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22、年越し舞踏会


「おやこんな所に。」


会場の外の暗い木の下に隠れていたのに会長は私を見つけ出した。ドレスがどうなったって構わねえぜと地面に座って星を見ていた。黒いドレスなのでバレないと思ったのに会長はタキシードではなくスーツ姿だった。男性は家系の柄のネクタイがあるらしく会長は細かい格子のネクタイをしている。


「こんばんは、2日ぶりですね。学校は会長が教えてくれた通り年越し前後の1週間は休みですもんね。」


私が会長を見上げると会長がニコリと笑い話す。


「貴方も親から呼び出されて城の年越し舞踏会に?」


「はい。学校に入学して初めて貰った手紙が、今すぐに帰ってこい。だけだったのにはびっくりですが。帰ってきたらあれよあれよと着飾られてここに居ました。」


だから両親の顔すら把握していない。手紙が届いた数時間後にはハント家の使いだと馬車がきて屋敷だ貴方の部屋だと案内され誰とも話す事なく放ったらかされメイドさん達が入ってきて有無を言わさず着替えさせられ今である。


「1人でこんな寒い外の木の下に?連絡をくれたらエスコートしたのに…ああ大方僕の事何か言われたんですね?」


「ふふっなんでもお見通しですね。」


執事長と名乗ったおじさんにいつもは会長がパートナーとして一緒に舞踏会に行くが、会長はただの幼馴染みだから今は王子を優先する為に1人で行くように言われたのだ。まあ言われなくても会長に迷惑をかけるのが嫌で1人で行ったが。彼等は学校でのお付き合いの話は知らなさそうだった。


「隣良いですか?」


「どうぞどうぞ。」


会長も地面に座る。確かに寒いが中でじっとしているより気が楽だ。中にいる人は私が居なくなっても誰も何も言わないし本当に何故来なければいけなかったのか謎だ。


「寒いでしょうもっと寄ってください。僕のコートに入れてあげますから。」


会長が大きいコートを広げる。会長にピッタリとくっつくと会長が私に半分コートをかけてくれる。


「こういう時って羽織を女性にかけてくれるんじゃないんですか?半分って。ふふふっ。」


私のドレスは肩が出ているが生地は少し厚めでタイトなドレスなのでまだましな方だ。中にいる女性達はもっと肌が出ていて寒そうだった。

会長のコートは中にモフモフが付いていてとても暖かく会長の匂いがして安心できた。だからか急激に睡魔に襲われる。


「貴方、少女漫画の見過ぎなんですよ。僕だって寒いですから。」


「はいはい。というか年越しを前にもう既に眠いんですけど。」


「年越しまで後30分です頑張りなさい。」


私はもう限界とばかりに会長にもたれ掛かり肩に頭を乗せあくびをする。


「重いです。それに誰かに見られたら困るのは貴方ですよ。」


「ふわぁーあ。それより何か話してください寝そうです。」


「それよりって、王子に選ばれるようにって言われたんでしょ。それなのに僕と居たらまた何を言われるか…。」


「会長寝そうです。本当に眠い。」


私は目を閉じながら言う。


「……ねえじゃあ僕と結婚します?貴方が言った通り。」


私はびっくりして飛び起き会長を見た。暗くて分かりにくいが真剣そうだ。


「貴方言ったでしょう。結婚しましょうって。僕でよければ良いですよ。」


「それってどういう意味ですか?…会長を本当に好きになっても良いって事ですか?」


「そうとっていただいて構いません。僕も同じ気持ちです。」


月の光に照らされた会長の顔は少し赤らんでいてそれでもまっすぐ私を見ている。その時花火が上がり始めた。


「綺麗。」


「年越ししたようです。キスしますか?」


「え?キス。」


「年越しの時にするでしょう。恋人達は。」


「そうですか。」


会場を見ると半数はキスをしている。


「じゃあ…はい。」


2人共照れながら立ち上がり月明かりの下でキスをする。

なんというか本当に少女漫画みたいだ。すぐに唇が離れて会長がふっと息を漏らす。じっと瞳を見つめるともう一度唇が触れ合った。今度はさっきよりも長く重ねる。冷えた唇から体温が伝わっていく。


「ふふふっ。」


「どうして笑っているんです?」


「だってなんだか幸せで。」


「そうですか僕も幸せですよ、ん?…しっ誰か来る。木の裏に隠れてください。」


会長が言うので急いで隠れる。って別に隠れなくても良いのでは?


