表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生、戦国を生き抜く  作者: 神谷アキ
1、戦国時代へ
20/53

20



「な、なんで……」


「味方でも一般兵には任せられないからだよ」


「どうして? 大将首なんて報酬がすごそうで頑張りそうじゃん」


「だからこそ、私たちが行くんだ」



 敏之にかわり、十兵衛さんが俺の疑問に答える。



「一般兵は俺達と違い、戦の勝敗よりも目先の報酬を望む。1人で先走って失敗につながりかねない。それに、何かあった時に忠誠心がある奴の方が安心できる」


「何かあったときって……」


「敵に捕まったときだ。忠誠心のないやつはすぐに情報を吐いてしまう。一般兵なんて自分が助かるためにいくらでもしゃべってしまうだろう」


「あの、俺が話すとは思わないんですか?」


「もし捕まったとしても、田辺殿には大した情報は話していない。若様の後をついてまわるだけだから、一般兵よりも知っている情報は少ないだろう?」



 バカにされた気がして、少しムッとしながら斜め前をみる。さっき平尾殿、と呼ばれていた男が俺を見ていた。



「なぜ若様がそこまで信用するのかわからないが、するべきことはしてもらう。従者が守ってもらうなんてもってのほかだ」



 そう言い残して陣幕を出て行ってしまった。反論したくとも、もっともなことを言われて言い返すこともできない。



「さあさ、もうすぐ戦だ。作戦を決行するためにもしっかりね」



 十兵衛さんがそう言ってみんなでぞろぞろと陣幕を出る。潜入する5人は最終確認をすると言われ、平尾さんの行った方向へ進み出した。



 戦が始まると、割とすぐに鎧が手に入った。おかしなところがないかを確認して、自然に見えるように本陣へ行く。陣笠を深く被り顔を隠して紛れ込んだ。



「この後、井馬殿が林の中から矢を射る。それで命中すればいいが、成功率は低い。その後、伝令役を装った私と十兵衛が本陣へ入り込む。平尾殿と真人は総大将がやられたと吹聴する。嘘でも少しは時間を稼げるはずだ。」



 矢を射り、敵が混乱中に総大将を守るといって近づくらしい。斎賀軍の左側にあった林を利用する。羽川軍からすると右にあるが、ちょうどよく林側に本陣らしきものがある。



「では行くぞ」



 1番組みたくなかった平尾さんだけど、この際しょうがない。井馬さんの合図と同時にやられたと騒ぎ出す。うん、これくらいなら俺でもできるかな。


ビュッ!

 


 (来た! 合図だ!)



 本陣がガヤガヤとしてきたところで俺たちも便乗する。できるだけ大声をだし、平尾さんと走りまわる。



「殿が討たれたぞー!」


「早く逃げろー!」



 ワーワーと言いながら駆け回る。俺たちに触発されたのか、雑兵の人も騒ぎ出したから伝わるのが早い。そろそろ撤退かな? と平尾さんを見た途端、すごい力で引っ張られた。


 平尾さんに引きずられるようにして陣の中を駆け回る。



「どうしたんですか?」


「若さま達がここから脱出したらしい。成功したかはわからないが、武将がたくさん出てきた。これだけ騒いで目立っていると俺たちが捕まってしまう」



 敏之達はちゃんと逃げ出せたのかな? 顔は見せていないけど、あれだけ騒いでいる兵がいたら怪しむよな。走り続け、やっと抜け出せる!っとホッとした瞬間、肩に激痛が走った。



「っつ!!」


「田辺殿!?」


「敏之達のところに戻って!」


 あまりの衝撃に平尾さんの手を離してしまう。腕に力が入らない。何が起こったのかわからないが、こちらに引き返そうとする平尾さんに怒鳴った。ここに戻るのはまずい気がする。


 走り去る平尾さんを見て安心すると、肩の痛みに頭がスパークしたように意識を失った。



ーーーーーーーーーー



 私、十兵衛、井馬が自軍へと帰還した。首を取ることまでは出来なかったが、なかなかの成果だ。

 事前の策の通り、2人が矢に驚いた隙に伝令役を装って護衛として近づき、その後は機を見て背中を斬りつけ、それぞれ脱出できた。あとは真人と平尾が戻るのを待つだけでいい。

 先に戻っていた井馬と、本陣にいた結果を知りたい家臣が一堂に集まってきた。


「若様、よくご無事で。して結果は……?」


「あぁ、背中を斬りつけることができた。深かったからかなり重症のはずだ」


「おお!」


「これで混乱すれば……!」


「今が攻めるのにいい機会では……!?」



 家臣達がざわざわと興奮するのがわかる。そろそろ真人たちも帰って来るだろうと幕の出入り口を見ていると、平尾が帰ってきた。だが顔が青ざめている。  



「帰ってきたな平尾。首尾はどうだ?敵を撹乱できたか?」


「……申し訳ございません。若様……」


「うまく出来なかったのか? まあ私たちが傷を負わせられたから、そろそろ他の兵にも伝わるだろう。して、真人は?」


「……申し訳ございません」



 嫌な予感がした。平尾の胸ぐらを掴み思いっきり揺さぶる。



「なぜ真人が帰ってこない! 何があった!」


「……本陣が騒がしくなったので撤退しようとしたところ、肩に矢を受け倒れました……」


 それを聞いてサーッと血の気が引くのがわかる。十兵衛も驚いた顔をして目を見開いていた。


「それで真人は! どうなったのだ!?」


「……わかりません。引き返そうか迷ったときに戻れと叫ばれ、それきり……」


「……くそ!」



 怒鳴りながら平尾を離す。すぐに初めての友人をどうにかして救出できないかと考えを巡らした。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