簡単には死なない
アレン視点です。
まだ競技会は続いていたが引き上げることとなり、観客席から出て階段を降りていく。
降りきった所で、ばったりとであってしまった。
テルと。
「あっ。」
「あっ。」
「あー!!」
「おいこら、指を指すんじゃない。」
アイナがかなり不機嫌な顔でテルの手を叩きあげる。
「あ、あの……その」
「怪我」
「へ?」
「なんでもない。」
おそらく怪我を心配したんだろう。
しかしすぐ、心配をなかったことにしてしまった。
「こてんぱんにやられればよかったのに。」
そしてその代わりにアイナの口から出たのは、なんとも酷い一言だった。
「おまっ、ひどっ。死ぬかも知れなかったのに!」
「人間、そんな簡単には死なん。」
「はぁ?それは、お前だからだろ?」
どちらも正しいようでそうでもない、そしてお互いに酷いことを言っている。
テルは、まるで自分を大きく見せようとしている小動物のようだった。
それに対してアイナは、初期の完璧なる無表情に冷たい目をして見返している。
ここだけ見れば、「仲がいい」と思うかもしれないけど、たぶんそれをいったらアイナは怒るだろうな。
いや、怒ることもせず、「そうですか」で終わりそうな気がする。
あまりにも対照的な二人に思わず苦笑いがこぼれる。
その時、キャンキャンと喚いていたテルと目があった。
「なんスか?」
不機嫌そうに聞かれてなんて答えようかと迷う。
仲がよさそうでも悪そうでもなく、楽しそうとも違う。
「……いや。なんか、アイナのその顔を久々に見たというか……」
「何時もこんな感じダロ?」
なに言っているんだみたいな不思議そうな顔をするテルに、やはり向こうではこれが普通だったのかと思い、ガックリとする。
俺の機微を感じ取ったのかどうかはわからないが、テルがさらに不機嫌な顔になる。
そして、異世界の言葉でアイナに話しかけている。
『※※※※※※※※※!』
「知らない。」
『※※※※※※※※※?』
「話す必要を感じない。」
『※※※※※※※※。』
「お前に心配される筋合いはない。てか、何をどう心配しているのかがわからない。」
『※※※!※※※※※※※※※※?』
何を話しているかわからないが、鬱陶しげに答えているアイナの口振りからすると、テルが何かを心配して尋ねているが全然伝わっていないようだ。
ツンツンとアイナの肩を叩けば、かなりの不機嫌顔で振り返る。
気を静めての意味を込めて、笑いかける。
アイナはびっくりしたような顔をして、直ぐに通常運転に戻る。
「とりあえず、話は以上で。なんでしょう?」
前半はテルに向かって、後半は俺に向かって話しかけてきた。
そして、「移動しましょう」とぐいぐい背中を押される。
「よかったんですか?」
「いいんです。まさか、あいつも頭の中お花畑だとは思わなかった。」
やれやれと首をすくめているが、なんだか一纏めにされて失礼な と思う自分がいたのだった。