穴に落ちるのは誰?
???視点です。
つまらない。
俺は通いなれた道を歩きながら、ため息をつく。
ちょっと前までは、楽しかったのに。
毎日面白おかしく生きていて、賑やかだった日常がたったひとつの変化により、急につまらないものとなってしまった。
これは、全部あいつのせいだ。
あいつのせいで友達関係も上手くいかなくなり、好きだった陸上にも力が入らない。
代わりに増えたのは生徒指導担当との鬼ごっこ。
どうやら、俺の髪色が気にくわないらしい。
いつもより明るい色に染めたら、「校則違反だ」と追い掛け回されているのだ。
友達関係に関しては、俺たちを繋いでいたのがあいつだったのだ。
中心人物かいなくなってしまったら、俺たちの関係性も変わるのは当然である。
なんのためにこんな下らない毎日同じ事を繰り返しているのか、わからない。
なんの返事もない問いを繰り返し投げ掛けるが、やはり受け取り手が目の前にいるのといないのとでは大違いである。
今まで見えていたものが、すべて灰色になったようで。
今まで感じてきたものは、実は勘違いだったのでは?と思うくらいで。
もしかしたら、あいつは存在していなかったのではないか。
そう考えてみるが、やっぱり違うと頭のなかのもう一人の自分が言う。
だってほら。
幼稚園の時からずっと一緒だっただろ。
小学校だって隣の地区だったから、途中まで通学路が一緒だったじゃないか。
今まで何度も同じクラスになったじゃないか。
あいつのことなら、何だって知ってるんだ。
あいつが家族とうまく行ってなくて、いじめられっこで可哀想なやつだってことを。
こんな下らない毎日を生きていたって、何の意味もない。
全てはあいつのせいだ。
あいつが勝手にいなくなったから。
「ちっ。」
イライラが頂点に達して、舌打ちをする。
「勝手に逃げ出すなんて許さない。」
その瞬間。踏み出した足がアスファルトを踏んでないことに気がついた。
「は?」
下をみれば、大きな亀裂が地面を走っている。
その亀裂の中に自分の右足が落ちていく。
すべてがスローモーションに見えるが、だからといって何らかの対処ができるわけもなく、バランスを崩す。
「うわっっっ!!」
そして、俺は亀裂に吸い込まれるようにして落ちていったのだった。
彼が亀裂に落ちたあと、アスファルトは何事もなかったかのように元に戻っていた。
亀裂など存在していなかったかのように。
彼が亀裂に落ちたのを目撃した人は誰もおらず、それどころかそこに亀裂があったことさえも誰も知らない。