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ずれてる彼女

観客席視点です。

 一年に一度の競技大会。

 自分は今から行われる障害物競走にはでないので、観客席で観戦することにした。

 空いている席を探して座る。


「さて、大丈夫かなぁ。」

「どうだろう。やらかさなきゃいいがな。」

「ふふっ。きっと本人はやらかそうなんて思わずやらかすんだろうねぇ。」


 隣のイケメンたちの会話が聞こえてくる。

 どうやら、知り合いがこの競技に出るらしい。

 一人は楽しそうに、もう一人は難しそうな顔で心配している。


「あ、始まるよ。」


 障害物競走が始まり、実況を聞きながら応援する。


 しばらくみていると、一人、女の子が並んでいるのに気がついた。

 この国では珍しい黒髪を二つに縛った女の子だった。


「あ!あそこにいるね。」

「……すごく嫌そうな顔だな。」


 どうやら、あの子が知り合いらしい。

 そうかと思ってみれば、特に嫌そうな顔はしてない。楽しそうでもなければ、緊張した様子もないが。


 彼女の順番がきて、選手五人が横一列にならぶ。


「小さいな……」


 周りの観客たちも隣の騎士(選手)との対格差にざわめきが起こる。


「それでは、四グループ、位置について、よーい、スタート!」


 スタートした瞬間に既に出遅れている。

 別に知り合いではないが、隣の二人の知り合いだと聞いてしまったのでついつい目でおってしまう。


 他の奴らが持ち上げた網の間をするするとくぐりあっという間に二位につけてしまった。


 すばしっこいな。

 でも、次の平均台はなかなかの高さを有している。


 先に着いたやつが登ったはいいが、進めずしがみついている。


「相変わらず、高いところが平気そうだね。」


 そう、彼女は顔色ひとつ変えずに平均台を進んでいく。

 しかも、余裕そうだ。


「怖いとか思わないのかな?」

「思ってたら、二階から飛び降りないだろ。」


 え、あの子、二階から飛び降りたことあんの?


「恐怖って感情、あるのかな?」

「そりゃ、あるだろ。ただ、向ける方向性が違う気がする。」

「そうかも。じゃなきゃ雪熊一発で仕留めないね。」


 は?雪熊仕留めたの?一発で?

 方向性とかの問題じゃなくね?


 周りのこの会話が聞こえた奴らも困惑の表情を浮かべている。


 驚いている間に彼女は、ぴょんと平均台から飛び降りる。


 ……せめて、もう少し「こわーい」みたいな反応をしてほしかった。


 次のコーナーでは、サイズが合わない袋を手に困っていた。

 うん。困っていたんだよ。表情は変わらないけど、内心困っていたに違いない。困っていてくれ。


 ……特になにも反応なく進んでいくけど。


 最後のリンゴは、どうするのだろう。

 魔法を使うんだろうが、コップに上手に入れる人みたこてないがな。


「「「!!」」」


 リンゴを投げたかと思ったら、そのまま魔法で潰した。


 そんな魔法みたことないぞ?


「あー……」

「……まったく」


 隣の二人は、ため息と共に頭を抱える。


 彼女本人は、自分がどんな魔法を使ったとか、周りがどうみているかなんて気にしていない。

 と言うより、潰れたリンゴがとんでこないかの心配をしている。


 全体的に、ずれてる?


 そして、一番にゴールした。


 拍手が沸き起こるなか、小さくピョコンと跳ねている。

 どうやら、嬉しいようだ。


「「「か、かわいい。」」」


 その様子を微笑ましくみていると、彼女は何かにはた、と気付いたかと思うと、あっという間に退場したのだった。

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