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おじさんが去りしばらく経ってから、俺は動きだした。
(落ち着け。一旦整理しよう)
俺は確かに住宅街にいた。そこで信号が変わりそうだったからスピード出したらすっ転んで。その時水溜りにも落ちて。
あ、そういえばスクールバック!
急いでバックを見ると全く濡れていなかった。制服も土が少し付いているだけだ。
そういえばあの時頭打ったな。街路樹の石の花壇にぶつけたのかも。頭に手をやると後ろが少し膨らんでいた。
「たんこぶ出来ちゃってるじゃん。血が出てないだけマシか」
とりあえずホッとした。嫌だけど、嫌なんだけども、予想が正しいなら血を出しても治療なんてできない。
「いやったあタイムスリップしちゃったぜ! まさかの超不思議現象!!」
テンション高く言ってみるが返事なんて返ってくるはずがなく、声が響いただけだった。
ピースサインも決めてみたがバカらしくなり、すぐに下ろす。
ブルッ!
(ちょっと冷えてきたかも)
色々と叫びだしたい気持ちもあったが、このままではマズいと道なりに歩いていく。詳しい時代はわからないが、日が暮れたら危ないのは直感でわかる。狼だって今ならいるかもしれないし、刀を持った人に襲われるかもしれない。
(ひとまずさっきのおじさんが言ってた城下町に向かうか)
荷物はバック1つしかないので大事に抱えながら歩き続ける。そもそもこの道を進んで行けばいいのかさえわからないが、じっとしているよりはマシだろう。
カラスの鳴き声にもドキドキしながら何もない道を進んで行くと、遠くにポツポツと建物が見え始めた。ホッとしながら歩いていくと、どうやら小さな村のようだ。畑が広がっておりTVで見た田舎の風景を思い出す。
鍬のような形をした細長いものを持って歩いていた老人に声を掛けた。
「あの!突然で申し訳ないのですが!
私を一晩泊めていただけないでしょうか!」
急に現れて声を掛けてきた俺にびっくりしているようだったが、ゆっくりだけど聞き返してくれた。少し嘘を交えながら(お婆ちゃんごめん!)城下町を目指してはいるが行く当てがないこと、簡単な身の上話、ずっと歩いてきたことを告げると不思議がりながらも一晩泊めてくれた。
ここにはお爺ちゃんとお婆ちゃんの夫婦で住んでいて、娘さんはお嫁に行ってしまったらしい。予想していたよりも快く迎え入れてくれて、藁のような物まで貸してくれた。ちなみに畑で取れた野菜も食べさせてくれて、すっごく美味しく感じた。
しきりに服や靴に興味があったようだが、(触って驚いていた)疲れすぎて藁にダイブするように飛び込むと眠ってしまった。