偽名
「じゃあ、アイナちゃんはこれね。」
そう言われて突然ノアに服を渡される。
「なにこれ?」
「もちろん。アイナちゃん用の変装セット。」
「は?」
「だって本物の女の子が一緒にいた方がバレないでしょ。」
聞いてないんですけど。
まじで言ってます?
「もちろん、情報収集だけで危なくなったらすぐ撤退ですよ。」
「うそだぁ。」
「本当だよ。」
嘘だと思いたかったがどうあがいても本当だった。
しかたがなく、用意された服を着ることにした。
用意されていたのは、木漏れ日を溶かし込んだような綺麗な黄色のふわふわ髪のかつらとスカイブルーのワンピースだった。
着替えてみたものの落ち着かない。
まず、私は髪先は癖毛だが、基本的にはストレートでいつも二つに縛っていたので顔に髪の毛が掛かるという体験がないのだ。
それに染めたこともないので、黒以外が顔の周りにあるのがものすごい違和感である。
ワンピースの色は、別にいいのだが、何故かフリルやらリボンやらが散らしてある。
……邪魔じゃない?いらなくない?シンプルイズベストって知らない?
「本気でこれ?」
「変装なので、いつもと同じじゃ意味ないでしょう?」
まぁ、確かに。
「お嬢の偽名は、アイコっすか?」
そんなん、普通の名前じゃん。
「世の中ごまんといる名前だな。」
「偽名は本来そうあるものじゃないのか。」
「まぁこの国には、なかなかいないけどね。」
「じゃあ、何て名前にします?」
決めてくれと丸投げすると、少し考えてノアが付けてくれた。
「マリー、コリー、サリー。」
「え?姉妹設定?」
「似てない姉妹だな。」
改めてウォルターとリアムを見るが、髪色から瞳の色から顔立ちまで何一つ共通点はない。
「だめか。じゃあ、マリン、リジー、ティアラ。」
次々に候補の名前を出してくるノアに疑問を感じなくなっている辺り、若干の恐怖を覚える。
「どれがいい?」
「どれでもいいっすよ。じゃあ、俺はリジーにするっす。」
「俺はマリンで。」
「じゃあ、アイナちゃんはティアラね。」
いや、何故私に選らばせてくれない。
コリーとかサリーで良かったのに。
そのあとの話し合いの結果、ティアラはマリンの親戚でマリンとリジーは友達。
今日は街に遊びに来たティアラを二人が案内している設定となった。
自分の偽名に愛着がなさすぎて、他人の話を聞いている気分でしかなかった。
「大丈夫かなぁ。」
他人事のようにぼやけば、「それは、こっちの台詞です。」とアレンに心配されてしまった。