期間限定
苦しいし、前進しているようには思えず、そろそろ諦めた方がいいのでは?と心がおれそうになった時、不意に伸ばした手の先がなにもない空間に出た。
そのままグイッと体を無理やりにそちらに出す。
「ぶへぇ。」
急に解放されて、床に落ちた。
振り返れば、引き続き阿鼻叫喚が繰り広げられていた。
よくやるな。
そう思いながら、自分が今立っている場所の確認をする。
どうやら従業員の使う通路のようで、光のあまり射さない奥の方の壁際に商品の入った箱が並んでいる。
潜入ならこの奥に行かなきゃ意味ないよね。
早速気配を消して薄暗い廊下をゆっくりと進んでいく。
しかし、進めば進むほど不安になっていく。
いつもの地味めなら目立たないけど、この変装は目立つことない?特に髪の毛。
もし見つかっても変装してるから大丈夫だよね?
もし誰かにみられたら、詰問されるよね?
何て返事をすればいい?
ぐるぐると色々考えながら進んでいくが、やはり不安は拭えない。
あ、まずい。
二人に奥に行くって言わずに来ちゃった。
一回戻った方がいいかもと思い、立ち止まると壁を触っていた手に壁ではない感触が。
「扉?」
「どうかされました?」
「!!」
突然声をかけられて、驚きのあまりその場で跳ねてしまったのでは?と思ったほどだ。
「すすすすみません。」
「なにかお探しでしたか?」
「あっと、いいえ。あのーとトイレを借りたんです。そしたら暗くて帰り道がわからなくて!」
しどろもどろに適当な返事をする。
そのあとにようやく声をかけてきた人を見る。
長い金色に近い茶色の髪を三つ編みにして前側にたらし、私のかってなイメージだが占い師だと主張するような薄紫をベースにしたゆったりな服を来たイケメンだった。
……イケメン爆発しろ。
「それはそれは……出口までご案内を、あ、そうだ。特別に占って差し上げましょうか?」
「?」
ドキドキしすぎてイケメンがなに言っているのかよくわからない。
「実はこのお店、ポイントがたまると個人占いが出来るシステムを採用してまして。なにかのご縁ですので、ぜひ。」
ニコニコ笑うイケメンをみて、私も一つ頷き、
「いえ、結構です。」
断った。
なぜって?私はそれほど「期間限定」や「今だけ」「特別に」と言われて、喜ぶタイプではないんです。
絶対裏があるでしょ、それ。
断られるとは、思っていなかったんだろう。笑顔のまま固まっている。
「……まあ、そう言わずに。こちらにどうぞ!」
急に押し売り感が出てきたぞ。