意見の違い
「……」
助けを求められたからといって、特にコメントを出来る雰囲気ではない。
黙りを決め込んでいると喧嘩中の二人がバッとこちらを見る。
バッチリ目が合ってしまった。
目が合ってしまったことで火に油を注いでしまったらしく、 二人の喧嘩はヒートアップしていく。
「そうだ。だいたい作った本人が甘さ控えめで作ってるじゃないか。かっこつけてるとかつけてないとかそういう問題じゃなくて 『適量』って話だよな。」
「何言っちゃってんのよ。あんたみたいな奴も食べれるように気を遣ってくれたんじゃないの?アイナ、優しいから。大人気取りの残念男子向け。」
「ざ、残念男子?」
「あんたにぴったりなあだ名よね。」
「はん。お子ちゃまに言われたくないな。」
「なによ!」
「なにを!!」
残念すぎるお子ちゃま達の喧嘩は、いったいいつになったら終わるのだろうか。
弱りきった仲裁役二人で途方にくれていると、
「そーだ。作った人に聞けばいい。」
「そうね。ねぇ?」
「「こいつの舌がおかしいんだよね?」」
「え」
そうですねと同意もできなければ、違うと答えたとしても理由をうまく説明できない気がする。
私からすれば、確かに甘さ控えめが好きだが、世の中には甘党が存在していることを知っている。
逆に食べてみて甘いといから、自分好みにカスタマイズして甘味を押さえる人の行動にも理解はあるつもりだ。
全員が同じものをを好きになってほしいとか甘すぎるものは滅べばいいとかは本気で思ったりはしない。
私は好きじゃないから食べないだけで、世の中からなくなってほしいとかを願っているわけではない。
ただ一つ思うとしたら、自分が好きなものを相手も好きだろうと思い込みで押し付けたり、自分が好きだから相手も好きにならなきゃダメと無理やり押し付けるといったような考え方は嫌いだ。
でも困ったことに私の周りには、味覚の違う人が多かった。
みんなが美味しいというものを私は美味しいとは思えなかったのだ。
特に甘いもの。
だから「おかしい」とどちらかを選ぶならば、私と同じ方を好きだという彼の方。
今までの経験からすれば、それが正解。
でも、私を基準とするなら彼女さん。
大多数を選ぶのならこちらが正解。
どちらを答えても遺恨が残りそうである。
「好きなものを好きなように食べればいいのでは?」
質問に真面目に答えるのをあきらめてはぐらかすことにした。
「え?」
「は?」
「そ、そうだよ。好きに食べればいいじゃないか。好みはひとそれぞれだろう?」
「それもそうだけど……」
「でも、それにしたって言い方が……」
わかるよ。ヒートアップしすぎて、言いすぎて引っ込みがつかないんでしょ?
お互い気まずいんだよね。
うんうんと納得していたら、さっきまでオロオロしてた彼がキレた。
「あーもうイライラする!気をつけ!!礼!!」
「「ご、ごめんなさい?」」
「よし。仲直りね。」
二人が戸惑いながらも謝罪の言葉を口にすると、スッキリした顔で一つ頷くと、パンケーキに手を伸ばしてパクリと一口食べたのだった。