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10、サロンと貴族


「おはようアンリ。」


「おはようハンナ。」


「あのね今日、あの…1年生の…女子の…会議…があって。お昼一緒に食べられないの。ごめんね?」


「ああ、あーいいよ大丈夫!大丈夫!誰かと一緒に食べるから!」



一緒に。1年生の女子が全員ってことはサムもいないじゃないかですかー!はい1人決定。もういいですー1人で食べますー。はいー。


「どうしたんですか?そんなにむくれて。」


「ひわっ。びっくりした!会長?」


「可愛い女の子みたいな驚き方でしたね。」


「シバくぞ。可愛いやろ。」


「何語ですか?それで何をしてるんです?サロンの前で。珍しいですよね。」


「ここが…サロン…。こんなとこに…あったんだ…。」


私はまた迷ってこんな場所まで。会長が答えを促すように黙って私を見ている。


「それが今日はお昼に王子会議があるらしく友達が1人もいない私はお昼を購買で買って外で食べようとして道に迷って今です。」


目を見ずに早口で言う。


「ああ……あはっは…ふふふっ…仲間外れ……。」


こいつ処す。


「ならちょうどいい一緒に食べましょう。今日はここで。」


会長が私の手を引っ張り無理やりサロンに押し込む。中は行った事はないがベルサイユ宮殿みたいだ。多分ベルサイユ宮殿ってこんな感じだ、知らんけど。


「会長、私サロン初めてで料理の注文の仕方も知らないのですが!」


「大丈夫大丈夫。ああ席は…外のテラスにしますか。行きますよ。」


入った時から思っていたがジロジロ見られている。ひたすらに見られている。怖いお。コミュ障にこんな明るい場所は無理だお。


「会長めちゃくちゃ見られているんですけど。」


「気の所為ですよ。それより早く座りなさい。」


外は少し暑いからか他に生徒はいなかった。それでもガラス越しにジロジロと見られて噂されている。


「会長……さすがに泣きそうなんですが…。」


「気にしない気にしない。ほらメニューですよ。」


手渡されたメニューはどれも横文字だらけで何がなんだか…そういえば一度後輩がフレンチ料理に連れて行ってくれたなぁ。あの時も服が大丈夫かとか場違いじゃないかとか周りを気にしてた。先輩はどうせいつもろくなもん食べてないでしょ先輩のおかげで仕事上手くいったんでそのお礼ですって珍しくパリッとスーツなんて着ちゃって料理を選んでた。なんだったけあの時後輩が私の為に選んでくれたメインは……。


「ムニエル…。」


「ん?決まったんですか?」


「はい、メインは白身魚のムニエルにします。」


「分かりました。ちょうど来てくれましたし頼みましょう。」


執事さんみたいな人がいつの間にか立っていて会長が頼んでくれる。あの時の後輩よりもスマートに慣れた様子で。


「会長は落ち着いてますね。」


「ええまあ毎日通ってますから。」


「毎日かぁ。そうですね彼は私と毎日ファーストフードだったしそりゃ緊張するか。ふふふっあの時も散々私を馬鹿にしながら自分も水をこぼして…ふふふ。」


「誰の話ですか?」


「あっごめんなさい。気にしないでくださいちょっと昔の事を思い出したんです。」


「はあ。」


料理がくるまで会長は本を読み始めた。私は外の庭を眺める。あの時のレストランもホテルの庭が綺麗に見えた。後輩がわざわざそこを選んだのは庭を見せたかったからと言ってたなぁ。元気かなぁ?少ししんみりとしてきた時料理が出てきた。白身魚のムニエル。魚が少しだけ苦手な私の為に後輩が選んでくれたこれから美味しく食べられるようにと。あのレストランは魚が美味しいと評判だと後から知った。


「お先にいただきます。」


「ええどうぞ。僕のは後できますから。」


「美味しい。」


美味しいけどあの時の方がもっと美味しかった。こんな事になるならもっと後輩を可愛がってあげれば良かったなぁもっと仕事も教えてあげたかったし。何よりその帰りに後輩の家で飲んで酔って階段から落ちた事に自分を責めてないかなぁ…。ごめん。私なんでこんなとこにいるんやろう?

こんなわけのわからん世界に連れて来られていきなり皆に嫌われて生きないとあかんの?やばい…もう大人やし泣くな、会長に迷惑がかかる。


「ほら。」


会長が水色のハンカチを差し出し私の隣に立ってくれる。


「我慢しなくていい。言ったでしょう僕が守ると。泣けばいい。」


「ず…ずるいぃー…そんな事言われたら泣くじゃないですかぁ…うぅ……。」


涙が止まらない。自分が死んでしまったかもしれない事、家族や友人、仕事仲間、全てを置いてきた事、この世界の理不尽だと思っている事全てが溢れだしてくる。

会長は本当に何も言わずに横に立って背中をさすってくれる。30分程でやっと落ち着き会長を見上げた。


「落ち着きましたか?」


「はいありがとうございます。」


周りにはもう生徒も執事さんっぽい人も誰もいなかった。


「じゃあ外にスイーツでも食べに行きますか。」


「外?」


「学校の外ですよ。行きましょうか。」


「えっ学校は?」


「もう今日は終わりです。終了です。」


そう言って私の手を引っ張り本当に学校の外に出てしまった。外は白壁のお店が立ち並び様々なものが売り出されている。雑貨や小説、服にアクセサリー。ウィンドウショッピングなんてこっちの世界にきて3ヶ月初めてだった。


