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20、秘密の花園


「だからジョンとは夕食を一緒に食べてただけですから!それ以上の関係では無いです!」


「へえー。僕に隠れてね。」


「いやだからちゃんと言いましたよね?あれから一緒に食べてないし!」


「会長、裏は取れましたぞ。庭師に同じ名前の男が居るでござる。」


怖くて何が書いてあるのかは聞けないがグレアム氏が数枚の紙を眺めながら話す。


「えっ庭師?学生って言ってたのに。」


「どちらでも構いませんよ。とにかく男には近付かないでください。」


「…はい。」


私はシュンとして頷く。なんだか怒られっぱなしだ。


「ほらそんな顔しないで。今日はカフェに連れて行ってあげますから続きはそこで。」


「…はい。」


「じゃあ拙者も出るから戸締りは任せてくだされ。」


「それではお言葉に甘えてお願いします。」


「グレアム氏ありがとうございます。」


「ええじゃあ楽しんできてくだされ。」




学校外のカフェのテーブル席で向かい合って座っている。会長はテラス席がお気に入りだが季節は冬なのでテラス席ではなく店内で温かい紅茶を頼んだ。今回は本当に学校外に来たらしく同じ制服の生徒は見かけない。


「貴方、色んな人に昔した仕打ちを謝る手紙を出してるらしいですね。」


私はガタガタとティーカップを置いた。何故それを?という視線を感じたのか会長が話を続ける。


「貴族の事は何でも耳に入ってきますからね。良いと思いますよ。実際過半数が手紙で貴方を許したようですし。何通も真摯な言葉で謝ってくれたと。」


学校で色んな噂や陰口の中、実際に私がした事を聞くことも多くなって、私がした訳じゃないけどなんだかその行為が許せなくて手紙を出していた。


「許されたいとは思っていません。ただ自分が許せなくて手紙を。」


「身に覚えのない事でも謝れるなんてできた人ですね。」


「なん、何の事ですか?」


「ふふふっまあとにかくハント家への風もだいぶ弱まりましたよ。良かったですね。」


この人どこまで私を疑って?関西弁が今は憎いどうしても抜けない!頑張って隠さないと!


「そういえば王子候補は完全にあの2人に絞られたようです。ランバートかホルト。彼等は怪し過ぎますからね。」


「…そうですか?じゃあ私は王子かもしれない人に回し蹴りを…。」


「ふふふっ…あはっははは。貴方本当に。」


「だって真実が好きで空手を習ったんです!いつか私の川瀬くんを守る為に!川瀬くん激弱なんで。」


「ああそうでしたね。じゃあ僕を守ってくださいね。」


「やです。川瀬くんはもっと可愛い感じなんでそれに会長は不良じゃないし。」


「まあ酷い。僕は充分可愛いじゃないですか。」


会長の少しぶりっ子っぽい感じが本当に可愛くて笑ってしまう。私につられて会長も笑う。


「良かったやっと笑いましたね。アンリ笑っていてください。貴方は笑顔が一番素敵です。」


会長が私の頬にそっと触れる。頬に添えられた手に自分の手を重ねる。


「会長って優しいですよね。他の子にも優しいんですか?」


会長が優しく微笑んで言う。


「珍しい嫉妬ですか?」


「違います。嫉妬する資格ないですから。」


そう言って俯いた私の顎を支えて顔を上げさせる。目がしっかりと合うと、


「大丈夫貴方だけです。心配しなくて大丈夫ですよ。」


「…はい。」


私達はそのまま学校まで手を繋いで帰った。




2学期末のテストは私が1位でサムは少し下位に落ちてしまった。勿論順位が全てではないがいつも私達で1位、2位争いをしていたので少し心配だがサムを見上げると本人はケロッとした様子で私にノートを差し出す。


テスト期間って分かってたのにどうしても読みたい本があって勉強が疎かになっちゃったの。だからだわ。


「そうなんだ!私も掃除したくなるもん!分かる!」


えぇ。次はそうならないように頑張るわ!


「うん。また勉強しようね!」


サムは微笑み頷いてランバートと一緒に教室に戻ってしまった。私はテスト結果が貼られた掲示板の前に1人になった。でもそれならあの勉強会はなんだったんだ…。


「アンリ様俺の事覚えてますか?」


急に私の後ろから声をかけてきたのはホルトだった。正直声をあげそうな程びっくりしたが耐えた。


「えっとサムの友達ですよね。」


私にはこれ以上に彼の思い出はない。私が言った言葉に少し悲しげに俯く。


「この前はすみませんでした。」


この前?ランバートの事かな?


「いえ、私も蹴りをいれてしまったので…。」


「その事じゃなくて俺が軽率に貴方に触れた事です。」


ああ、あれ?急やな。


「ああいえ、びっくりしましたがもうしないでくださいね。気にしてませんから。」


「それは約束できません。俺の事気にして欲しいし。」


「は??えっ?」


「俺の事覚えていないんですか!俺と結婚の約束をした事忘れてしまったんですか?城の花園で!」


こ、こ、こ、こ、婚約?城?花園???


