顔芸
「今からならもし、遅れたとしても最悪の事態を止めることができます。」
「じゃあ、急がなくっちゃ。」
「行ってらっしゃい。」
「なんでそうなんのよ!」
あれよあれよと引きずられていく。
途中、リアムがいなくなったが、直ぐに帰ってきた。
「分隊長に伝言を頼んできました。」
さいで。抜け目のない感じで。
ぶつかりそうになった男は、カルーと名乗った。
カルーによると、西側に悪魔の峡谷と呼ばれるところがあり、明輝たちはそこにいるらしい。
悪魔と呼ばれる所以は一度落ちたら二度と上がってこれない程深いから、だそうだ。
10分そこらの差だから追い付けなくても、話には割り込めるだろうと踏んでいるようだ。
しかし、ずっと走りっぱなしは体力的に無理だったので、歩いたり、早歩きをしたりして進んでいく。
ちなみに、私より凛のが体力はなかった。
しばらく進むと前方に黒い線が入っているような地面が見えてきた。
「あれ?」
「そうです。」
「ゼェゼェ、つ、ついたの?」
「あ!あっちのほう!」
ウォルターが指を指したほうを見れば、何人かの人影がみえる。
「たぶん、あれです!!」
走り出す男供をみながら仕方がなく覚悟を決める。
ここまできてしまったのだ。巻き込まれてやろうじゃないか。
近づいていくと人影たちがもめている声が聞こえてきた。
「俺たちを裏切ろうとしてただろ!ネタは上がってんだ。」
「?」
「裏切り者!」
「ウラギリ?チガウ。」
「はぁ?暗号で手紙をやり取りしていただろう!」
『意味がわからない。』
「ひっ。その、変な呪文止めろ!!」
「ヤめる?ナニを?ナニが?」
「だから……」
明輝がこちらの言葉がわからないため、一向に話が進んでいかない。
「ねぇ、暗号って?」
「あいつ、こっちの言葉がわかんないみたいで。だから私、日本語で手紙を書いたの。それのことかな。」
「え、それって愛奈の手紙で疑われてるんじゃ?」
十中八九そうだろうねぇ。
「オレ、なにもシてない。」
「密書があるんだよ。疑われるようなことしただろ。心当たりがあるだろ!」
割り込むタイミングがわからず、明輝を糾弾しているのを眺めていると、集団の中の一人が私たちに気がついた。
「あー!あのときの!!」
その人の叫びに全員がこちらを見る。
「お前、テルの知り合いだったか?」
「もしかしてお前がテルから情報を……」
「ちっ。この人数なら俺たちのが多い。殺るか?」
「あのー。たぶん、手紙の相手は私ですが、私は大したことは質問しませんでしたよ。返事もなかったし。それよりも、そんなに聞かれたくない話があるんですね。通りかかりを殺してまで隠さなきゃいけない話が。」
私の言葉を聞いて、相手の集団は明輝以外、焦った顔がより一層焦ったかと思えば、今度は一転すまし顔になった。
忙しい人たちである。