心が温もりに気づかないだけ
しゃがみこんでしまったアイナの背中をさすりながら、様子をうかがうが、大分深刻そうである。
口許に手を当てて、我慢する様子が痛々しい。
大丈夫?って聞こうとして、その言葉を飲み込む。
見るからに大丈夫じゃなさそうだし、もし本人が大丈夫と返してきても絶対に大丈夫ではないのは明らかだ。
何て言葉を掛けていいかわからずアレンに助けを求めるが、彼も心配そうに様子をみていた。
どうしようかと悩んでいると、アイナがガバッと立ち上がった。
「うわっ。どうしました?」
驚きながらも急いで同じように立ち上がりアイナをみれば、なぜかギュっと目を閉じて、瞬きを三、四回繰り返していた。
「「?」」
アレンと二人で顔を見合わせていると、アイナが微笑みながら口を開く。
「すみません。もう、大丈夫です。」
明らかに調子の悪そうな顔面蒼白で大丈夫っ笑うアイナ。
その笑顔をみて僕は、ショックを受けていた。
今までをみれば、笑顔を浮かべていても困ったように眉毛を下げて笑っていたり、どこか不安そうな笑顔だった。
しかし、今は顔色が悪くなければ、大丈夫なのかなと思ってしまうほどだった。
全てを包み隠すほどの笑顔。
それは、一寸前の全てを隠す無表情と同じだった。
無表情が笑顔になっただけ。
笑ってほしいと思ったが、思っていたのと違う。
「大丈夫じゃないでしょう?」
ついつい口に出してしまった言葉をアイナは静かに笑う。
「いつまでもここにいてもしかたがないでしょう。大丈夫ですから。」
「でも、顔色が悪いですよ。もうちょって休みませんか?」
「大丈夫です。」
絶対大丈夫じゃないのにガンとして認めない。
ムムムとにらみあっていると、アレンが無言で近づいてきた。
そしてひょい、とアイナを抱えあげた。
「うわっ。」
「帰りますよ。」
「ちょっ、降ろし」
「だめです。」
「いや、降ろ」
「だめです。」
アイナはパタパタと暴れるが、アレンは降ろす気はなさそうである。
そのままお姫様抱っこで帰ることとなったようだ。
しかし、諦めのつかないアイナは、顔を赤らめながら抗議の声をあげていた。
「本当に降ろして!!」
「ダメ。だいたい、さっき立ち眩みしていたでしょう?」
アレンのその一言にピタリと抗議をやめるアイナ。
そして、絶望的な顔でポツリとこぼす。
「なぜばれた。」
「ここ最近、たまに見る仕草だったので。あと、明らかに立ち眩みしているのに動くのはダメですよ。この前、壁にぶつかりそうになってましたよね?」
「なぜそれを……」
「だから、見てたんですって。」
やり取りを聞いていると、急にアイナがバッと両手で顔を覆った。
「恥ずかしい。爆発して死にたい。」
よくよく見れば、耳まで真っ赤に染まっていた。
新たな衝撃でどうやら元気になったらしい。
よかった、よかった。
年相応の反応を見ることができたような気がしてちょっと嬉しく思いながら、隣を歩いて帰路に着いた。
一つ、驚いたことと言えば、帰り道の途中でアイナが寝てしまったことだ。
静かだなと思ったら、寝息が聞こえてきたのだ。
まさかの展開に、アレンと顔を見合わせて笑ってしまったのだった。