「会長!私買い物初めてです!楽しいです!こんな事なら早く外に出れば良かった。あっお金ないわ。」


「初めて?それはそれは良かった。さあスイーツ食べに行きましょう。」


「はい!」


その後先輩が連れて行ってくれたのは美味しいフルーツパフェのお店でみずみずしい果物が生クリームと合わさってもう最高だった。


「会長ご馳走様でした。最高に美味しかったです。」


「ええとてもいい顔をしてました口にあって良かったです。さあ漫研に行きましょうか。」


「はい!」


私はさっきまで泣いていた事を忘れてルンルンで学校に戻った。会長の優しさが心を温かいもので満たしてくれてもう悲しい気持ちは微塵も残っていない。




「会長、今日午後からどこに行ってたの?拙者1人でレポートの発表したでござるよ。」


「すみません野暮用があって。」


口を開けて眠りこけているアンリを見る。


「ハント氏?そうだ…勝手ながらハント氏の事調べさせてもらったでござる。会長、ハント氏と幼馴染みでござるな?」


「……そうですよ。」


「どうして黙っていたんでござるか?それにアンリ・ハントは周りの全ての人間に辛くあたり罵声をあびせて家の名で脅し周りを従わせ歯向かう者には容赦なく家に圧力をかけて一家を離散させる。実際に1件だけそのような事例が存在したでござる。」


「ええそうですよ。笑っちゃう位酷い女でした。」


「会長、でもこの子は…。」


「ええ、全く違う。意味が分からないんです。小さい頃から近くでアンリを見てきました。入学式までは最低の女だったのに。最初にここに来た時また僕を下位の貴族だからと馬鹿にして存在を知らないフリをしていると思ったんです。たまにそういう遊びをする事があったので。でも…。」


「全く違ったでござるか?」


「ええ、意味の分からない言葉を話し漫画について暑苦しく語り僕の事やグレアムの事を素直に先輩だと思う可愛らしい後輩です。サロンには来ず食堂で昼食をとるし食堂でなんて貧しい貴族でも見栄を張って行かないのに。しかも身の回りの世話をさせる同室の生徒に同じベッドを与え部屋を半分ずつ使って、ましてや王子に全く興味を示さず司書をかっこいいっと言ってくれた。多分、彼女はアンリ・ハントじゃない。」


「会長もやはり調べていたでござるか。その口ぶり。彼女を何者だと思っているでござるか?」


「まだ何も。でもアンリではない誰かです。」


「誰か?」


「彼女の中には記憶が存在しているんですがアンリの記憶は一切ない。僕を忘れていましたし嫌われているのも身に覚えがなさそうでした。」


「ふーむでもそんなとんでもない話。」


「泣いたんです。」


「えっ?」


「それが決定的でした。アンリが白身魚のムニエルを食べて泣いたんです僕が傍に居た12年で初めて。感情をそんな風に外に出すなんて見た事ない。あの子も可哀想な所があって両親にずっと関心を持たれず育ったんです。だからあの子の中には怒りしかなかったいつも両親に怒っていたんです。それが周りにも。」


「そう。」


「ええそれで入学当時は怯えていた貴族達が随分変わったアンリに嫌がらせを始めたようで。僕達には何も言いませんが裏でヒソヒソと陰口を言われたり噂を流されたりしているようです。」


「それで急に恋人でござるか。」


「ええ、後輩に王子がいる以上僕も強くは出られなくて。」


「そうでござるな。それで気分転換に外へ?」


「ええあんな朗らかな笑顔初めてみました。ここでの買い物は初めてだと言ってしかもお金がないと。本当に可笑しいです。パフェも大きな口を開けて…ふふふっ。」


「買い物が初めて?それに天下のハント家がお金ない?」


「ええ今持っていないという意味でしょうが。他人の僕にお金がないと言うなんてプライドの高い以前のアンリだと有り得ないです。」


「そうでござるか。デート楽しかったようでござるな。」


「違っデートじゃないです!僕は元気付けようと!」


「ほら大きな声を出すと起きてしまうでござるよ。」


「はい。」


グレアムが声を出さずに大笑いする中僕はアンリを見た。この子を守ってやりたいと思っている自分に笑ってしまう。以前は近くに行くことすら嫌だったのに。あの時、自分を信じてこの子を漫研に入れてみて良かった。

目にかかっている髪を掬ってやりながらふとグレアムを見るとインスタントカメラを構えていて僕を撮ったようだ。


「なんです急に。」


「ええーだってーほらぁ。」


ニヤニヤ笑いながら出てきた写真を僕に渡す。そこに浮かび上がって来たのは信じられない程優しい笑顔の自分が眠るアンリの髪を掬う所だった。


「これはこれは。」


「ねっ。」


「グレアム黙っていてくださいよ。」


「ふふっ了解でござる。」


僕は写真を手帳に挟んだ。あの僕の瞳。写真はとんでもない一瞬を残す。あんな大事そうな愛しそうな瞳。


「恋人ですから。」


「はいはい。もう少しそうしてるといいでござるよ。拙者は人に会いに行ってくるでござる。」


「あら友達の少ない貴方が珍しい。」


「悪口でござるよ。じゃあ今日はもう戻らず寮に帰るからイチャコラしてもいいでござるよ。」


「しませんよ。行ってらっしゃい。」


そう言ってグレアムは行ってしまった。アンリはとうとうヨダレを垂らし始めている。


「貴方は本当に。」


さっき涙を拭ったハンカチで拭ってやると微かに身動ぎ微笑んだ。


「ふふふっ……まだ……もう…ちょっと。」


「寝言…。いいですよおやすみ。」


おでこにキスを落とす。良い夢を見られるようにまじないとして。



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