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どうやら俺は聞き役に徹しすぎたらしい。あれやこれやと言う間に、なぜだかこの大きな屋敷で生活することになっていた。
敏之が発端だったが、それを聞いたお殿様の鶴の一声でいつのまにか決まっていた。潔すぎ……。
お婆ちゃんたちにはお世話になったし後でお礼を言いに行くとして。さて。
どうしてこうなったかを考えよう。部屋に案内され、荷物は村に置いてあるスクールバッグしかないから今は手ぶら。することがないから敏之の部屋に行こうとして。
「出てきたのはいいけどどの部屋が聞いてなかったーー!」
この屋敷?お城?の構造は部屋数が多く、迷いやすい。とりあえず出てきたのはいいけど自分の部屋までの道もあやふやになりわからなくなってしまった。
うろちょろしながら歩いていると、パタパタと足音がするのに気がついた。俺が止まれば足音も止まる。振り返って見ても誰もいない。
素知らぬ顔をして歩き、手前にある曲がり角を曲がったところで足踏みをした。足音の主は見えなくなったことに焦ったらしくバタバタと走ってきた。両手を広げて構えていると
「うわあ!離せ!」
「捕まえた!誰だお前。人の後を追っかけてきて」
「お前こそ誰だ!怪しい奴め!成敗するぞ!」
「出来るのか?やってみろよ」
腕の中に飛び込んできたのは男の子だった。俺に捕まっているが、小さい体で怒っているのが面白くて、挑発していると予想外の行動に出た。
「誰かー!侵入し……むぐ!」
「ばっかお前。侵入者って叫ぼうとしただろ!お前が成敗するんじゃないのか?」
「だって怪しいやつに出会ったら叫べって父上が‼︎」
「勝手に怪しい人認定するなよ……」
ため息をつき、男の子を離す。そして言い聞かせるように軽く自己紹介をした。
「今日からここに住むことになった、田辺真人だ。まことでいいぞ」
「ここに住むのか!?」
「そうだ。だから侵入者じゃないぞ。お前の名前は?」
「俺は二郎丸だ!元服したら、兄上と同じで父上の名前を一文字もらうのだ!」
そう言ってふんすっと鼻息を鳴らす。元服前って言ってたし見た目にも10歳くらいか……。子供がこんなところで何をしてるんだ。まあ、さっきまで侵入者だと思って俺の後をついてきてたんだけど……。こいつ危ないな。
「本当の侵入者にはついていくなよ。二郎丸って呼んでいいか?二郎丸も親と離れて迷子なのか?」
「迷子じゃないぞ!兄上が帰ってきたと聞いて夕餉の時刻まで兄上の部屋にいる予定だったのだ!」
「兄上?……なあ、お前の兄ってもしかして敏之?」
少し確信を持って聞くと予想通りの答えが返ってきた。
「そうだ!次期当主の斎賀七三郎敏之なんだぞ!勉強を教えてくれるんだ!」
あいつのちゃんとした名前って斎賀七三郎敏之って言うんだ……。昔の人の名前って長いな。って、え!?次期当主!?
ここに来てから驚いてばかりだ。
「じゃあ俺と一緒に敏之の部屋まで行こう。ちょうど行くつもりだったんだ」
二郎丸の肩を掴みながら歩き出す。連れられていると、渡り廊下で繋がっているが建物へ入っていく。
「おい、別の建物だぞ」
「俺たちの家族はこの建物に住んでて、ここが兄上の部屋。兄上ー、二郎丸です!」
そういいながら障子を開け中へ入っていく。俺も「お邪魔します」と言いながら二郎丸の後に続いて入って行った。