舞い降りたジャングル
中南アメリカ ベネズエラ アマゾン熱帯雨林 アマゾン川流域にて
中南米のジャングル地帯は茹だるような暑さだ。それでいて大雨が降る。霧が境界線のようになっている。この湿気は並大抵ではない。気を抜くと溶けてしまいそうだ。とにかくメチャクチャに暑い。だが、ジャングルには感謝している。この緑の要塞のお陰で敵から身を隠すのが容易なのだから。植物は最も完璧な迷彩だ。ジャングルは戦争において常に地理的側面からゲリラ戦の舞台になり数々の軍隊を苦しめてきた。味方になるか敵になるかでこれほど捉え方の違う戦場はない。ベトナム戦争のベトナム軍の行ったゲリラ線はまさにその典型例だ。アメリカ軍をジャングルで撹乱し見事勝利した。伝説の戦闘だ。白人に黄人が勝利した歴史的戦争。その伝説を手助けしたジャングルの緑の間から抜け出てきたのは一人の女だった。白人の女だ。
「まだ遠いな…」
女はまっすぐに前を見る。
木々を掻き分けて進む。やがてアマゾンの濁った川が見えてきた。女はジャングルの真ん中を流れる川に到達すると、勢い良く飛び込んだ。一心不乱に泳ぐ。この先にある目的地に向かうために。
アマゾン川には数多くの生物が生息している。ピラニアにワニにアナコンダ。女は川を泳ぐワニを気にせずひたすらに泳ぐ。その姿はまるで世界最大の淡水魚ピラルクーだ。魚になったように素早く泳ぐ女はあっという間に川岸に辿り着くと素早く這い上がり水気を弾く。そして猛禽類のような強い眼光で歩き出した。
女の名前はクロエ・ジェニファー・ドライデン。コードネームはブラック・スネークヘッド。アメリカ軍特殊部隊の兵士で階級は少尉。陸軍の軍人だ。アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市出身の25才。超人的な戦闘能力を持つ。対人格闘及びゲリラ戦と破壊工作のエキスパート。情報収集任務のプロでもある。父はアメリカ軍の将校。母はアメリカ軍の軍医。軍人一族だ。だがクロエの最大の武器はその美貌と圧倒的な迫力の肢体だ。長い金髪と青い瞳。弾力のある115cm以上の巨乳の持ち主。白い太もも。形のいい尻。首から肩にかけての扇情的なライン。筋肉質な体格。これはクロエ自信は興味がないことだが、この体を上手く使えば有効な対処手段になると上官達は期待していた。敵に捕まったときの…だが、クロエにはこの体を捕らえられた際にどう使えば良いのかわからなかったし関心もなかった。幼少の頃から戦闘訓練を受けてきたクロエに性の知識は無い。一つ欠点を言えばそこだと他の兵士は言う。使い方によっては万能なのに、と。そのクロエは今、中南米で反米ゲリラ勢力と戦闘している。ここ一体は武装勢力の拠点となっており、反米活動が活発に行われている。南アメリカのゲリラはとても広範囲に渡って活動している勢力だ。アメリカ軍は大量の兵力を投入してこれを鎮圧しようとしていた。クロエが所属する特殊部隊も参戦した。今は単独行動を取り、個人でゲリラのキャンプを探っている。銃とナイフ、手榴弾は基本的な装備を持ってきている。無線連絡でヘリから投下してくれる。補給は大丈夫だ。クロエは自信があった。ちなみにコードネームのスネークヘッドはアメリカの沼地に生息する大型の雷魚だ。クロエ自信も自宅で飼育していたが、熱帯魚マニアということでコードネームを付けられたわけではなくスネークヘッドのように静かに敵地に潜入し目的を達成する意図が込められている。
「ここはトラックが通ったようだ。この先か…」
そこは川縁に面した道というよりは泥沼だったがトラックが何台も走った跡が残っていた。かなりの量だ。
「街から物資を運搬しているようだな。何かに使うのか、それとも唯の補給なのか…」
ここから町までは果てしなく遠い。船から荷物を積んできてトラックに積み替えるのだろう。積み荷と目的、そして拠点を突き止める必要がある。
「…」
クロエは考え込んだ。数年以上アメリカを苦しめてきたゲリラだ。捕虜になった兵士もいる。油断は出来ない。
「油断はできんな。慎重に行くか…」
