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4、コースと思惑


「間に合ったー!」


といきなり部屋に入ってきた人物がまさかアンリ様だと思わなかった。だってアンリ様のお屋敷に学校で使用人としてお世話をさせていただきますという挨拶に行った時、


「なあにこの小汚い子。うちからお金を施してやって学校に行けるんだからせいぜい私の為に尽くしなさい。」


って。で私からは何も話を聞かずそのまま今日だったのに。いや誰?この人。本当にあのお嬢様?

同級生として扱ってくれてましてや私にお礼を言い、極めつけは同じ部屋で同じベッド、同じように部屋を使ってもいいなんて。

こんな扱いは他の貴族でも有り得ない。どれ程使用人に優しくても同じ部屋では寝ないし部屋を半分ずつにしてくれるなんて。罠か?いやそれはない。喋り方も変だけど優しいしとにかく優しい?

まあいいか学校に通えるならどうでも。






目が覚めても昨日のままでやはり11階のマンションではなかった。


「ハンナおはよう。」


「おはよう。今日は勉強のクラスを選んだりして午後からはクラブ決めだよ。勉強のクラスは一般教養と特進の2つ。」


「そうなんやぁ。ありがとう教えてくれて。」


「あ、ああうん。どういたしまして。」


お礼を言うとハンナは毎回狼狽える。もしかして以前の私って最高にお礼を言わない子やったんかな?

勉強のコースかぁ私こう見えて頭だけは良いからなぁ。後輩も先輩って見た目も中身も馬鹿ですけど頭だけは無駄に良いですよねって褒めてくれたし。褒めてる?


「ハンナはどうするの?」


「私は一般教養コース。」


「そっかクラブは?」


「許しがいるから…。」


「誰の?」


「…アンリの。」


「ええっ!許す許す!クラブは大事よ!そこで一生の友達ができたりするから!名前書けばいい?」


とハンナがおずおずと書類を出してきたので名前を書いた。良かった日本語だ。アンリ・ハントと記入すると信じられないという表情で書類に穴が開くほど見ている。


「よしこれでいいね!じゃあ行こか!」


「うん。」




「アンリ・ハント様。本当に本当に特進コースで良いのですか?」


お昼ご飯を食べに行こうとした時に昨日の先生に呼び出されてかれこれ5分位確認されている。


「はぁい。私、頭だけはいいんでそこは伸ばそうかなって。頭だけはいいんで。」


「本当に本当に本当に本当に良いんですか?」


「はぁい。」


「本当に本当に本当に本当に本当に本当に良いんですか?」


「はい。というか何か問題でも?」


「アンリ様、ご無礼を承知で申し上げます。貴方は王子と婚約する為にこの学校に入学されたのですよね?」


「えっ違いますよ。」


「「「ええっ!」」」


職員室に居た先生方全員が一斉に声をあげた。


「うわぁっびっくりした。なんなん。」


えっ私って王子と結婚する為に学校に来たん?まじ?あれ私じゃあ余計な事を言った?

いや私は私、自由に選ぶぞ!


「すみません教えていただけますか?この学校は教育を受けられないという事ですか?女が特進コースなんてって事なんですか?ああん?」


「違います!本当に忘れてしまったんですか?王子は学校で様々な事を学びながら身分を隠して5年間過ごし女生徒を1人婚約者に選びます。昨日貴方と同じように入学したんです代々同じ年齢の女生徒を選ぶと決まってるんです。」