「兄さん!ここに居たんですね。」


「すみません探しました?」


どうやら会長の弟さんのようだ。それでも出ない方がいいんかな?じっとしとこう。会長が隠れる時にコートを羽織らせてくれたのでコートに腕を通した。とても暖かい。


「そういえば今日はあの女見ませんね。」


「そうですか?寒いですよ行きましょう。」


「兄さんの事、幼馴染みだからってこき使ってたあのアンリ・ハントですよ。今日はまだ見てないです一緒じゃないんですか?」


「一緒じゃないです。さあ中に入りましょう。」


なんか会長は移動したがってるかな。それにしてもやっぱり嫌われてるなぁ。


「ダメじゃないですか傍に居ないと!兄さんあの女落とせそうですか?手紙にも書いてましたが今付き合っている所までいったんですよね?今日話し合った通り結婚までこぎつけましょう。そしてハント家を乗っ取る。」


えっ?どういう事?


「そんな話ここではやめてください。」


「何を言ってるんですか兄さん!人がいないからここで話すんでしょうが。とにかくアンリを騙せば財産は兄さんの物、後はアンリだけポイ捨てすれば良いんです。兄さんはアンリを愛しているという演技をすればいい。演技だと分かっていても反吐が出ますが。すぐに離婚すれば済みます。」


「やめなさい!」


「わあ!急に大きな声を出さないでください!とにかくアンリをその気にさせて金を出させるだけ出させて捨ててやれば良いんです。兄さんならきっとできます。」


そこまで聞いて私はコートを木の下に置いて無我夢中で走った。庭を抜け迷路のような木々を抜けこじんまりとした古びた物置小屋の前に出た。足が痛くてもう走れなくて座り込み木の下に隠れ泣いていると聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。


「アンリ?」


そこに居たのはジョンだった。会場に居た男性達のような礼服ではなくズボンにコートという出で立ちで小屋から出てきたようだった。そっと私に近付き立てるように優しく肩を支えて助けてくれる。


「ジョン?」


「どうして泣いているの?こんなに身体も冷えて。温かい飲み物を入れるから入って。」


「…ありがとう。お邪魔します。」


中は見た目とは違って高級そうな家具が揃えられ暖房器具もありちゃんとした人の住める空間だった。ジョンはコートを脱ぎミルクを暖炉で温め始めた。暖炉の前に椅子を置いてどうぞとすすめてくれたので素直に座る。私の肩にそっと毛布をかけてくれたので私はそれを身体に巻き付けた。上質な毛布なのか軽いのにとても暖かい。私はじっと揺れる暖炉の炎を見つめるボヤけている炎は綺麗でさっきの花火のようだった。


「アンリ何があったか言いたくないなら言わなくていい。だけどお願いだから泣かないでほしい見ていて辛い。」


隣に座りミルクの入ったマグカップを渡してくれる。ハチミツ入りのホットミルクは優しい味で余計に涙を誘った。


「ジョンの言った通りだった…。」


「…どうしたの?」


「会長と居ても私は幸せにはなれない。何も知らないのは私の方だった。」


「そっか…。」


「…信じてたのに。会長はちゃんと今の私を見てくれてるって…違うか…そっか…私が信じたかっただけか…。結局誰も…。」


「…僕がそばにいるから。何があっても僕がいる。」


ジョンが私を見て言う。瞳に嘘はない気がするけど今さっき騙されてきたとこだしなぁ…。私本当に馬鹿だなぁ。確かに幼馴染みなんて1番私の事を近くで見てきたから嫌いに決まってるのに。


「ありがとう。でも…こんな…酷い仕打ちをされても…それでもまだ会長が好きなの……酷い人だって分かったのに。辛いのに憎いのにどうしても嫌いになれない。」


泣く私の背中を優しくさすりながら言葉をくれる。


「人の気持ちは簡単に変わらない否定しなくていい。」


そのまま長い時間泣き続けた。少し外が明るくなってきた頃やっと落ち着いた。


「ありがとう。」


「さあ今日はもうおかえり。また学校でね。」


「うんお休み。あっ。」


「ん?」


「新年おめでとう。それじゃ本当にお休みなさい。」


「うんおめでとう。気を付けてね。」



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