1、導入が大事
「今回のさ転移者の担当って僕でしょ?」
「はい。」
俺はスマホでゲームをしながら先輩の話に相槌を打つ。
「それでね、まあいつも通り事故で亡くなってしまう人のリストの中からちゃんと厳選したのね。」
「はい。」
ゲームの石がちょうど無くなったので仕方なくネットショッピングを始めた。新しい服をちょうど見たかったし。
「それで印を付けたの、あれをしたら決定じゃん?それでちゃんと見たらさアラサーの女性だった。てへぺろ。」
思わずスマホを落とす。
「はあ?あんた今回の設定は15歳ですよ?馬鹿ですか?転移者ですよ?」
「もう猫丸を責めないで!必死に選んでくれたんだから!」
猫丸というのは文字通り先輩が飼っている猫だ。
「いやお前馬鹿だろ!猫に罪はねえよ!仕事舐めてんのか?辞めちまえ!」
「僕先輩だよ!それで上司に連絡したらもう仕方ないから見た目をいじれよって言われて。ああほら僕ってぽっちゃりドジっ子が好きじゃん?」
「知らねーよハゲ!上司も倫理観ゼロか!」
「ハゲてないもん!いや亡くなるとはいえ勝手に異世界に誘拐する訳だから倫理観はゼロだよきっと。まあそれで仕方ないからぽっちゃりな童顔の女の子にさせてもらったのね?」
「何にも仕方なくねーよハゲ!やっぱり仕事舐めてんだろ!今回の設定をちゃんと見てこいよ!王子に見初められる事でエンディングなんだぞ!お前の好みじゃなくて王子の好みの見た目にしろよ。」
「まあまあそれで今さっき転移者が僕の好みの見た目で来たんだけどね。名前を聞いたらアンリ・ハントって言ったからびっくりして彼女の記憶を消しちゃった。てへぺろ。びっくりして最大魔力で記憶を消したから一生戻らないやごめーん。」
「アンリ・ハント?アンリ?アンリ!あのアンリか?ヒロインをいじめ倒す悪役令嬢のアンリ?はあ?どういう事だハゲ!」
「猫丸は悪くないんだ!猫丸は僕の代わりに魔法のステッキを振ってくれたんだ転移の間で。猫丸があのピンクの肉球で。にゃあんって本当にきゃわわ。」
「お前本当に馬鹿なんだろ。なあ?なんで転移者の魂が入らずにアンリが入ったんだよ?そもそもお前が最初から15歳の女の子を選んでりゃこんな事にならなかったんだよ!お前本当に仕事辞めちまえよ!クビだ。」
「ねえ僕先輩だからね。酷くない?僕は何も悪く無いのに。ぴえん。」
「殴っていいか?」
返事をする前に殴ったがヒラリとかわされる。こいつ本当に腹が立つ。
「怖いお。最近の若者が怖いお。ぴえんこえてぱおん。」
「おいハゲ。お前この事言ったのか?」
「ハゲてないもん!言ったよそしたら、まあいいんじゃん面白いしって言われたぁ。やばくないうちの上司?でもその後に笑顔で、次失敗したらクビなって。まじぴえん。僕は猫丸を食べさせなくちゃいけないのに一家の大黒柱なんだよ。本当に厳しいよあの上司。」
もうつっこまない。
「へえじゃあ本物の転移者はどこに?」
「アンリの中だよ!で本物のアンリはまっさらになって転移者の中!」
「それで話は成り立つのか?卒業する時果たして王子は転移者を選ぶのか?」
「うーん…転移者に入ったアンリ、記憶は消えたけど本質はそのままだから他の子を虐めちゃうし、アンリの中に入った転移者はとてもいい子だけどアンリは15歳までで既に周りからめちゃくちゃに嫌われてるから多分王子とは無理だし。どうしよう。」
「もう本当にハゲいい加減にしろよ。もういっそお前がヒロインやれよで王子に見初められろそしたら終わるだろ。」
「駄目だよ。僕がヒロインやったらその世界の男の子全員に愛されちゃう。」
「あんたのその全然自分も周りも見えてない所、治した方がいいと思う。」
「ぴえん。」
「あーまじだるいわ。俺あんたの相棒だからサポートしなくちゃいけないじゃん。」
「ありがとう若人!でどっちがいい?記憶のないアンリかアンリの中に入った転移者か?」
「ややこしいから、とりあえずアンリが入った転移者を転移者と呼んで、転移者が入ったアンリをアンリと呼ぶぞ。」
「外側で呼ぶんだね。り。」
「俺はアンリ。」
「うん僕は転移者の方に。別に僕達から彼女達に説明とかしないし本当に傍にいるだけだけどね。」
「だから人選は大事なんだよハゲが。」
「ぴえん。」