18
あちこちで敵味方が入り乱れている。怒鳴り声や鎧の音、武器同士の音が混じり合ってすごい音だ。恐ろしくなり反射的に馬を止めてしまうと、横から敵の歩兵が武器を構えて走って来た。
「うわぁぁ!」
つい目をつむってしまうが、何の衝撃もない。恐る恐る目を開けると、敵の歩兵は倒れていた。
「戦場で目をつまるのは命取りだよ、真人」
「敏之! 助かった……」
敏之が来て俺を助けてくれた。自分が襲われても固まらないでやり返せるようにならないと。気を引きしめ直して、前を向く。
「正直言ってこの戦はこちら側が劣勢だ。相手の兵が多すぎる。援軍が早く来てくれれば巻き返せるはずだけど……。じきに日が暮れて戦も一旦止まるはずだ。それまで気を抜くなよ!」
「わかった」
本来なら、初陣した時は経験豊かな武将が近くにいてくれる。だが今回、敵が多く1人を守るために誰かを割くゆとりがないらしい。
敏之も敏之で、自分より軍を優先しろなんて言ったから誰もついてきてくれない。まあ、ある程度は戦えると信頼されているんだろうが……。
敏之の隣に馬を並べる。声を掛け合い敵を倒したり、時に離れたりする。まあ、俺は1人も倒していないけれど……。実際には2時間もなかったかもしれない。引き上げの命令が来た時には1日中戦っていたかのように疲れていた。
「はい。真人の分」
「ありがとう」
あまりお腹は空いていないけど、今食べておかないと次にいつ食べれなくなるかもわからない。もらったお茶漬けをすする。
「はあーおいしい。これって真人が考えたんだよね? 戦場でもこんないい食事をできるなんて想像してなかったよ」
「そうか? でもなあ、兵糧丸だっけ? あと紐みたいなやつ。あれが一般の食事なんて俺は逃げ出したくなるからな」
そう、この食事は俺が考案した。日本史の授業中に兵糧丸の話があったことを思い出したのだ。
本物の兵糧丸を食べれる! と興味津々に食べさせてもらったところ、想像以上のまずさだった。生き残るための料理だから味なんて二の次三の次らしい。俺だけでもおいしいものを食べたくて、料理番に直談判したのだ。
その時、色々試行錯誤をして米とおかずを乾燥させればいいと気がついた。幸いここには水があったが、なくてもバリバリ食べれるしいいかなと。それを大量に作ってもらって戦に持って来ていたのだ。
定食屋でアルバイトしていてよかったぁ。
「ねえ、なんかずっと思っていたんだけど……」
「何?」
「戦場で戦っている時さ、何度も敵兵が襲って来たよね?」
「うん。でも戦ってそういうもんじゃないの?」
「いや、そうなんだけど……。誰か人を選ぶんなら、次期当主の私を狙うはずだよね? でもどの人も初めに真人を狙ってきた。」
「そういえば……。でも考えすぎでしょ。単に弱そうだったから狙いを付けたんじゃない?」
何か敏之がこわいことを言ってくるがそれはないだろう。なんていったってただの従者なんだから! それに弱そうだから狙われたというのも本心だ。襲われても逃げるばかりで攻撃しない。こんなにいい的は他にはいないだろう。
「でも……」
「大丈夫だって。敵は俺のことなんて知らないに決まってるから」
なおも言い続けようとしている敏之に口を挟み、話を終わらせる。
もし狙われていたとしても、敏之が守ってくれるだろう。今日知ったのだが、馬の上で剣を振るう敏之は強かった。明日も離れなければ危なくはないはず。
そうして、またなぜか軍議に参加した後、近くの小川で体を拭き明日に向けて就寝した。
だが、後に敏之の話を最後まで聞かなかったことを後悔するはめになった。