『テル』
しかし、返事をしたのは、他の男だった。
男は、今しがた殺ってきましたとばかりに返り血を浴びていた。
「いゃぁ、俺たちも有名になったもんだ。ばれちまったか。」
アハハ、と陽気に笑いながら困った様子はない。
「今、仕事が終わったんだ。安心してください。騎士さまのお手を煩わすことはないと思いますよ。」
別の男もガハハと笑いながら請け合う。
「そちらのローブの方が勇者さんなんですね?」
「そうですが……申し訳ねぇ。勇者さまは余りしゃべる方じゃねぇんでさ。」
「そうなんですか。」
大人のやり取りを聞きながら、私は黒ローブを観察する。
確かに、身長は私と一緒ぐらいだ。
そして、ローブの隙間から見える前髪の髪色は、以前すれ違ったあいつ似の男の子と一緒で……
「『テル』」
「「「「え!」」」」
不意にこぼした私の一言に全員が私を見る。
もちろん、『テル』と呼ばれた黒ローブも。
『さ、佐藤?』
最近名乗っていない名字を日本語で呼ばれたことにより、私の予想が当たったことがわかった。
私は、最初からこちらの言葉がわかっていたし、話せていた。
もちろん、読むことも書くことも出来ていたけど。
しかし、違和感はあったのだ。
私が書き出した箇条書き、あれは日本語で書いていた。
考え事をしながら、自分が読めればいいと思ってかいたものだったからだろう。
最近気づいたのだが、単語と口の形があっていないことがある。
それは、召喚された者どうしで、こちらの世界の言葉を話しているとき。
逆に向こうの言葉をこちらの世界の人が発音するときは、一緒の口の形なのだ。
だから、リアムが『テル』と言ったとき、自分でも驚くほど動揺したのだ。口の形が一緒だったから。
意識すれば、日本語で書いたり、話したりできる。
それらがわかったとき、漠然と知り合いかもと思っていた疑いの度数がはねあがったのだ。
「アイナ、知り合いですか?」
アレンの問に私が返事をする前に『テル』が話し始める。
『おまえ、なんでここにいるんだよ。おまえ、トラックにひかれて死んだはずじゃ……』
あ、バックしてきた軽トラに、じゃないんだ。
『……相変わらず、なに考えてるか全然わかんねーやつだな。気持ち悪いやつ。おい!なんとか言ったらどうだ?』
ペラペラと日本語で捲し立ててくる。
キャンキャンと吠えまくる小型犬みたいだ。
ここで私は、他人の空似ですよ~、と知らんぷりもできたわけだが、それはできなかった。
私がこいつを一目でわかったように、相手だってわかっているだろうし、だいたい召喚の話しを知っているかは知らないけど、どうせばれるんだから。
『特に質問されてないんだけど?津村 明輝。』
主人公が口の形に気づいたのが「最近」なのは、人の顔を見ながら話をすることが少しできるようになってきたからです。