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「あれ、真人は?」
「兄上と一緒に城下町から帰ってきたのではないのですか?」
「うん。そうなんだけど、帰ってきたらすぐに部屋に行ってしまって、そこから見てないんだ。もうすぐ夕餉だし部屋に行ってみるね。」
立ち上がり、軽く衣服を伸ばしながら真人の部屋へ向かう。あのとき、急に大声を出したと思ったら来たばかりなのに城へ帰ってしまった。
一体どうしたというのか。
すくーるばっくとやらを抱きしめ、焦った顔をしていたが、その前に彼は何と口走っていた?
「日本史の書物……」
それは日の本の歴史書という意味か? それなら私もいくつか持っている。勉学中に読んだ本に、孔子の『温故知新』という言葉があった。
『子曰く、故きを温ねて新しきを知る、以って師と為るべし』
つまり、昔のことをよく学び、そこから新しい知識や道理を得る、という意味だ。
私はこの言葉が気に入っている。古いこと、昔の事を知るからこそ今があり、これからに生かしていけると思うからだ。
たまに古い家臣の話を聞くと為になることを聞くことも多い。
日の本の歴史書を読むくらいでそこまで慌てる必要があるか?
「おかしな奴……」
そう呟きながら、真人の部屋へと歩いて行った。
俺は仮説を立てた。ここは信長の領土と近い。しかも教科書には載っていない。つまり、教科書にも載らないような戦で、斎賀家は滅びてしまったのではないかと考えた。
パラレルワールドに入り込んでしまったから載っていないという可能性も考えた。
だか、以前敏之が言っていた。尾張の織田信長の勢いを無視できないと。信長は存在している。
仮説が正しいとして、俺はどうなる?斎賀家に厄介になってるなら巻き添えで処刑されるんだろうか? 死ぬ? それとも現代に戻れる?
殺されて検証なんてそんな怖い賭けするわけない。それに
(生き返るにしても殺されるなんて嫌だし。)
普通の高校生なんだからそんな体験するなんて真っ平だよ! しかも、そうなったら敏之も二郎丸も瀬奈もどうなる? そんなの決まってる。信長は敵には容赦しないはずだ。
(だったら……)
なら、自分が生き残るためにも斎賀家を助ける!史実だろうとパラレルワールドだなんて知ったことか!
しかし、高校生の俺に何ができるのか?すぐには思いつかない。考えふけっていると敏之が来たようだ。
「真人、開けてもいい?もうすぐ夕餉だよ」
「ああ、ごめん。ちょっと調べたいことがあって。もう終わったから行く」
部屋から出て、正面から敏之の顔を見る。俺が守ってやるんだ。静かに心に決め、夕食の席へと歩き出す。
ここで出来た初めての友達。お菓子をくれたり、愚痴を聞いてくれたり。
そう決心すると、ストンッと気持ちが楽になった。あぁ、やっと力が抜けた。普段生活していても、どこか気を張っていて休まる時はなかった。ただ言われたことをこなし、何も考えずに流されてきた。やっとここですることが出来たんだ。
「やってやるさ……」
「ん、どうしたの?」
「いや、独り言。あー腹減った! 今夜は何が出るかな?」
「匂いからして魚じゃない?」
「もうお腹鳴りそう。あ、二郎丸!」
「遅いぞ真人!」
ワイワイと言い合いながら、そのまま3人でご飯を食べる。なぜだかいつもよりも美味しく思えた。