「はあ。で?私が特進コースを選べないのとどんな関係が?」


「……大体の女生徒は王子に嫌われたくなくてテストが王子より上位にならないように少しその言い方が悪いですが…その。」


「わざと馬鹿のフリをすると。ふーん。じゃあ特進コースで。」


「聞いてました?本当に良いんですか?」


「逆に燃えてきました。1位とってみせます。だから特進コースで。良いですね?」


「……分かりました。アンリ様は特進コースで。」


「はい!じゃあ御機嫌よう。さいなら。」


先生達がキョトンとしている職員室を後にする。何となく本当に何となくこの世界というのが分かってきたぞ。

それにしてもお昼はどこで食べてるの?ハンナは先に行ってしまったので仕方なく看板を探して10分程、歩き続けやっとの思いで食堂を探し当てた。


「やっと、やっとご飯が!って財布がない。やばば。」


それ以前に食券のような物もない。仕方なく食堂のおばちゃんに話を聞く。


「忙しい所ほんまにすみません。どこでお金を払うんですか?」


「ああ1年生?その腕時計あるでしょそれをこの端末に近付けると、はいお金を払えました。やったね!」


「分かりやすい!ありがとう!じゃあ私はカツ丼大盛りで!」


「はいよ!」


すぐにおばちゃんがカツ丼を作ってトレーに置いてくれる。先程教わった通りに腕時計をトレー横の端末に近付けるとピロリンと音がした。


「はいまいど!」


「わーいお姉さんありがとう!」


「まあお姉さんなんて嬉しい。美味しく食べてね!」


「はい!」


と受け渡し窓口を後にしてハンナを探すここで探せなければ私はもう教室に戻る事ができない気がする。

探せ!探し尽くせ!居た!外だ!外のテラスだ!


「良かったぁ。ハンナ一緒に食べてもいい?」


「ええっ同じ机で?」


「駄目?」


悲しくなって言うとハンナが慌てて言う。


「良いよ!もちろんどうぞ!」


と言ってくれたので座るとハンナはビスケットのような物を食べている。


「あれ?ハンナはそれだけ?」


「うん、私は端末が無いから。」


「えっ…。どうして?」


「アンリ様がなくていいって。ゴミを漁れって。」


「はあ?舐めてる?じゃあこれどうぞ!私もう一つ買ってくる!」


とハンナにカツ丼大盛りを押し付け私はもう一度同じ物を買い席に戻った。ハンナは手を付けずにずっと待っていたようだ。


「ごめんね待たせて。いただきまーす。」


「アンリありがとう。」


私はカツ丼を食べながら考える。カツが美味い脂身が丁度よくカットしてあってジューシーだが肉感もあり、じゃなくてアンリ・ハントという人物についてだ。

彼女はきっと金持ちのお嬢なのだろう。それで皆からの対応の通りきっと一昨日まで酷いおんにゃの子だったようだ。だからハンナは怯えてたんやな。うんうんご飯うま。卵と合うわ。とにかく私は新しい端末をハンナに渡してクラブに入ろう。もうクラブは決まっているし。

昼食が終わるとハンナと一緒に食堂から30秒の職員室に行き端末をもらうついでに説明を受けた。腕時計型の端末は授業の出席、学校内の買い物に使用するらしい。出席に使うなら何故ハンナは無かったの?と思ったけど端末を購入しない者は毎回出席の用紙を出しているようだ。


「とにかくハンナはこれで買い物してご飯も食べてね!」


「うんありがとう!じゃあ私は家庭科部に行くから!」


「うんじゃあまた!」



そして私が向かったのは。


「たのもー!」


ココンココンコンコンとリズミカルにノックをする。楽しみ過ぎてやばい。扉が開く事無く中から数人の声がする。


「来たぞ!人だ!声は女子っぽいけど?」

「嘘!女子!無理無理無理。」

「でも折角来てくれたのに…。」


「あのぉ開けても良いですか?」


「「………ど、どうぞ。」」


許可が出たので思い切って開ける。中には男子生徒が2人壁一面の漫画!

そうここは、


「漫研!」


「そうだけ……ど。ってこの子あのハント家の。」

「ええっあの噂の?」

「でもそれなら声楽か刺繍では?」

「確かに何故ここへ?」


と2人が話し合う中、奥からもう一人男子生徒がでてきた。


「皆さん落ち着いて。とりあえず彼女がここに相応しいか話を聞くとしましょう。」


「「かっ会長!」」


眼鏡をクイッとあげて言う。試験って訳かい。受けて立つぜ。私の夢は世界中の漫画を読み漁る事!


