正規ルートと不正規ルート
「忘れる。」
何て素敵な言葉なんでしょう!!
あいつの存在なんてきれいさっぱり忘れてしまえば、私の人生薔薇色に!!
……なることはなかった。
それに、忘れたのは一時的でやはり、考えてしまうもので。
「日本語でしたね。」
数日後の仕事の休憩中に突然話を始める私に、特に訳わかんないんですけど、といった苦情もなく、アレンが返事が返ってきた。
「そうですね。こちらの言葉ではなかったです。」
「私たちは普通に喋ってますよね。違いはなんでしょう?」
「うーん。こっちへどうやって来たか、の違いかも知れませんね。」
「どうやってってなんすか?」
隣で話を聞いていたウォルターも意味わかんないみたいな顔をしている。
「アイナたちは、勇者召喚と言う正規ルートでこちらに来てますよね。」
私の巻き込まれ事案が「正規ルート」に入っていいのかは大分疑問だが、言語に関してほかの三人とそれほど違いがあるわけでもないので、良しとしよう。
「じゃあ、『正規ルート』で来てないっていうのは?正規ルート以外に来れるんですか?」
「来れる、と言うか、来ちゃったと言う表現かなぁ。」
ノアの言葉にどうやらリアムはピンと来たらしく、「あぁ。」と相づちをうつ。
「『落ち人』ですか。」
「落ちちゃった人?」
「何十年かに一回いるだ。異世界から来る人。話によると地面に亀裂が出来て落ちるらしい。だから、落ち人。」
「気がついたらこっちの世界に来ていたって感じですね。総じて言葉が通じません。」
「なるほど。正規ルートならば、言葉は不自由じゃないけど、違うとわからないわけか。」
「しかも、どこの次元の人がくるかわからないし、どこの国に落ちるかもわかりません。」
「へー。」
神隠しみたいなもんか。
もしかしたら、あっちにも落ち人が来ているかも知れない。
「こちらに別々に来た人が出会えるほうのが珍しいですよ。」
最悪な偶然ってこと?
「最悪だ……」
「たぶん、気分の良くない話だとは思うんですが……彼との関係を教えてくれますか?」
「我関せず風なお嬢がそこまでいうの、珍しいっすよね。」
「ずっと気になっていたけど、聞ける風じゃなかったからな。」
「今だって聞ける風じゃないけどさ。知り合いと断定されたなら、教えてくれると嬉しいな。」
全員に迫られて、言葉につまる。
ぐぐぐ。そんなこと言われてもたいしたことないんだけど。
ただただ嫌いなだけだし。
「はぁ。……関係といわれてもそんな大層なものではないですよ。」