一緒なら
「会長、組長も玉ちゃんも居なくなっちゃいました。私、本当に1人です。」
漫研は顧問が居なくなってしまったので形だけ続いている。部室もそのままだし。一応ハント家の名前で通したと会長が言ってたな。あいつここぞとばかりに名前を使いやがって。
「今更でしょう。女子の集まりに1度も呼ばれなかったくせに。友達が居ない位で落ち込まないでください。」
本から目を離さずに言う。
可愛い奥さんが言ってるんだぞ!コラァ!よし!ちょっとイジメテヤルカ。フッフッフッ。
「特進コースにはa,b,c,dが居るんで友達はいますー。それに最近dが優しいんですよね。なんかお菓子くれたりお茶に誘ってくれたり2人で勉強会しよって。」
「は?え?嫌われ者の貴方が?」
会長が本を閉じて焦ったように言う。しめしめっす。
「なーんかーいっつもー隣にくるんですぅー。うふふふ。嫌われ者の私の隣にぃー。結構イケメンですよぉー。あはははははぁ。」
「な、な、な、なんですって!浮気です!!」
「わぁ!うるさ!学友ですよ!そんな目で見るのはやめてください!不埒です!」
「貴方ね男は狼なんですよ!いつでも貴方のような羊を…ってよく考えたら貴方は羊じゃなかったですね。」
とまた本を開いて読み始めた。
「シバくぞ。」
「仕方ないですね、そのdとやらに僕の奥さんに手を出さないように言わないと。」
「それがですね、結婚してるって言ったら逆に良いって言い出したんです。旦那の居ない間に隠れて会うっていうのがなんか良いって。背徳的だって。」
少し私を見て眼鏡の奥の瞳を血走らせ低い声で言う。
「絶対にdには関わらないでください。」
「ふふふっ。」
可愛い。必死な会長可愛い。
「絶対にだ!」
「ふふふっ。」
「ちょっと!聞いてます?僕は真剣に!」
「ふふふっ。」
「おい!コラ!」
「会長、ほんまに卒業するんですか?」
「そりゃそうでしょう。留年しろって言うんですか?」
「だって寂しいです。」
会長が少し屈んでおでこをくっつけて話す。手を握って目を閉じる。
「貴方の卒業式の日、迎えに来ます。結婚式を挙げましょう。」
「はい。」
「僕も寂しいです。休みの度に帰ってきてくださいね。」
「それは無理です。講習があるので。」
「言うと思った。講習に負けるなんて悲しいです。」
「私を置いていく罰です。」
「待ってます。貴方の卒業をずっと。」
「はい。」
「アンリ様は本当に変わったわね。自分以外全員芋位に思ってたのに。」
「ええ、そうね。嫌味や陰口なんてもう随分聞いてないわ。」
「それにしても…あの2人やっぱり付き合ってるのね。」
「付き合ってるどころか結婚してるわよ。」
「結婚?本当に?」
「ええ、王子が結婚された同時期に。キッドマン様が言ってたわ。他の生徒も数人知ってるわよ。」
「誰よ王子をおとそうとしてるって言い出したの。」
「嘘だったわね。結局、転移者だったもの。」
「ええ、でもあの2人お似合いね。」
「そうね。」
「「羨ましい。」」
「もうちょっとで年越しですね。」
「ええ、舞踏会は断って良かったです。2人きりで過ごすのもいい。それにあの場所にいい思い出はありません。」
少し伏し目がちに言う。あの弟くんの事件かもね。未だにあの弟くんは私を敵視しているし。普通に卵をぶつけてこられた時はびっくりして暴力で説き伏せてしまったが。そういえばあれから何も言ってこないな。ははは。
私は話を変えようと雪で真っ白になった庭を見た。今は真っ暗であまり見えないが。
「会長の家の中庭は綺麗ですね。」
寝室のバルコニーに出たら会長が私を毛布でくるんでくれた。会長も隣で同じようにくるまっている。
「何度言えばいいんですか、ここは家ではなくて別荘です。貴方が家族や使用人が居ると緊張するって言うから。わざわざこの寒い中、避暑地にある別荘に来たんでしょうが。雪かき大変ですよ。」
「私も一緒に雪かきしてるでしょ!でもありがとうございます。ああーそうだ会長、私が居ない間、浮気してないでしょうね。」
「しませんよ。馬鹿ですね。」
「うわぁっ!なんかその早口怪しい!」
「貴方、本当に馬鹿ですか?dはどうなんですか?」
「仲良くしてます。笑。」
「笑はやめろって言いましたよね。」
「うふふふ。嫉妬ですか?」
「ええ、そうですよ!本当は僕と一緒に学園をやめてもらおうかと思った位です!僕の目の届かない所なんて!それに貴方全然帰ってこないし!講習ばっかり!僕と講習どっちが大事なんですか?!」
「面倒臭い事言わないでください。会長って本当に笑。」
「笑って口で言うな。本当は仕事場に連れて行って常に傍にいて欲しい位です。会う人会う人に奥さんですって自慢したい。」
「嫌われ者なのに?」
「根に持ってます?そういえば貴方頑張りましたね。あの離散させた家、もう一度貴族としてやっていけそうですよ。」
「そうですか、良かった。」
会長が毛布ごと私を抱き締めて耳元で言う。
「もっと僕の事だけ考えていてください。他の事なんて考えないで。もういいじゃありませんか昔の悪行なんて忘れて、家の事も忘れてください。そして僕だけを考えていて。」
「そうだなぁ、じゃあダニエル8割考えるんでそこで妥協してください。」
「妥協とか許しません。ダニエル10割。」
「8割。」
「9割。」
早速妥協した。笑。
「8割。あ、花火。」
「もういいです。ほら目を閉じて。」
わあ、優しいキス。久しぶりのキスは冷えた唇だった。
「寒いですね。」
「ええ、寝ましょう。明日も雪かきですよ。」
「はいはい。」
「「「卒業おめでとーーう!!」」」
皆、はしゃぎまくっている。卒業したら皆、それぞれの道へ進むんだろうな。結婚したり就職したりかな?