「さあアンリ様、まずは手始めに好きな漫画とどこが好きか語ってください。」


「分かりました!私、ミントのキスっていう漫画、所謂ミンキスが大好きで!主人公はクラスではあまり目立たない女の子なんすけど、その子がヤンキーの川瀬君を好きになるところから始まるんです。その後学校の帰りに川瀬君が犬を拾うんすよそれで主人公の真実が、許せないあの犬私の川瀬君に抱っこしてもらえるなんて!って言うのがほんまに可愛くて。ああ真実はヤンデレなんですけど。その真実が川瀬君がヤンキー同士の喧嘩をしてるとこを見ちゃうんすけど、川瀬君めちゃくちゃ弱くてボコボコにされて血が出るんですよそれを見た真実が、許せない川瀬君の血は全て真実の物なのにって言って、相手のヤンキー全部倒して、ああそれに憧れて私も空手初めて黒帯になりましたってごめんなさい関係ない話、続けますね、川瀬君の血をハンカチで拭って、これもらっていい?って言うんすけど川瀬君は、お前に助けてもらわなくても勝てっしって言って逃げちゃうんです!川瀬君も可愛いんですよね!それで…。」


「ストップ!」


私が早口でミンキスの良さを語っていると会長と呼ばれた人が笑顔で叫んだ。


「入会許可!」


「うん、完全にオタク。」

「こっちの話を聞かないとことか。」

「後全く聞いた事ないシュールな漫画を推してるとこに好感が持てる。」


「やったー。私の事はハント氏と呼んでくだされ。先輩方のお名前は?」


「我はポール・トッド。」

「拙者はサウス・グレアム。」

「僕は会長のダニエル・キッドマン。」


「よろしくお願い致します。トッド氏、グレアム氏、会長。」


「よろしくなハント氏。」


ポール氏は私と同じ身長多分160位だけど鍛えてるのか筋肉が凄い。髪も黒く瞳も黒い。坊主で眉毛も骨格もしっかりしている。劇画タッチっぽい。the男前って感じ。


「漫画好きなだけ読んでいいよハント氏。」


少し照れながら言うグレアム氏は身長が高く5メートル…は言い過ぎかでもめちゃくちゃ高い190以上ある気がする。細くてヒョロ長い。肩までいかないけど首は隠れている長さの髪の毛は薄い茶色で天然パーマっぽい。チラッと見えた目は細くて垂れ目だ。ゆるふわ系イケメンって感じ。


「何故僕だけ会長?まあ良いですけど。それよりここへ入会して良かったんですか?」


会長は身長は私より高くて180位あるかな?細い銀縁の眼鏡がとても似合っている。細すぎず筋肉が程よくついていて所謂細マッチョって感じだ。髪はうすーく茶色がかった金髪で前髪を軽く分けていて首の部分は刈り上げていて毛先は遊ばせている。とてもモテそうだ。顔も私よりも整っている綺麗系なイケメン。イケメン怖い。

この世界は見目麗しくないと生きていけないのでござるか?3人とも違うタイプのイケメンだ。怖い。


「会長どういう事でござるか?」


私は会長の質問に質問で返した。他の2人も黙って聞いている。


「アンリ様は1年生の女生徒、王子狙いでは?」


まあストレートで分かりやすいしゅき。


「会長!私は特進コースでっす。」


と敬礼すると会長がクシャりと顔を崩し笑う。まーあ綺麗なお顔。お金を払わずにこの顔をこれから毎日拝めるなんて!後輩に自慢したろ。無理か。


「それはそれは。貴方本当に変わってますね?ですが噂の印象とだいぶ違うようですが。ここの者達を傷付けたりこの場所を失うような事をしたら分かっていますね?」


ああ怖い。綺麗なお顔は怒ると怖い。でもイケメン。


「大丈夫です。なら体験で良いですよ。信じてもらえるまで毎日漫画を読みに来ます。」


なるべく誠実に話す。会長はやはり会長だけあってこの場を守ってくれる人のようだ。

やばい惚れてまうわその心意気。しゅき。


「良いでしょう。皆さん良いですね?」


「おっけーおっけー。」


グレアム氏が軽く言う。トッド氏は漫画を読みながら親指を上にグッとしている。会長がまた私に視線を戻し笑顔で言う。


「歓迎しますよ後輩第一号。ハント氏。」


「よっしゃーじゃあおすすめ教えてください!早く早く!先輩!」


「ふふふうるさい後輩ですね。口を縫い付けますよ。」


会長が笑顔で言う。いやこわ。ほんまにしそうこの人。


「本当にしそうって顔してますよ。」


「えっまさかぁ。」


「ふふふっ。」


「えっしないですよね?」


「ふふふっ。」


ただ笑って漫画を選んでいる会長に寒気がした。


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