精神衛生上
引き続きカルー視点です。
「『私の心はあなたに殺された。それなのに私はあなたを助けなきゃいけないの?』」
きょとんとした顔をして、小首をかしげる。
「『散々死ねって言ってた相手に助けてって言う気持ちはどんな感じ?』」
「『ご……い』」
「『なーに?』」
「『……ごめん。本当にごめん。』」
「『だから、さっきも言ったよね?許してもらえる時は過ぎたの。』」
その瞬間、テルの手が崖から滑って見えなくなる。叫び声と共に。
「あぁーー!!」
「「「!!」」」
急いで崖に駆け寄り下を覗こうとする。
すると急に崖下から突風が吹く。
「うっぷ。」
思わず目をつむり、顔を腕でガードする。
すると、後ろのほうから蛙がつぶれたような呻き声が聞こえる。
「うげぇ。」
「え?」
急いで振り返れば、そこには無様に転がったテルがいた。
「「「え?」」」
状況が分からなすぎて疑問の声をあげると、他の奴らとハモった。
『いってー。って、俺、いきて、る?』
起き上がったテルが自分の両手をマジマジとみて、体をペタペタと触っている。
どうやら本人も何が起こったのか分からないようだ。
「今、何が……」
聖女様も不思議そうな声をあげ、テルをみてから、アイナさんを見る。
その視線をたどってみんなの視線がアイナさんに集まる。
「……。」
彼女一人、特に驚いた様子は無いし、冷めた目でテルをみている。
「説明を求めても?」
後から合流した長身イケメンがアイナさんに聞いている。
「……いる?説明。」
「是非。」
物凄く嫌々ながら説明をはじめてくれた。
「別にこいつが死んでも私は痛くも痒くもないんだけど、今後の私の精神衛生上よくないかもなあーって思って。もしかしたら気にやむことがあるかもしれないから助けた。」
「どうやって?」
「風魔法。突風というか竜巻というかであれを押し上げて飛ばした。」
「着地は面倒みてやらなかったのかよ。」
近くにいた同僚がアイナさんに突っ込んでいる。
「なぜ?」
「なぜって……付き合いの長いやつなんだろ?」
「だからといって、そこまで面倒をみる義理はないです。」
当然でしょ?って顔すんなや。
この二人をみていると、他人に冷たいというかえげつないことをするのが異世界では普通なのかもしれない。
「ちょっと!!かわいそうじゃない。その人のいう通り、やるなら最後まで面倒みてあげなさいよ!」
聖女様は此方派らしい。
「無理。助けただけでも大分譲歩してるから。」
めんどくさそうな顔をして、やれやれと首を振るのだった。