17、抗争
「貴方キッドマン様のなんなのよ!」
とうとう来たか!女子4人だ。前にいる左側の女生徒が威勢よく切り込んできたって事は鉄砲玉か。そして次は前列の右側の女生徒が言う。
「ちょっと聞いてるの?何か言ったらどうなのよ!」
ふむ前2人は鉄砲玉と舎弟っぽいって事は後ろの2人が組長と若頭か。確かに黙ってドンとしているぜ。ここは勿論、組事務所…ではなく貸し切られたサロンである。入口に本日貸切と札が出ていたのである。放課後にやけにファンシーな手紙で呼び出されたのである。
「はい。」
とりあえず返事をしよう。返事は大事。
「ちょっと貴方馬鹿にしてるの?どうなっても知らないわよ!」
はっ後ろの右側が先に出てきて脅しをかけてきたという事は右が若頭、左が組長か。丁寧に努めて丁寧に言う。
「それではご要件をお話しください。」
「まあまあ皆、落ち着いて。私達はキッドマン様を貴方から守ってあげたいの。貴方の秘密知ってるのよ。バラされたくないでしょう。」
組長だけあってやはり落ち着いている。かっこいいな。笑顔もその後に扇子で口元を隠す仕草もかっこいい。私も買おかな扇子。めちゃくちゃゴージャスなやつ。ディスコ行けそうなやつ。
「聞いておいで?アンリ様。」
「はい聞いています。それで秘密というのをぜひお聞かせ願えませんか?お願い致します。」
「ふふふっ以前は私達に敬語なんて有り得なかったのに。本当にお変わりになられたのですね。その丁寧な対応に免じてお話しますわ。」
組長が口元を隠したまま話す。組長は完全に可愛い。少しぽっちゃりとしたフォルムも小さなピンク色の唇も可愛らしい。
「貴方キッドマン様とお付き合いされているにも関わらず、ホルト様とも。酷い女ですわね!」
「?」
「何か弁明はありまして?」
「ホルトサマ?」
「何故急に片言に?この一瞬で言葉を理解できなくなったのですか?」
「?ホルトサマ?」
「ええそうですよ。愛しているのでしょうホルト様を。」
「誰が?」
「貴方が。」
「誰を?」
「ホルト様を。」
「愛してる?」
「愛してる!」
「それが私の秘密?」
「そうですわ!この事をキッドマン様にバラされたくなければ「ええですよ。言うてもらって。」え?。」
「だから言ってもらって大丈夫です。違うので。」
「つ、強がってもダメよ!本当に言うわよ!」
絶句している組長の代わりに若頭が言う。
「ああじゃあ今言うてきてください。会長に。私ここにいますんで。」
「えっ?」
私はサロンにあるふかふかのソファにどっかりと座りなおした。鉄砲玉が驚いたように私を見る。
「さあお茶でもしますか?お金ないですけど。」
「もういいわ!慈悲の心で自分から身を引く機会を与えたのにならお言葉通り今すぐに言いに行きます!」
鉄砲玉が鉄砲の玉のように飛び出して行った。そしてすぐに戻ってきた。組長が嬉しそうに聞く。
「おほほほさあ言いなさい!キッドマン様はなんて?」
「漫研に入れてもらえませんでした。」
鉄砲玉が悲しそうに言う。いや草。鉄砲玉が可哀想。
「な、なんですって…。おほほほ。ま、まあ少し時間が伸びただけで貴方が捨てられるのは目に見えてますし!」
組長が涙目で言う。なんだか可哀想に思えて一緒に案を考える。
「だ、大丈夫。私待ちますから!ね?えっと放送で呼び出してみるのはどうですか?」
「そ、そうね呼び出しましょう。アンリ様の名前で。」
「そうしましょう!きっと会長は来ますよ!」
そして数分後サロンの近くの教室にアンリ・ハントが待っているという放送が流れた。舎弟が勢いよく飛び出して行く。
「おほほほ、嘘の放送で呼び出しその上、貴方が来ないなんて余計に貴方捨てられますわね。」
「く、悔しい。」
と真顔で言い私はお茶をすすりながら舎弟の帰りを待った。
そして10分後舎弟が戻ってきた。
「さあ!なんて?キッドマン様はなんて?」
「アンリ様じゃないと分かった瞬間、教室にも入らずに戻られました。」
舎弟が悲しそうに言う。草。
「そ、そうなの。」
組長はすっかり肩を落としてへこんでいる。ほとんど泣きかけている…可哀想に。組員も落ち込み泣きそうである。せっかくサロンを貸切にしてお茶まで出してくれたのに。会長に話す事さえ辿り着かないなんて…。つら…。何か私にできる事は…。
「分かりました組長!私が会長呼んで来ますよ!さすがにここに来てくれると思います!」
「アンリ様良いのですか?だったらお手数をお掛けしますがお願いします。私達いつもいつもキッドマン様には避けられてしまって…お話さえできないんです。」
「ええ!組長呼んで来ます!待っててください!」
私は組長の為に走って漫研へ向かった。
「組長?」
「さあ会長ついてきてください!」
「それよりさっきの放送はなんですか?彼女誰だったんですか?」
可哀想に誰なのかも知られていない。舎弟…仇は…仇はとってやるからな!
