15、鈍感力
「会長。」
「はい。」
「ひとつお願いをしても?」
「はいどうぞ。」
「帰らせ…。」
「駄目です。」
「会長これが分かっててこの日にしたんですね!騙しましたね!だからあんな詐欺に引っかかる気持ちになったんや!」
「お礼を言い出したのは貴方です。大人しくお礼として私に付いて来なさい。大丈夫綺麗ですよ。素敵です。」
朝から会長が寮に大量の紙袋を持って乗り込んできた。私に服やアクセサリー、靴とお菓子の入った紙袋を持たせて叩き起こし、ハンナにも朝から不躾に女性の部屋に入った詫びにと高級そうなお菓子を渡し颯爽と部屋着の私を貸切のサロンに連れて行き寝惚けている私に朝食を食べさせていつの間にかサイズピッタリのワンピースに着替え終わっていた時には恐怖を覚えたが。着替えの最中、
「ていうかどうやって入って来たんです?」
と質問し、
「これです。」
と私の端末を見せられた所から記憶を消した。
そもそも校外学習の前日にお菓子を買ってくれるという約束だったのに。いや確かにお菓子は買ってくれていたけど、朝からデートをするとは聞いてない。しかも学校のすぐ傍なのでめちゃくちゃに生徒が多い中お揃いの柄の服に身を包みヒールを履かされ映画館に連れて行かれる。学生の娯楽なのか本当に生徒が多く見た事ある子も沢山いる。
「今日は学生が割引される日ですから多いですね。」
ニコリと笑い前もって買ってくれていた映画の券をポケットから出した。会長選んだ映画は恋愛映画のようだ。ポスターは主演2人が泣きながらおでこをあてて話をしている場面だ。じゃなくて、
「謀ったなぁ!」
「おや謀るなんて人聞きの悪い。私買っていただけるんですよね?って自分で言ったんじゃないですか。だから買ってあげました貴方を。」
そう言って手を繋ぎ私を席に座らせる。1番端の列でカップルシート?カップルシート!席が繋がっているだと……。買っていただける?ん?あれは!
「私のお菓子を買ってくれるんですよねっていう意味で!ていうか貴族なのに外でデートしたりして良いんですか?」
「この娯楽施設と外の多くの店は学校の持ち物ですだからまだ学校内のようなもの安心してください。これから言葉ははっきり口にしましょうね。悪い人に同じ事を言ったら貴方酷い目に遭いますよ。さあ貴方をお菓子で買いましたから今日1日言う事を聞いてくださいね。」
会長が悪い笑顔で言う。
「もう悪い人に騙されたんですが。」
伏し目がちに言うと顔を上げられて、
「そうですよ僕は悪い男なんです。貴方はそんな悪い男に騙されたんです。可哀想な僕の恋人。」
ぐふっ顔が、顔が良い。とんでもない事を言われているのに顔が良い。
「顔が良い。もういいです会長の好きにしてください。」
「また!本当に好きにしていいんですか?」
ニヤリと笑い言う。慌てて否定するも既に手は握られ会長の足の上に置かれている。
「ちょっと!」
「貴方は本当に学びませんね。それにカップルシートなんですからこれ位は普通ですよ。」
「ほんまに?貴族ってもっと堅いと思ってたのに。恋は秘め事ですみたいな感じ。」
「そうですね大概はそうです。僕と貴方だけですね大胆なのは。ちょうどいいです僕達は貴族社会でははみ出しものなんで。」
「おい。」
「しっ暗くなりましたよ。黙って前を向いてください。」
ほんまに覚えとけよ。と前を向いた時、目の端にジョンが見えた気がしてそちらを向いたけど誰も居なかったので気のせいかと映画に視線を戻した。
「会長…。完全に…。騙しましたね。」
「僕が?あらそんなに震えてどうされました?」
「ふ、震えてなんて。それよりホラー映画だなんて!」
「言いませんでしたっけ?」
「会長の事嫌いになりそうです。」
「まあ酷い。」
映画館から公園の傍のカフェに移動してテラスでランチを食べている。今日の夜はお風呂に行く事さえできない気がする。あのポスターなんだったんだ!ポスター詐欺か!