「俺はそれだけを心の支えにして。ずっとずっと貴方の事だけを考えていました!俺が隠れて過ごしていた10年間ずっと。」


「それは本当に私でした?か、勘違いって事は?」


「俺は間違えません!それに彼女はアンリ・ハントと名乗った。子供の約束だからとうやむやにはさせません!とにかく俺は貴方を奪います!俺は本気です!」


と言い残し行ってしまった。おいおいもうやめてくれよ。アンリさんよ問題を増やさんといてくれよ。


「どうしよう。」


と頭を抱えて座り込んだ。あかんわさすがにあかん頭が働かへん。ホルト・ラス、背が高く顔も良く声も良く細身だけどひょろひょろでは無いモテそうな見た目故に女たらしで貞操観念低め。

そんな男の子と貴族のアンリがどうやったら婚約なんて?子供の約束と言ってたから小さい頃って事やろうな。まさか王子ちゃうよな……ちゃう…よ…ね?


「…会長に報告しよう。」


私はサロンで昼食をとっているだろう会長の元へ急いだ。サロンへ1人で来るのは初めてでドアをそっと開けて覗くとたくさん人が居る!

無理無理貴族がたくさんとか我コミュ障なりよ。そんなの……。無理ぽ。


「あらアンリ様?」


この声は?


「組長!今日もとても可愛いですね!」


ぽっちゃりとしたフォルムにピンクの唇、白いレースの扇子少し照れて色付いた頬、金色の髪の縦ロールどれをとっても可愛らしい。まさに組長だ!


「まあどうもありがとうございます。この前はすみませんでしたね。貴方の愛ちゃんと見させていただきました。それで何をされてるのですか?」


「それがサロンへ入るのが怖くて…友達がいないので…。」


「ふふっあのキッドマン様は怖くないのに、知らない貴族が怖いのですか。ふふふっ。」


組長が口元を扇子で隠して笑う。可愛い。


「いえそのキッドマン様も怖いですが。今とてつもない状況でして会長に意見を乞おうかと…。」


私の状態が可哀想に見えたのか組長も悲しい表情で、


「分かりました。私が呼んできてあげます。」


と自分の胸をポンと叩き言ってくれた。


「ええ!そんな組長は先輩です!先輩にそんな事は!」


「良いのですよ。それではここで少し待っていてくださいね。」


「はい!ありがとうございます!」


ドアを開けてあげると優雅に中に入って行った。3分程で戻ってきて、


「アンリ様…ごめんなさい。キッドマン様は話を聞いてさえくれませんでした。」


と泣きそうな表情で帰って来たので、


「組長…。泣かないでください。私が仇をとります!」


意気込んで中に入った。会長は窓側の席で1人で昼食を取っていたので横まで行き、組長の為に絶対に怒る!と口を開くと会長が私より先に、


「ほら中に入ってこれたでしょう。」


といつもの胡散臭い笑顔で言った。私は驚いて開いた口が塞がらないとあんぐりと口を開けたまま数秒止まってしまった。すると会長が立ち上がり小声で言う。


「口を閉じられないなら僕が塞いであげましょうか?」


ハッとして口を慌てて閉じた。会長が満足そうに、


「貴方がここに来るなんて珍しい何かあったんでしょ。場所を変えますよここは目立ち過ぎる。」


会長はわざわざ昼食を中断して私の手を引いて歩き始めた。確かにサロンの中にいた貴族の生徒達が口々に話している。


「あの2人手を繋いでいるわ。」

「前も見たよ外で手を繋いでいるのを。」

「やはりちゃんと付き合っているんだな。」

「ならあの噂はデタラメね。」

「噂?」

「ホルトと婚約してるって話よ。」


「何ですって?」


最後に女生徒が言った事が聞こえた会長は足を止めずに私の方を見た。目が怖い。サロンの外に出たがもう組長はおらず中とは違って人は誰も居ない。会長の足が早足なので付いて行くのもやっとだ。この脚長族め。


「貴方、この話で来たんですか?」


「ええまあ。」


「ええまあ。じゃないですよ!」


やっと会長が止まる体育館裏のようだ。


「だって知らんかったもん!私だって!」


「知らんかったもんじゃない!」


「子供の約束って言ってた!あと城の花園って!」


「城の花園?あの場所は王家しか入る事ができないはず…。」


「へぇっどうしよう……。」


「…ホルトが王子。」


「いやでも私も花園入ってるし王家じゃないのに!」


「ホルトと婚約してる。どうしたものか…。」


「子供の約束ですし!」


「本当に彼が王子だったとして結婚したいですか?」


「結婚?」


「いずれ王妃になれる立場という事です。」


会長が鋭い瞳で私を見る。私は正直嫌だけどでも、


「もしアンリが今まで王子の婚約者になりたくて努力をしてきたのなら結婚せなしゃあないのかも。」


「貴方の気持ちはどうなんです?」


「でもアンリが。」


「違う貴方の気持ちを聞いてるんです!」


会長が少し声を荒らげる。


「私は許されるなら自分で選びたい。」


「ならしっかりしていなさい。貴方は貴方です。」


「はい。」




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