「とにかく一緒にサロンへ行きましょう!」
「分かりましたから引っ張らないで!」
「連れて来ました組長!」
「まあ!良くやりましたね!アンリ様!キッドマン様お願いです話を聞いてください!」
「嫌ですよ。貴方達の話なんて興味ありません。」
組長含め全員がしゅんとしてしまう。
「ほらアンリ行きますよ。どうせろくな事じゃないんですから。」
「…会長お願いです。少しだけでも話を聞いてあげてください!1分でも良いんです!組長の話を!」
私は会長の腕を引っ張る。
「アンリ様…ありがとうございます。」
組長が私を見てお礼を言うと、会長が仕方ないと椅子に座った。
「キッドマン様アンリ様はホルト様を愛していらっしゃいます。」
あっせやった。組長は元々この話の為に。ワロタ。てへっ。
うわぁめちゃくちゃ怒ってるぅ会長めちゃくちゃ怒ってるぅ。やだぁもぉうこわぁーい。お顔やばぁーい。
「貴方がそんなに必死になって聞かせたかった話がこれですか?」
完全にキレている。眼鏡の奥の瞳が血走って今にも雷を落とされそうだ。こういう時は生贄を捧げようアーメン。そっと組長の後ろに隠れる。
組長は小さくえっと言うとそのままフリーズしてしまった。そして怒りの矛先が私ではなく組長に変わった。
「で、根拠は?」
「へ?」
組長が震えながら返事をする。もしかしたら会長が怒った所なんて見た事がないのかもしれない。いつも穏やかだしあまり感情の起伏がないし。会長は静かに怒っているので余計に恐ろしい。
「根拠を聞いているのですよ。アンリがホルトを好きな理由です。何かあるのですよねぇ?えぇ!」
「ひっ。いえ、あのその。あっそれはアンリ様から聞いたら良いのでは?」
組長はくるりと回り私を差し出す。会長はさっきより怖い顔をしている。
「組長酷い!会長!私は誓って会長一筋です!ホルト様の話なんて私も初耳です!会長を愛しています!」
私は必死に叫びくるりと回り組長を差し出した。
「との事ですが?今、本当の事を言えば説教は貴方の後ろの馬鹿だけにしてあげます。ほら言いなさい。」
ぶるぶる…怖い声。ん?後ろの馬鹿?って私じゃね?オワタ。組長が会長の言葉に堰を切ったように話し始めた。
「ランバート様が!ランバート様がホルト様とアンリ様付き合っていると仰っていましたの!だから真実だと思いましたの!すみませんでした!」
ランバート様?またあいつか嫌いならほっといてくれたらいいのに。
と言い終わると組長が私を生贄に差し出した。
「組長!私を!私を代わりに?」
「ごめんなさいアンリ様、貴方は本当に良い人でした。さようならまた逢う日まで。」
「さあ漫研に行きましょうねアンリ。」
私は会長に首根っこ掴まれて引きずられる。
「組長!組長!助けてください!私は…私は貴方の為にこの手を汚したのに!」
「アンリ様!お元気で!お元気で!」
組長が泣きながら手を振っている。
そしてパタンと目の前でサロンの扉が閉まった。