クロエは姿勢を低くしてタイヤの跡を追った。クロエはテキサスの砂漠地帯に居住している。人里離れた場所が好きだからだ。世捨て人のような生活だ。そのクロエは戦闘の中でしか自分の価値を知らないようになっていた。この任務もそうだ。ジャングルは良い。太古の自然をそのまま残している。悪い気はしない。テキサスの荒野と同じで人を寄せ付けない。クロエはジャングルを気に入っていた。ゲリラとの戦闘も慣れている。アマゾンに来るのも初めてではない。様々な作戦で何度も来ている。だが、今回は簡単にはいかないような気がした。クロエがトラックの跡を追っていると、話し声が聞こえてきた。ゲリラではない。ラテン系の屈強な男達が集まっている。どうやら強盗のようだ。それも武装した犯罪組織。厄介だ。見つからないようにしたい。ここらへんにはこのような組織が山ほどある。治安が悪い証だ。捕まれば何をされるかわからない。慎重に木の影に入り込む。男達は盗んだ金を山分けしているようだ。女の話しに花を咲かせ、下品な笑みがこぼれている。銃はすべて時代遅れなものだ。ハッキリ言って最悪だ。だが、戦うのは避けたい。彼らは標的ではない。
「見つかると面倒だな…」
クロエは木から木へ飛び移る。中腰姿勢になり、太い木の影に隠れたとき、上から声がした。
「女だ!」
男達の仲間が他にもいたのだ。その男は木の後ろ側にいたのだ。ちょうど見えない位置の木の上だ。野盗の男達はその声に素早く反応し群がってきた。皆異様に目をギラギラさせている。
「女はどこだ!」
「逃がすな!」
「どんな女だ!」
口々叫ぶ。
「ここだ!」
クロエを見つけた男が叫ぶ。クロエは様子を見ることにした。今は大人しくした方が良いか。男達が駆けつける。
「ここか、見ろよ飛びきりの女がいるぜ。」
「たまらねぇ、アメリカ人か」
「こいつすげぇ巨乳だぜ!」
「かわいい顔してえれぇ物もってんじゃねーか、銃だぜ」
「金髪かぁ燃えるぜぇ!」
「一人でなにやってんだぁ、姉ちゃん?男探してんのかぁ?ギャハハハ!」
「アメリカ軍かぁ、理想の女だ」
「まずは俺だ、裸にするのが楽しみだぜ!」
「どういうふうにしてやるかなぁ」
「アメリカの女とヤるのが夢だったんだ!」
男達はクロエの体を品定めするように見つめて来た。
「私はお前達に用はない。通してくれ。たまたまここに迷い混んだだけだ。」
「ふざんじゃねぇよ、ねぇちゃん。唯で返すと思うか?あんたみてぇな良い女は最高のご馳走だからな。」
「気が強い女は良いねぇ」
「アメリカの女は本当に喘ぎ声がうるせえのか試してみてぇぜ」
「やはり話すだけ無駄か…」
男達が卑しい笑みを浮かべて近づいてくる。クロエは体に武器を隠している。例え装備を取られても必要なものは服や体に隠しているのだ。今はナイフを使った方が良いか。
「そんな迷彩服なんて脱いじまえよ、胸がキツそうだぜぇ?ヒヒヒ」
「こいつは楽しみがいがあるぜ」
「我慢できねぇ!」
「わかった。お前達の言う通りにする。」
クロエは銃を置いて手を後ろに回す。男達が武器を持って距離を積めてきた。武器はナイフにバールか、酒瓶もある。銃を置いてくるとは愚かな奴等だ。もっとも銃があってもクロエには対処できる。クロエは限界まで引き寄せる。後ろ手にナイフを持つ。バタフライナイフを使うか。クロエはベルトに挟んであったバタフライナイフを気づかれないよう握った。
「動くんじゃねぇぞ!」
「へへへ、それじゃさっそくこのデカイ乳を」
「たまらねぇぜ」
男達がクロエの豊満な胸を揉もうとした。その瞬間にクロエはナイフを振るい男の喉を切った。一瞬の出来事だ。声にならない悲鳴をあげて倒れる。それを見て全員が飛びかかってきた。
「この女!」
「ふざけやがって!」
「取り押さえろ!」
「遅い!」
クロエはナイフを素早く振るい、確実に相手の急所を切っていく。無駄のない洗練された動きに男達は付いていけない。わけもわからず切り刻まれている。声を上げる間もなく次々に倒れていく。バタフライナイフをまるで自分の体のように自在に扱う。それはもはや生物のような動きだ。もはや回りは血の海だ。目標と間違えたとはいえ結果的にならずものに裁きを与える形になった。今までも散々女を漁ってきたに違いない。こいつらは死んで当然だ。
「私に構うな…」
クロエは静かに呟くとナイフを鞘にしまい…再び歩き出した。無駄な時間を過ごしてしまった。急いでトラックを追わなければ。クロエの胸に使命感が涌き出てきた。茂みの先は沼地が広がっていた。どうやらトラックは沼地の先に行ったらしい。ここで何が起きてるか突き止める必要がある。トラックは停車しているようだった。その証拠に沼の先からわずかに声が聞こえる。クロエは沼地に入り、ゲリラのキャンプを目指す。
「今度こそ目標だな…」
クロエは静かに迫った。