19、試験
「やっぱりここに居た!」
「うわぁ!」
「あぁごめんまたびっくりさせちゃったね。」
夕食を今まで通り購買で買ってジョンが現れないのをいい事に場所を変えずに芝生の上で食べていたら今日はジョンが現れた。
私は食べながら端末をいじっていた。会長に教えてもらって10文字以内ならメッセージが送れると今日会長がグレアム氏と連絡を取っていた時に聞いたのだ。
「ジョン?今日はどうしたの?何かあった?」
「何かじゃないよ!あのキッドマンっていう人と付き合ってるの?」
「え?」
ジョンが私の手を両手で包み話す。
「今日見たんだ。君の腕を乱暴に掴んでフラフラの君に罪人みたいに首から札を下げさせて学内を歩き回ってるのを。彼は本当に君を愛してるの?」
うわぁーお。確かにそう見える事も無きにしも非ず。
「ふふふっ。あはははは。」
「どうして笑うの?」
「いや、確かに何も知らない人から見ればそう見えるかもって思ったからふふふっ。」
「何それ!」
「えっ?」
急にジョンが大きな声で言う。
「僕が君の事何も知らないって事?ねえ!あいつは君の事を全て知ってるの?だから好きなの!それなら僕にも教えてよ。」
強く腕を掴まれる抱き締められる。いつも穏やかなジョンが今は激しい感情に揺さぶられている。
「痛いよ。」
「痛い?僕はもっと痛いよ!心が!僕が君を見つけたのに!あいつが横から攫っていった!」
「ちょっと!ジョン!離して!」
「離さないよ!絶対に離さない!君はあいつと居ても幸せにはならないよ絶対に!あんな酷い奴じゃなくて僕と!」
「ちょっと落ち着いて?ね?」
「うるさいなぁ。黙ってよ。」
乱暴に唇を重ねられる。おいおい会長にもここまでは許してねーぞタコ。唇に噛み付き力が緩んだジョンをドンっとを押すとやっと解放された。ジョンの唇の端に血が滲んでいる。
「あっごめん。」
ってなんで私が謝ってんねん!と思ったけど何故かジョンがとても辛そうで本当に悲しそうで何故か放っておけなくて傍に座りなおしもう一度謝る。
「ごめんねジョン。傷付けたのなら謝るごめんなさい。」
「僕、僕もごめん君に無理やりこんな事。幻滅したよね?ごめん。」
「幻滅はしてないよびっくりしたけど。」
ジョンは少し驚いて私の横に肩が触れる程近くに座った。
「僕、心配なんだ君が大事にされてるのか心配で。本当は無理やり付き合っているんじゃない?教室でも漫研の仲間の弟に四六時中、君を見張らせて誰も近寄らせないようにしてるし。」
「あれは私は人に恨まれてるから危ない目に遭わないように見張ってくれてるの。」
「…それに貴族は婚前にあまりに触れ合うのは良しとしないんだよ。それなのに至る所で君に触れているし。」
いやそれならお前もやろうがい。とは言わずに、
「うんでも会長は本当に優しいから大丈夫。」
「本当に君を大事にできてるの?」
「うん。ありがとうジョン心配してくれて嬉しい。」
その後俯いて言ったジョンの言葉は私には聞こえなかった。
「そうやって僕に笑ってくれるから、許してくれるから僕は君を諦め切れない、だから僕は全てを黙らせて君を手に入れる。」
アンリ今日放課後図書室で一緒に勉強しない?
2学期の期末テスト2週間前だし。
サムが授業終わりの昼食前に誘ってくれたので勿論おっけーと返事をして放課後図書室へ行くとそこにはサムが居て声をかけると横からランバートとホルトが出てきた。
会長の気を付けなさいよが頭の中で何度も聞こえる。これは怒られるぞ。サムに小声で言う。
「サム今日はお誘いありがとう。でも今日部活の集まりがあったのすっかり忘れてて勉強は1時間で切り上げるね。ごめんね。」
サムが優しい笑顔でノートに返事を書いてくれる。
勿論、じゃあ始めましょう。
「うん始めよ。」
勉強を始める前に会長に何通かに分けてメッセージを送る。サムの事、部活の集まりという嘘で逃げる事、ランバートとホルトがいる事。
「折角サムが誘ってくれた勉強会より自分の男がいる部活が大事か?ふんっアバズレめ。」
ランバートが小声でグチグチと言う。お前覚えとけよ私は嫌いな相手には容赦なく手をあげられるからのぉボケが。と脳内で応戦しサムの前に座って数学の参考書を開いた。まだランバートは何かを言っているが集中すると耳には入って来なかった。
「ねえそろそろ1時間だけど良いの?」
「えっああ。ありがとう。」
肩を叩いてくれたのはホルトだった。びっくりしたわ、綺麗な顔が近いと心臓がキュってなる。端末を見ると会長から返事が来ていて時間も1時間を少し過ぎている。
「サムじゃあ私そろそろ。」
サムがノートに書いて渡す。急いで書いたのか字が少し荒れている。
ええ!もう少し一緒に勉強しましょうよ。私どうしても解けない問題があってそこを教えてほしいの。
サムが困った顔で言うのでまた椅子に座り直す。
「ふふもう仕方ないなぁ。どこ?」