私は結局、家に帰る事にした。私があの家を支配し必ずや良家と呼ばれるようになる!!ていうかこの前初めて知ったけど私には3歳下の弟がいるらしいし。会った事は無いが………。
その為にこの学園で必死に政治や法律を勉強したもんね。それにキッドマン家も支えないとだし。ふんすっ!
「アンリ。」
おやこの控えめな声は。
「そう!必ずやあの家を!良家だと!フッフッフッ!」
「アンリ。」
まだ後ろを向きたくない。なんとなくまだ遊んでいたい。
「そして会長をギャフンと言わせてやるんだ!!」
「アンリ?そんな事考えていたんですか?」
後ろで叫ばれた。
「会長!久しぶりです!どうしたんですか?」
振り返ると白いタキシード姿の会長が立っていた。
「離婚しようかな?」
「あらっ離婚なんて外聞が悪いですわよ!」
「別に気にしませんよ誰も。それより早く行きますよ。」
「え?」
「結婚式です!馬鹿!早く馬車に乗って!」
「あっはーい。」
会長に馬車に押し込められた。誘拐に近いゾ。まあ私は友達が居ないので別れを言う友達なんて居ないけどね。泣。
「ウェディングドレスはエンパイアラインにしました。これなら僕でも着せられるので。」
「はあ。うわぁー!!綺麗です!!気に入りました!!なんかこの胸元に散らばった石が綺麗です。私ウェディングドレス初めてです!」
「そりゃそうでしょ。今日は2人きりです。クラス・コブ様に頼んで神に誓うあれだけやってもらいます。ちなみにホルトのお祖父さんですよ。」
「へえーって恨まれてません?」
「貴方ね聖職者ですよ。そんな事気にしませんよ。早く制服を脱いで。」
「ええ!乙女に素肌を晒せって言うんですか?!」
「目を瞑ってあげますから。」
「もーー。」
と急いで脱いでドレスに着替える。
「はい。じゃあ後ろあげますね。」
「あれ?見てましたね?」
「はい。あげますよ。」
「あれ?」
「次はネックレスです。つけますよー。はい冠もー。」
「あれれれれれ?」
「さあベールもつけてー。化粧はまあそれでいいです。」
「あれ?」
「できました!ちょうど着きましたね教会に。」
「あれ?」
「さあ2人で入って神に誓いましょう。」
「強引だな…引っ張らないでヒールでコケる!」
誓いのキスを終えるとコブ様という穏やかな老人はにっこりと微笑み、
「支え合って生きていきなさい。」
と私達に言い残し帰られた。私と会長は教会の椅子に座り少し休む事にした。会長の肩にもたれながら会長の手を握ったり指で遊んだりしていたら会長が私の顔を見てゆったりと話し始めた。
「終わりましたね。どれだけこの日を待ったか。やっと…やっと貴方と……。」
「ええ、幸せです。」
「貴方とやっと夫婦になれた。」
「そうですね。って婚姻届出したんですよね?」
「あれは…ふふふっ嘘です。結婚は2人で神官の前に行かないと認められないんです。」
「はああああ!!」
「ああでも言わないと貴方を繋ぎ止められないと思って。可愛い嘘でしょ。」
「えええええええええ。可愛い?」
「可愛いでしょ。」
ぐ、またこの威圧。
「かーわーいーいー。棒。」
「棒はやめなさいって言いましたよね。それに僕も必死だったんです。王子相手なんて、しかも貴方はこんなのでも上位の貴族だし。貴方の父親は王子一択だっただから婚約しか認めてくれなかったんです。」
「こんなの?」
「だから一度も手は出さなかったでしょう。僕も頑張って我慢したなぁ。貴族ですから婚前交渉はちょっとね。」
「そういう問題?」
「僕は手に入れると決めたら絶対に手に入れます。」
「あわあわあわあわ。悪い人ですね。」
「僕は悪い男なんです。貴方はそんな悪い男に騙されたんです。可哀想な僕の奥さん。」
「もういいです。会長の好きにしてください。」
「また、貴方も懲りないですねぇ。本当に好きにして良いんですか?」
「……好きにしてください。会長の好きにしてください。」
「ふふふっじゃあ行きましょうか僕らの新居へ。」
「もう新居も手配されてる……。」
「ふふふっ。ずっと一緒に居ましょうね。そして色んな場所へ行きましょう。」
「はい。」
そしてまた誓いのキスを交わした。
本当にお付き合いいただきありがとうございます。
もう後悔はありません。
ありがとうございました。