「じゃあお詫びと言ったらなんですがこれをどうぞ。」
差し出されたのは縦長の赤いリボンが巻かれたプレゼントの箱だった。
「えっなんですか?」
「恋人なんですから贈り物をしようかなって。ほら開けてください。」
「はあ。じゃあ。」
開けると中には1粒のダイヤっぽい石のシルバーのネックレスだった。ダイヤ5mmはあるぞ。おいおいおいおい怖いわまじで。
「ダ、ダ、ダ、ダイヤっぽいですが。ま、ま、まさかダイヤではないですよね?お、お、大きいし。」
「恋人に偽の石なんてあげる訳がないでしょう。ダイヤですよ。職人にお願いしてダイヤが落ちないような装飾にしてもらったので鈍臭い貴方でもただのチェーンを首からぶら下げるなんて事にはならないですよ。」
「会長、これは頂けません。今日だってお礼のつもりで来てるのにその上こんなものまでぶっ倒れそうです。」
「…じゃあお願いを聞く対価として受け取ってください。」
「お願い?」
「ええこれをいついかなる時も肌身離さず付けておいてください。絶対に外さないで。そのお願いの対価として受け取ってください。」
「対価にならないのでは?」
「ごちゃごちゃうるさいなもう。つけてあげますから。」
後ろに回りネックレスをつけてくれた。この人本当に謎だ。でもとても綺麗なネックレスなのでつけているだけでしゃんとした気持ちになる。
「絶対に外さないでくださいね。特殊な加工を施してあるので水や汚れにも強いです。だから風呂や眠る時も絶対に外さないで。」
「いや怖いな。分かりましたよ外しません。約束は守ります。」
「似合ってますよ綺麗です。」
「やだぁもぉ普通にそんな事言って恥ずかしくないんですか?」
「照れなくていいですよ。本心ですから。」
「ちょっとほんまにやめて。」
「さあ午後からは図書館巡りですよ。2館巡ります。」
「もしかしてこれがメインでは……。」
「ええそうですよ。さあ行きましょう。」
「いきいきしてて草。」
「早く行きましょう。今度は本当に学校から出ますよ。」
会長が嬉しそうに言う。正直、この人がここまでしてくれる意味が分からない。どうして恋人のフリをして私を庇ってくれるのか見当もつかない。私の家が王の次に偉いから?でもそれ以上に私の悪評は広まっているしていうか幼馴染みなら知っているだろうし。でも偉いからの他に会長にはメリットが全くない。会長は顔も良いし性格も良いし賢いしかっこいいしすぐに素敵な恋人ができるだろうに。
あらあらあらあらあらいやまさか、私まさか会長の事…。いやいやいやいやいやそんなまさか。優しいからってだけよ。うんそうよ。
「会長聞きましたぞ。ハント氏とお出かけしたでござると。」
「ええ。恋人ですから。」
「しかも服とネックレスを贈ったと。ハント氏は意味を知ってるのでござるか?」
「知らないでしょうね。でも言う事を聞いてネックレスをつけているのでよしとしましょう。」
「……会長本気になってもいいんですぞ。別に誰も咎めはせぬよ。」
「グレアム、僕は最初からずっと本気ですよ。知っての通り僕は悪い男なので。」
会長がニヤリと笑いドライと一緒に資料を見ているハント氏を見た。そうでござるか最初からずっと…そんな顔して。ハント氏厄介なのに目を付けられたでござるなぁ。もう逃げられないかもしれないでござるよ。
「会長!グレアム氏!こちらへ!この資料レポートに使えそうです。」
「はいはい今行きますよ。」
会長が歩き始めるのを追う。会長は気付いているだろうか最近ハント氏の会長に対する瞳が他とは違うと。悪い男のくせに自分の事には気が付かないなんて可愛い悪い男でござるなぁ。
青春でござるなぁ。特に会長は女性関係では色々あったでござるからなぁ。女生徒にストーカーされたり物が無くなって新しくなって現れたり。とにかく守ってあげますよ2人共まだ子供だし1人は成人女性だけど確かに今回は僕の責任だからね見てるだけなんて言わずにちゃんと。
「ほらグレアム氏も!」
あんなにはしゃいで前の世界では身も心もボロボロだったのに。良かった笑えるようになってって僕が記憶をいじったんだった。てへぺろ。
「ハイハイすぐに参りますぞ。」
彼女の首にはキラリと会長の束縛のいしが光った。




