主人公は妄想癖があり、ちょっと気持ち悪い人物にする
『お返事ありがとうございます!
From:蒼山このは
まさかお返事を頂けるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます。メッセージを送った後に失礼なことをしてしまったと思っておりましたので、お返事を頂いたときはとても驚き、そして嬉しかったです。
文面からも霧谷先生の真面目で優しいお人柄も感じられて感動致しました。
これからも応援しております。お返事は結構ですので。ありがとうございました』
『Re:お返事ありがとうございます!
From 霧谷澪人
そんなに畏まられるほど大層なものではありませんよ。ファンの人に応援して貰えるというのは何よりも嬉しいことです。活力になります。よかったらこれからも気軽にメッセージ送って下さいね。
ご期待に添えるよう、これからも頑張りますね!』
『楽しみにしてます
From:蒼山このは
優しいお言葉ありがとうございます!私はこれまで小説家の先生とお話しさせて頂いたことなんてなかったのでちょっとびっくりしてます。
Group Fruitsに掲載されている作品も読ませて頂きました。とても面白いです。いつも「続きはまだかな?」と確認させてもらってます。
これからも応援しております!』
『更新の時間帯
From:霧谷澪人
そう言って貰えるととても励みになります。ネットに小説を載せるとダイレクトに読者さんの感想とか反応が貰えるので嬉しいです。書籍だとなかなかこうしてダイレクトに感想頂けませんから。
更新は大体夕方です。夜は早くに寝てしまうので。さすがに毎日とはいきませんが、なるべく一週間に二回は更新したいと思ってます』
『更新ありがとうございます!
From:蒼山このは
更新読ませていただきました。ありがとうございます!今回も楽しかったです。
ところで先生はファンタジーしか書かないのでしょうか?ファンタジー作品も素晴らしいのですが、出来れば現代ものも読んでみたいです!
不躾なお願い失礼しました。これからも応援しております』
『現代もの
From:霧谷澪人
現代ものもいいですね。実は最近短編辺りからはじめて見ようかと思ってました。でもこれまで書いてなかったのでなかなかいい題材が見つからなくて笑
なにかいい題材ないですかねー?
彼女とかいないし、恋愛は難しいかな?
ちなみに君はどんなジャンルが好きですか?
よければこのはさんをモデルとした作品も書いてみたいです笑』
『写真
From:蒼山このは
本日二度目のメッセージ送信、すいません。
ご質問頂きました私が好きなジャンルですが、心がほっこりと温かくなるようなお話です。
私をヒロインにした小説と聞いて心臓が止まりそうでした!
とても嬉しいです!ありがとうございます!
もし可能でしたら私の写真を元に物語を紡いで頂けないでしょうか?唐突で厚かましいお願いをしてしまい、申し訳ございません。
でも先生の物語に自分が登場出来たら嬉しいなと思います。
もしお時間が許されれば、是非よろしくお願いします』
ここまでのやり取りを改めて読み返し、恥ずかしさで「あー!」と声を上げてしまった。
なにが『君はどんなジャンルが好きですか?』だ。
あの時の僕は、何でこんな恥ずかしいメッセージを送ってしまったのだろう。
いかにもプロの作家みたいな気取り方をして、興味もない現代ものを書いてみたいなどと言って、痛々しいことこの上ない。
無理やりねじ込んだような彼女いないアピールに至っては我ながら身の毛もよだつ気持ち悪さだ。
このはさんはメッセージのやり取りも一日一通程度で煩わしくもなく、そして返してくれる言葉も耳障りがよくて、つい調子に乗ってしまった。
その結果、このはさんの写真を元に小説を書くなんて約束をしてしまった。
「僕は何をしてるのだろう」
力尽きたように仰向けに倒れ、天井を見上げる。
やはり僕にはネット小説みたいなファンとダイレクトに関わる方式は不向きだったのだ。
人と関わり煩わしさを感じる僕のようなタイプは、一人で悶々と書き綴っている方が性に合っている。
僕が小説を投稿しているグルフルは登録者数が150万人を超える超巨大サイトだ。
今やこのサイトをきっかけにデビューする人も多い。
もちろん僕もその一人だ。
しかしデビューしてからはしばらくはサイトに投稿するのは控えていた。
別に『自分はもうプロなんで』みたいに天狗になってもったいぶっているわけではない。単に出版社に企画を出したり作品を書いて送るのが忙しかったからだ。
だけど出版社からは次々とプロットや原稿を没にされ、その供養のような意味合いで再びサイトにアップし始めていた。
出版社から没を言い渡されても、こうして作品を世に発表する場があるというのはとてもありがたいことだ。
うまくいけばほかの出版社からも声をかけてもらえるかもしれない。
ティッコン……
着信音が鳴り、『メッセージが1件ございます』という赤文字がサイトのマイページに躍った。
確認するとやはり差出人は蒼山このはさんだった。
『追加情報
From:蒼山このは
言い忘れておりましたが私は高校三年の女子です。背はさほど高くなく、学力はそれに比べるとやや高い方です笑。
恋人はいませんが、気になる人はいます。今は東京にある大学を目指して受験勉強に忙しいです。
以上が今の私の状況です。小説を書く参考になれば幸いです。他にも気になることがあったら仰って下さい。可能な限りお答えします』
そのメッセージを見て羞恥の念に追い打ちがかけられたのは言うまでもない。
もちろんその原因は『恋人はいませんが気になる人はいます』の下りだ。
僕の『彼女はいません笑』アピールが気持ち悪くて、すぐさま『気になる人がいます』などと予防線を張ってきたに違いない。
「でも、まあ、普通いるよな。好きな人くらい。いるいる。普通いる」
それくらい分かっていた振りをして頷く。しかし写真を元に小説を書くというのは一気に面倒くさくなった。
でもここでいきなり写真を元に小説を書くのをやめたら、下心ありありでしたと証明するようで、さすがに格好悪すぎる。
せめて短編の一作くらいは書かなければいけない。
再び二枚の写真をじっくりと見て、想像を膨らませる。
──ひまわり。海。夏。お盆。花火、帰省、おばあちゃんの家、従妹、スイカ、夕立ち、プールの塩素の香り、かき氷、夏祭り、夜店、蝉の騒音、夏期講習、エアコンの効きすぎた電車内……
それらの中に高校三年生の彼女を思い浮かべ、ぼんやり見えてきた物語を捕まえるように取り敢えず指を動かしてキーボードを叩いた。
浮かんだインスピレーションを一気に綴り、『君の残り香』というタイトルの三千字ほどの短い小説を二時間かけて書き上げた。
見直すのも恥ずかしいくらいに青臭い小説だったので軽く誤字がないことだけを確認してからグルフルにアップする。
そのわずか二十分後、このはさんからのメッセージが届いた。