間が悪い
凛に護衛がついていたので、待っていれば助けが来ることはわかっていた。
だから、時間稼ぎをしていたのだが、うまく行ったらしい。
しかし、タイミングが悪い。
どうせならもうちょっと早くか、遅いぞっていうタイミングで来てほしかった。
よくわからないカオスな現状で一番始めに動き出したのは、犯人さんだった。
こちらに走って来るのを見て、私も動く。
とりあえず、凛を思い切り助けに来た人たちのほうへ突き飛ばす。
手持ちがガラスしかないため、それでなにかができるかと思ったが、ガラスを持っている手ごと足で踏まれて地面に押さえ込まれる。
「っっっ。」
諦めずに踏まれた手を軸に蹴りを入れようとするが、それより早く腹に蹴りが入る。
「ぐっっ。」
床をゴロゴロと転がる。
うわっ。スゴい痛い。
息が一瞬止まったぞ。内臓破裂したらどうするんだ。
「ごほっ。っはっ。」
お腹を押さえるがそんなに直ぐに痛みは引かない。
それなのに髪の毛を引っ張られて無理やり立たされる。
やめろ。抜け毛が増えるじゃないか。
「おい!全員武器を捨てろ!!」
いつの間にか今度は私が人質にはなっていた。
首にはナイフが突きつけられている。
なるほど。「武器を捨てろ」を言えば良かったのか。
勉強になるなぁと現実逃避しようとするが、直ぐに現実に戻される。
「早くしろ!」
この時点で救出班が凛派の人たちだったら、武器は捨てないだろうと冷静に見ていると、渋々だが武器を床に置いた。
ちょうどその時、がらがらと音を立てて、木箱の山から明輝が這い出してくるが、犯人の眼中にはなかった。
「さて、どうしようか?」
犯人さんは、楽しそうにナイフを動かす。
ナイフが動くたびに、小さく悲鳴を上げる。凛が。
しかし、薄皮一枚きれたって直ぐ死ぬわけじゃないんだから、悲鳴を上げなくたって大丈夫だって。
うーん。
こういう時は、踵で足のこうを思い切り踏むといいと聞くが、若干背伸びをしているので、思い切り踏めない。
そこまできて、はたと思い当たってしまった。
ここで、ちゃんと死ねれば問題はないが、もし、変に生き残ってしまった場合。
そのあとの光景を思い浮かべてぶるっと震える。
まずい。
今までの流れで、このままだとあのお花畑なお兄ちゃん的な立ち位置な人たちが何かやらかすに違いない。
救助班が来ているのだから、あの人たちだって来るに違いない。
本気でまずい。
のほほんと考えていたが、急に危機感が沸き上がってくる。
犯人さんが私を逃がさないように首に回している腕をペチペチと叩く。
「おっ?急に命乞いか?」
ふるふると首を小さく振りながら、叩き続ける。