が舞い散る背景に制服を着た男女が手を繋いで歩いている表紙の漫画だ。
「これはヤンキー女子のヒロインが父親が警察官の男子を好きになってしまってイメチェンしてアプローチするという漫画で中々ヒロインが可愛いでござる。」
「採用!」
と言ってグレアム氏とハイタッチを交わし読み始める。ふと会長が小説を読んでいるのが目に入った。
「会長って小説読んでる事が割と多いですよね。」
会長に話しかけるとパタンと本を閉じて言った。
「好きなので。」
ええっそれだけ?びっくりしているとグレアム氏が話に混ざってきた。
「会長の家は代々城の図書館で司書をしてるでござるよ。だから本を読んで勉強しているのでござる。そうでしょ?」
会長は返事をしなかった。
「へー司書さんですか。かっこいいですね。」
会長が目を見開き私を見た。何故そんなまん丸の瞳で私を見るの?
「かっこいい?初めて言われました。貴方感性狂ってますね。」
「殴るぞ。」
「先輩ですよ。」
「殴りますわよ。」
「一緒ですよ。」
「会長もハント氏もそこまで。」
会長は本を開きまた読み始める。私もそっとグレアム氏おすすめの漫画を読み始めた。
しばらくしてグレアム氏が急に話し始めた。
「そういえば1年生の女子の間では王子が誰か皆で考えてるらしいでござる。何度も会議をしてるらしいでござるよ。女子全員でお茶をしながら。」
「ミンナ?ゼンイン?」
私は一度も呼ばれた記憶が無い。
「ふぁーハント氏もしかして呼ばれた事が…。」
「やめて!その先は言わないで!」
「もしかして…貴方…女子だと思われていないのでは?」
会長がクソ真面目な顔をして何を言うかと思えば…。
「はっもしや!私は男子だった……?」
一応のってあげるとまだ真面目に会長が続ける。
「まあーびっくり。男子にしてはとても可愛いです。」
「おい棒読みが過ぎるぞ。もっと言え!もっと可愛いって言え!」
「「はいはい。カワイイkawaii可愛い。」」
「なんか腹立つな。」
私が隅で拗ねていると私を放って2人で話し始めた。
「で王子候補は誰なんです?」
「うーんとやっぱり3人に絞られて、まずはこの子。」
1枚写真を出した。ハーンそうですねー。うーん見た事があるようなーないようなー。眉間にシワを寄せながら考え込む。
「ああ彼は特進コースのランバート・ルード。確かに舞踏会でも見た事がない。」
「ランバート?ああランバートね。」
「おやご存知で?」
「分かりませんすみません。名前だけは見た事があります。」
「彼は成績優秀で確か中間テストは2位ですよ。」
話を聞いていて急に疑問が浮かんだ。
「会長1つ質問があるのですが。そもそも舞踏会で見た事ない!じゃあ王子じゃん!他の偉い貴族は全員、面が割れてるしってなりません?実際先輩も代々司書さんだって周りは知ってるんでしょ?」
「まあ僕は16歳で学年が違いますしあんまり関係ありませんから。神父の息子と騎士団長の息子がちょうど15歳で王子の為に舞踏会に出ず身分を隠して名前も変えて入学してるんですよ。」
「わーお凄いですね。そこまでして婚約者って王家って大変やなぁ。」
「大変でしょうね。で2人目は?」
「はい彼ジェラルド・レナー。一般教養コース。」
「ほう珍しい。何故一般教養コースから?」
「彼も優秀でとにかく男女分け隔てなく優しいらしいでござるよ。圧倒的陽キャって感じ。」
「ほうそれはまさに王子っぽいです。じゃあ3人目は?」
私は正直やり取りに飽きてきたのでさっきの漫画の続きを読み始めた。ヒロインが本当に可愛い。
「ホルト・ラス。特進コース。」
「ああホルト君ね彼は選ばれると思ったよ。彼は特に女子にだけは優しいからね。」
「うんハント氏彼には気を付けるでござるよ。女たらしでござるからね。聞いてる?」
「聞いてます。聞いてます。気を付けますよ。」
と言った昨日の自分を殴りたい。今何故か私は教室にホルト・ラスと2人きりしかも横にピッタリとくっつかれている。彼は金髪で制服のシャツのボタンを幾つか外しはだけさせている。
「可愛いですね頬にキスしても良いですか?」
「ダメです。絶対に。」
「緊張してます?大丈夫怖い事はしませんから。」
ほんまにどうしよう。困って周りを見ても勿論誰もいない。
午前中最後の授業でペアになり彼の苦手な部分だったらしくできるだけ丁寧に教えてあげると自分に気があると思ったのか手を握ってきて握り潰そうとした時、先輩方が言っていた王子かもという話を思い出しさすがに王子の手は潰せないと考え直し手を握るのを許していたら授業が終わっても手を握ったまま離さず皆が教室から出て行ったのを見計らって近寄ってきてさっきから耳元で囁かれている私の図である。だるい。
「ねえどうです?勉強しませんか俺と。良いでしょう?」
「勉強?なんの?」
真面目に聞いてどうする!
「ベッドの上で服を脱いで貴方と2人でする勉強です。」
はいアウトー!バッター交代でーす。さようならー。
「ちょっと何を言ってるか分かんないですね。じゃあお昼食べに行くんで。」
立ち上がると腕をぐっと引っ張られ元の位置に戻される。
「ねえ興味ありません?男に。いいえ俺に。」
握った手をホルトの体に触れさせられ耳元で囁かれる。殴りたいけどもしも、もしも王子だった時さすがにそれはやばい気がする…。でもほんまにだるい。そろそろ手が出そうと思っていた時ちょうど会長が顔を出した。
「貴方、何をしてるんです?」
「会長!」
「会長?」
「部活の後輩です。後輩に何してくれてるんですか。」
「別に2人で復習をしてただけです。もっと楽しい勉強したくないですか?」
また手を握られ耳元で囁かれる。確かに背も高く顔も良いけどこの強引さは無理。
「ほら行きますよ。この子はうちのなんで。」
会長が教室に入って来てくれて手を繋いで私を外に連れて行ってくれる。誰もいない場所でやっと安心し私は会長!と叫び抱きつく。
「わあ急になんですか!怖かった?」
珍しく会長が優しい顔で心配してくれて頭を撫でてくれる。
「違うんです。もうちょっとで殴りそうでした。良かった王子かもしれない人を殴らずに済みました。ありがとうございます。」
抱きついたまま会長にお礼を言う。会長が少しだけ顔を赤らめ、
「ふふふ可愛い初めての後輩ですからいつでも守ってあげますよ。」
と言ってくれた。