国語弱い彼女と私
夏の新商品開発に向けて、ちょくちょくマダムの店に顔を出すことを余儀なくされとしまった。
情報提供したし、私、いらなくない?と思ったのに、中々解放してもらえず、それどころか熱中症対策の国家プロジェクト的な話になり、知らない間にアドバイザー的な立ち位置になっていた。
試作を繰り返し、なんとか商品化の目処が立ち始めたある日。
ちょっと遅めの昼食を食べようと食堂に向かっている途中で、誰かが後ろから追突してくる。
バランスを崩しそうになりながらも、踏ん張って振り返れば、それは凛だった。
「なんだ、凛か。」
「なによ、もう。リアクション薄いわね。」
「わー、びっくりした。すごいすごい。」
「もぅ!!そんな棒読みされて、喜ぶわけないでしょ!」
じゃあ、どうしたら良いんだ。
「で?なんか用?」
「最近マダムのところ通ってるんだって?」
「それがどうしたの?」
「夏用品、私だって案を出したのに……」
「……クーラーとか言わなかったよね?」
「言ったけど?」
言ったのかいっ。
「構造説明出来るの?」
「だって、アイディアって言われたから、構造なんか知らない。」
「そうですか。で、結局何?」
「ちょっと、私も行きたいの。」
「どこへ?」
「マダムのところ。そうと決まれば、レッツゴー!」
「いやいや、待って待って。私、いいよなんて言ってないし。」
まず、上司にお伺いを立てねばいけないのでは?私、仕事中だよ。
「大丈夫。先に聞いてオッケーもらっといた。」
まず、私を通せ?
そして、お昼ごはんは?
私のことなどお構いなしで手を引っ張られる。
「え、本当に今すぐ?」
「もちろん。急がば回れって言うじゃない。」
「それだと全く違う意味にならない?」
たぶん、言いたいのは思い立ったが吉日とか善は急げとかじゃないのか。
「あれ、そうだったかな?」
凛はすっとぼけた顔をして言うが、国語弱すぎではないだろうか。
「でも、そんな自由に動いて良いの?」
「ん?」
「何時も護衛ついてるじゃん。」
話ながら歩いているので、もう既に街まで降りてきているのだが、さすがに私一人では不味いだろう。
「大丈夫!今日はストーカーバージョンでお願いしたから。」
「なにそれ。」
言いながらもキョロキョロと確認すれば、ちょっと離れた建物の影に怪しげな人影があった。
「うわっ。確かにストーカー。忠実に守ってる……」
こうして護衛に見守られながら、街へと繰り出したのだった。
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