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戦場2日目。朝からまた軍議だ。憂鬱な気分で鎧の調整を済ます。ため息をつきたい気持ちをこらえながら、幕を張ってある場所へ向かった。
そしてのそのそと1人歩いていると、後ろから誰かが声をかけて来た。
「昨日はどうだった?」
「あ、軍議のときの……」
「そう! 覚えていてくれてよかったよ。私のことは十兵衛と呼んで。軍議に行くなら一緒に行こう」
「わかりました。俺は田辺真人です。真人って呼んでください」
後ろから話しかけて来たのは、お城の軍議で一緒に話した男性で、関所のこととか教えてくれた人だ。
「斥候によると、今日の夕方頃に援軍が到着するみたいだよ。それまでなんとか戦況を維持しないとね」
「……やっぱり戦況って悪いんですか? 昨日少し話したんですけど、人数で押されているって聞きました」
「そう、だね。良いとは言えないかな。人数が少ないならそれを補う戦い方をしたいけれど、ここに着いてすぐ戦が始まっちゃったし、だだっ広いだけの平地は地の利も活かしづらいから。何かいい策思いつかない?」
そうだったのか。でも軍師でもないしそんな急に策なんて思いつくはずもない。俺が思いつくことなんて他の人も思いつくだろうし。
「すみません、何も思いつかないです」
「ははっ、そんな謝らなくていいよ。誰も解決策を思いつけてないんだから」
「そうですよね。他の人が思いつかないのに。俺なんて奇襲しか思いつきませんよ」
「その案も出たんだけどねぇ、見合った状態だと相手もこっちの動きを把握しやすくてできないんだよね。平地で見晴らしもいいし、もう朝でこれから更に明るくなるだろうからね」
「うまくいかないものですね。相手のふりが出来たら堂々と近づけるのに」
「こんなに近くだとその工作もしづらいからねー。敵の鎧を拝借……」
「十兵衛さん?」
急に十兵衛さんが黙ってしまった。険しい顔をして何か考え込んでいる。動いたと思ったら目の前に来ていた軍議の場所へどんどん入ってしまった。
「あ、あの待ってください」
「十兵衛か。そんなに険しい顔をして何があった」
陣幕の中にはお殿様と敏之、あと沢山の人がいた。そんな中、十兵衛さんは皆が話しているところへ割り込んでいく。
「申し訳ない、各々方。少し話を聞いてもらいたい」
「よい。申せ」
お殿様が許可をする。十兵衛さんは俺を見てから真剣な口調でさっきのことを話し始めた。
「田辺殿と話していて、敵の本陣へ近づける方法を思いついた。だが、作戦を決行する奴は危険が大きい」
「なんと! 本陣へ? それはどのような?」
「これから戦が始まった時に、誰でもいいから倒れた敵兵の鎧を奪う。そして何食わぬ顔をして敵の本陣へ行く。戦いの最中なら尚更、兵の顔なんて判断しにくいだろう」
「おお! それで大将首をとるということですな!?」
「名案じゃ!」
「しかし見破られるかもしれん」
「私は賛成だ」
話し合いが白熱しかけたが、敏之の一言で静かになる。
「知っての通り今は何も打開策のない状態だ。危険は伴うが、この状況をひっくり返すにはちょうどいいと思う」
それを聞いたお殿様が立ち上がった。
「うむ、確かに今のままだとこちらが危うい。その策をもとにして話を進めよ」
「「「はっ!」」」
そこからは順調に決まった。5人ほど敵陣に潜入し突撃する。戦の最中なら名だたる武将は出陣しており、本陣は手薄になっているはず。そこをついて一気にかたをつける。
しかし、潜入する5人の脱出が難しい。上手く大将首を取れたらいいが、取れなかったら敵陣の中で戦いが始まってしまう。
総大将を取れれば敵が動揺し、錯乱しているうちに逃げやすくなる。
ふむふむと話を聞いていたら潜入する5人を決めたらしい。
「真人もそれでいい?」
「え、うん」
反射的にうなづく。敏之はにっこり笑ってよかったと呟いた。
「がんばって勝とうね。もし大将を取るのが難しそうなら撹乱するだけでも効果あるって」
「なんか俺が行くみたいな言い方だな」
「聞いてなかったの? 私と、十兵衛、平尾殿、井馬殿、真人の5人だよ」
……1分前、安易に頷いた自分を激しく後悔した。