ありがとう。と紙を渡され問題を指さされる。確かにこれは難しいよねと言い解き方を話す。そして幾つか問題を教えてあげるとおかしい事に気付いた。
この問題は中間テストでやった。サムは100点を取ったから自分で解けるはず。一応教えるが絶対に分かっているはず。そしてもう一つ図書室に人が居ない司書さんでさえ居ない。ここには私とサムとランバートとホルトだけだ。そしてランバートは扉の前に立っているしホルトは私の横から離れない。
…これは…まずいか?いやでもまあ別に大丈夫かな?ただ目の前のサムは問題を出し続ける。なんだこの空間はクイズ番組か?私に解けない問題が出てきたらどうなるんだ。と次に指をさした問題に目を見張った。数学の問題だが大学レベルの問題出してきやがったぞ。これは何とか分かるが次はどうなるんだ。そしてホルトが小さく、
「これも分かるかぁ賢いなぁ。余計に駄目だなぁ。合格しちゃうよ。」
合格?と考えているとサムが紙を出した。
ありがとうアンリ本当にありがとう。これで終わり。
笑顔のサムは嬉しそうにノートを閉じた。
「えっとじゃあそろそろ行こうかな。サムまたね。」
サムが笑顔で頷く。ホルトもバイバイと手をふっている。なんだこの空間は?私どうなっちゃうの?ちゃんと漫研に行けるよね?とすんなりと帰してもらえるはずもなくランバートが立ち塞がる。
「私はお前が嫌いだ。お前の噂は貴族の間では有名だった。勿論私の耳にも届いていた。お前は貴族に相応しくない王家の次に力を持っているなんて不愉快だ。」
そして髪を掴まれた。おっと暴力かあんちゃん。後ろでガタガタと音がする。サムが椅子から立ち上がった音のようだ。ホルトは私立った時に立ってたし。
「ランバートそれは駄目だよ!」
ホルトが叫ぶ。ランバートの手にはいつの間にかナイフが握られていた。私は絶対に怯えてやらないぞそれだけは絶対に。
「なあに髪を切るだけだ。この女も少しは大人しくなるだろう。」
キラリとナイフに自分の姿が写る。ランバートは冷静だおかしい訳では無い。私の髪って長かったっけ?めちゃくちゃ短かったら坊主にせなあかんなぁと考えているとランバートは私の態度が面白くないのか言葉を続ける。どうやら私の身も心も全て傷付けたいらしい。
「司書番も権力の為にこの女を愛したフリをしているのだろう。あいつは権力だけがほしいんだ。司書番など見張り番、誰でもできる愚かな仕事だからな。」
はい!カッチーン!
私はまず回し蹴りでナイフを蹴りあげた。トスっと図書室のカーペットに刺さる。そのままランバートに後ろ回し蹴りをはなった。ランバートの横顔に綺麗にはいりランバートが地面に寝転がったので顔の横目掛けてかかと落としをした。ランバートの頬にローファーがかすりすっと血が流れる。
「鬱陶しいのぉ。もうどうでもええわ。お前が王子でも王子じゃなくてもどうでもええ。私の事は何とでも言えばいいちゃんと受け止める過去の事も全て落とし前付ける。でも会長は関係ないやろがい。ああ?聞いてんけコラ?会長に手は出すなよ?最初っから私目掛けてかかってこいや。ドアホが。」
私は完全に我を忘れて図書室から出た。
「サム合格?」
「合格。」
「…そう…。ランバート大丈夫?」
「あいつ何者だ?」
「彼女は凄い人だよ。ランバートが悪いよやり過ぎだ。」
「ああ。分かっている。すまない。」
「ちゃんと謝った方がいい。あっちが本気になったらバレかねない。バレたらまずいのが君だよ。」
「ああ。」
「アンリ!」「ハント氏!」
私は走って漫研に逃げ込んだ。
「良かった全然来ないから心配したでござるよ。」
グレアム氏が青い顔で言う。会長はほっとしたように椅子に座った。
「良かったです。貴方に何かあったのかと。」
「会長やばいです。めちゃくちゃやばい。どうしよう…。私殺られるかも…。」
「「は?」」
私は会長の話は伏せてランバートにされた事とした事を話す。グレアム氏はみるみるうちに顔が赤くなり、会長はどんどん眼鏡の奥の瞳が血走り始める。
「拙者久々ですぞこんなに怒りを感じるのは。」
「奇遇ですね。僕もです。昨日よりも怒っています。」
おいおい2人共、目が据わっているゾ。
「鎮まりたまへ。鎮まりたまへ。」
「それ以上ふざけるなら貴方も沈めますよ。」
「怖。ぴえん。」
「グレアムあいつらどうしてやりましょうか?」
「ふふふっいっそ情報全て開示するのはどうですか?王子が誰かは分かりませんがだいぶ集まってきていますぞ。」
「そんな生温い。全員もう2度と口がきけない体にしてやりましょう。」
「全員?」
「ランバートとホルト、サムに貴方です。」
「サムと私はやめろ。」
「だって男女差別はいけませんから。全員一緒です。僕そういう配慮もできるんで。」
「おいおい落ち着いてくれよ。なんだよ昨日から。会長にジョンにランバートに。」
「「ジョン?」」
あっやべ。私はそっと立ち上がり漫研から出ようとしたが案の定2人に捕まった。




