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そんなこんなで敏之と出会ってから、はや数ヶ月。お決まりの場所になった小屋へと向かう。
最近は畑仕事にも慣れてきた。
なんと! 斎賀のお殿様の命令で堆肥が作られるようになったのだ!!もう息を止めながら撒くこともない!
(ありがとう、お殿様!!)
なんでも、斎賀の若様が主導して行ったらしい。へぇ~、よく思いついたな。感謝感謝。
そう思いながらテクテクと歩く。
今日は近所の子供の面倒を見ないといけない。前に一度だけ、休憩中に遊んでやったら懐かれたらしい。井戸を覗き込もうとしてる子がいて慌てて抱き上げた。
親が畑仕事をしている間、眠っていたらしいのだが起きたら親がいなくて、外に出てきたらしい。
両親も気づき、「ありがとう、ありがとう!」と感謝されすぎてこっちもペコペコしながらその日は別れた。それからちょくちょくと面倒を見ている。
今回は、町に収穫したものを売りに行くらしい。少し前にここのお殿様が戦で勝利したらしく、戦いに行っていた人が帰ってくるから、人で賑い絶好の機会だそうだ。
そうして、ぶらぶらと歩いて小屋へと着くと、敏之はもう来ていた。だか、もう1人知らない男がいる。少し離れたところで立ち止まっていると、音で気づいたのか2人が振り返った。
「真人こっちこっち」
手を振っておいでおいでとしてくる。男はちらりとこっちを見ると軽く頭を下げた。俺も会釈しながら近づくき、挨拶をする。
「こんにちは」
「あっ、この人ね、私の父上のところで働いているんだ。今日さ、子供の世話をするって言ってたよね。敏之を連れていきたいところがあるからこの人に任せよーよ」
「いやいや、何言ってんだよ。いくらなんでも初対面の人に任せられないって」
そう言うと
「敏之様の守役の高野政成と申す。よろしくお頼み申す」
「政成は信用できるよ。私が小さい頃から一緒にいたから子供の扱いも安心できるし。政成に任して行こーよ」
「え、でも……」
「いいからいいから」
そう言って敏之は俺を村の方へ引っ張っていく。引きずられるようにして家に帰ってきた。
「おや真人や、帰ってきたのかい。賑やかだねえ」
「あ、お婆ちゃん初めまして。真人を家まで連れていきたいんだけど、その間子供を政成に任そうと思って」
「今ならあの2人家にいるだろうから、あそこの家に行ってみたらどうだい?」
「そうだね!政成行ってきて!」
「承知いたしました」
「え、ちょっ、ちょっと!」
「真人はこっち! 行くよ!」
「え、えぇ~……。お、お婆ちゃん行ってくる!」
「気をつけてな」
またまた敏之に引きずられるようにして何処かへ向かっていく。
「ちょっと急すぎるって!」
「大丈夫大丈夫」
なんだかんだと言い合いながら歩いていくと賑やかなところに出た。
「ここが城下町だよ!」
「へえー、ここが……」
美味しそうな匂いや、がやがやとする声、値切り交渉でもしているのか言い合っている人たちもいる。
「家はこの先だからこっちに来て!」
2人でテクテク歩い続ける。すると奥に大きな屋敷が見えた。ただ、城下町と言っていたから大きなお城でも見えるのかと思ったらどこにも見えない。
「ねえ、城下町ってことはお城があるんでしょ。どこにあるの?」
それを聞いた敏之は不思議そうに首を傾げながら
「ここが1番大きい屋敷だよ」
と答える。しかもスタスタとそこへ入っていく。姫路城のような白い大きな屋敷を想像していたが、ここは横に広く昔ながらの武家屋敷のようだ。
「お、おい待てって。中の人に見つかったらどうするんだよ!」
慌てて入っていくのを止めようとするが、敏之はニヤリと笑って答える。
「だって連れて来たかったのここだし」
「はあ!?」
入り口で入る入らないと喚いていると、奥から誰かが走ってきた。
「お帰りでしたか、敏之様。中で真鍋殿がお待ちです」
「敏之様……?」
敏之はいたずらがバレた子供のようにニヤニヤしながら、俺の袖を引っ張る。
この時代にきて2度目の大きな困惑を抱えながら、袖を引かれて門の中へ入っていった。