夏の必需品
競技会から一週間後、休みを利用して久々にマダムの店に来ていた。
「こんにちはー。」
店に入ると正面のレジにうつ伏せになり、呻き声をあげるマダムが目に入った。
なんだか嫌な予感がする。
「さようなら。」
回れ右をして、今入ったばかりの扉からでようとする。
しかしそれは、上手くいくことはなかった。
がしり、と肩を捕まれる。
「いらっしゃぁーい。」
覇気のない声で言われても……
「どうも。」
「ちょっと困っているのよ。力を貸して~。」
「ちょっ、近いです!」
ベタベタとスキンシップを取ってこようとするマダムを牽制する。
「じゃあ力を貸してくれる?」
目をキュルキュルさせながら懇願される。
小悪魔か、世で言う小悪魔と言うのはこれのことなのか。
このままこの茶番に付き合う気はないと、半ば諦めの境地で話を促す。
「なにを……困ってるんですか。」
「話を聞いてくれるの!!」
もしかしたら語尾にハートがつきそうな勢いだった。
「とりあえず、こっちに来て。」
促されて奥の部屋に入る。
部屋には、何かのデザインが書かれた紙や試作品が机の上に広がっていた。
椅子に座りながらもう一度尋ねる。
「で、何を困ってるんです?」
「暑いのよ!」
「はい?」
「これから暑くなるのよ。」
「だから?」
「何か良いアイディアはない?」
突然聞かれても……
あ、そうだ。
「凛には?」
「うーん。聞いたけど、現実的じゃないのよねー。」
言われて想像がつく。
どうせ、クーラーとかそういう系だろう。
「現実的な物ねぇ。」
団扇は、扇子とか扇があるし、風鈴は日本人しか涼しくならないらしいし。
浴衣は、みている方は涼しいが着ている方は地獄だ。
「うーん。」
腕を組ながら視線を宙に投げる。
「食べ物なら塩飴、経口補水液、アイスクリームとか?」
「え?なに?アメ?」
「んー、塩飴は、砂糖に水入れて煮詰めたら丸めて粗塩まぶせば簡易的に出きますよ。経口補水液は、水、砂糖、塩、レモン汁を入れれば作れるかな。」
「涼しくなるの?」
「涼しくはならない。」
「じゃあ、だめじゃない……美味しいの?」
「美味しくもない。けど、暑すぎて汗を一杯かくと調子が悪くなりますよね。そういうときに飲んだり、食べたりすると良い物ですね。そういうときに口にすると美味しいらしいですよ。」
私は、そこまで調子が悪くなったことはないけど。
「アイなんとかは?」
「アイスクリーム?でもあれ、私は作ったことないからなぁ。あ、アイスキャンディなら簡単か……」
「なあに、それ?」
「一番手軽で簡単なのは、試験管にジュースを入れて、棒を差して氷で冷やして固めれば出きますよ。」
小学生のとき理科の実験で作ったなぁ。
「何故試験管?」
「あ、別に似たような入れ物でも出来ますよ。」