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高校生、戦国を生き抜く  作者: 神谷アキ
1、戦国時代へ
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「あ、おーい! やっと来たか」



 昨日と同じように花畑を見ながら佇んでいると、後ろでガサガサと人が歩いてくる音がした。



「ごめん、じいが離してくれなくて」


「じい?」


「あ、いや、何でもない」



 ごまかされたような気がするが、その話は終わりというように俺の横に座りこむ。気にはなったが、それよりも……。



「なあ、その敏之くんの持ってるやつって何? 食べ物?」



 さっきから敏之くんが持っている風呂敷が気になって仕方がない。目をキラキラさせながら聞いてみると、



「敏之でいいよ。これは家にあったやつを包んできた。真人と食べようと思って」



 そう言って包みを開けると、中から小さいが白いお饅頭がいくつか出てきた。



「え!?これ食べていいの!?」


「もちろん。そのために持ってきたし」


「うわっ、ありがと! いただきます!!」



 敏之が話している途中からもう手がお饅頭に向かって伸びていた。ここに来てから甘いものなんて食べていない。久しぶりのお菓子にかぶりつくと、口の中に優しい甘さがじわぁっと広がる。一口で食べれるものをちびちび食べていると、



「そんなに気に入ったのか。ほら、これもどうぞ」



 そう言って2つ目も渡してくれる。普段だったら遠慮するけど、今日に限っては遠慮なんてしてられない! 次いつ食べれるかなんてわからないからね!


 そう思ってお礼を言い食べていると2つ目もすぐに食べ終わってしまった。名残惜しく感じながらも手に付いたものを舐めていると



「昨日さ、なんか色々話していたけど詳しく教えてくれない?」



 敏之は俺の顔をじっと見ている。昨日なんて、畑仕事が大変だの、朝が早いだの、ご飯の味が薄いだのと言った愚痴しか話していない。


 そう考えるとよく初対面の人の愚痴をずっと聞いていたな。つまらなかっただろうに。そう思うが、世話になってる2人に言えるはずもなく、ずっと相談できる人もいなかったため堰を切ったように溜まっていたものを吐き出した。



 事情があって2人に世話になっていること、心細いこと、畑仕事が姿勢もきついし肥料が臭いこと、味が薄くて食べた気がしないこと、朝は日の出と同じくらいに起きるのにびっくりしたこと……。



 どんどん出てくるが、敏之は顎に手を当てたまま、ウンウンと頷きながら聞いてくれる。それにも気を良くして話し続けていると



「よくがんばったね」



 一言だが、そう言ってくれた。俺はやっとここでの生活を認められた気がして嬉しくなった。ここでは当たり前のことかもしれないけれど、現代だと考えられないからね。



 そこからは話しが弾んだ。敏之も家の人が厳しいとか、昨日は家を抜け出してきたとか話している。


 だか楽しい時間も日が暮れる前には終わりになるわけで、今日はここまでと別れてそれぞれ家に帰っていった。



「そういえば、敏之ってどこに住んでいるんだろ。この村の人じゃないよね」



 疑問に思いながらも朝早く起きたこともあり、まぶたが落ちてくる。考えるのをやめてずるずると布団がわりのものに潜り込んだ。





 斎賀家

 



 敏之は自室で1人クスッと笑った。朝が早すぎる、肥料が臭いなど当たり前のことだ。少し気になることも話していたが……。


 その時の顔と、甘味を食べた時の顔の変化が面白くて思わずまたクスッと笑みが溢れる。


 そういえば甘味を食べた時、久しぶりなんて言っていたな。甘味なんて高級品どこで食べたのか。

しかもあれは砂糖を使用した貴重なものだ。まるで食べ慣れている風に見えたが、一体……。


 少し考えていたが、ふと障子の向こうに声をかける。



「誰かおるか」

 


 そうすると静かに障子が開き、男が顔を出す。



「如何なさいました?」


「やってもらいたいことがある。近くの農村で試せ」



 そう言って今日聞いた「堆肥」というものを軽く説明した。

 牛糞を使って、数ヶ月間、何度も空気を入れて発酵させる。発酵中は高い熱があって病原菌が減る。ただ、牛糞が発酵するには、水分量が多くなければいけないのだとか。

 菌が何かはわからないが、より衛生的で育ちが良くなるらしい。

 真人は「臭くないんだから!」と力説していたが、試してみる価値はある。出来なくても別に損はしない。軽い気持ちで指示をだし、男が去った後静かに呟いた。



「一体どこで暮らしていたんだか……」



 畑仕事には慣れず、妙な知識は持っている。また思い出して最後にもう一度クスッと笑うと、蝋燭の火を消して布団に入った。


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