高校生活のシーンは無難に学園祭でも書いておけばOK!
『ハーブ園
From:霧谷 澪人
今回は僕が写真を送ってみます笑
今日出掛けたハーブ園の写真です。花は詳しくないけど、凄く綺麗でした。いつも小説のことばかり考えて煮詰まっていたからいい気張らしになりました。
このはさんは花が好きですか? イメージ的には好きそうです。
丘の上から住んでる街を見下ろしていたら意外と小さくて不思議な気分だった。人が多くて密度が高い地域って不思議と広く感じるものだね。』
『素敵ですね!
From:蒼山 このは
綺麗な写真、ありがとうございます。このハーブ園、とてもいいところですね。
デートですか笑?
花は好きです。ひまわりでもバラでもコスモスでもカスミソウでも。だけど一番好きなのはやっぱり桜かな?』
『違います笑
From:霧谷 澪人
相手は女性ですが、残念ながらデートではありません。無料チケットを持ってるという知り合いに誘われました。
正直僕は人と違う道を歩んで生きているので、時おりとても不安になるし、怖くもなります。でもその知り合いとゆっくり話をして頑張ろうって気持ちになれました。
その人に『せっかく好きな道を歩んでいっているんだから楽しくやった方がいいよ』って言われてなるほどなって思いました。
気負いせず楽しみながら頑張ります!せっかく作家の道を選んだんですから!
来年の桜の季節にはこのはさんも大学生ですね。きっと東京で桜を見ることになるんでしょうね。頑張ってね。応援してます!』
『そうですね!
From:蒼山 このは
せっかく才能もあって夢に向かっているんですから楽しまないと!私はいつまでも応援してます!
そのお友達?さんに感謝ですねー
きっと先生は成功して立派な作家になりますよ。私は信じてます。
来年の桜、私はどんな気分で見てるんだろう。笑顔で見られていたらいいな。
追伸 それってやっぱりデートなんじゃないですか?少なくとも誘った人はデートだと思ってますよ、きっと』
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高校生活最後の文化祭が近付いてきた。
これが終わればいよいよあとは受験だけに向かっていくこととなる。きっと高校生として最後の華やいだイベントとなるのだろう。
もちろん三年生は受験で忙しいから比較的手間のかからない模擬店やら展示をすることが多い。なにかを展示するだけというクラスだって珍しくない。
そんな中、うちのクラスは高校生活最後の思い出作りがしたいということで喫茶店をすることとなった。普通のカフェじゃなく『文学カフェ』という名目だ。
とは言っても特別なにかするってほどじゃなく、単に本棚を設置して色んな本を置いて読めるようにするというものだ。
制服は大正モダンを意識したようなもので、女子は給仕エプロン、男子はなぜかタキシードに決まった。
今日は目前に迫った文化祭に向けて放課後集まって飾り付けを制作していた。大きな絵を飾るのでジャージに着替えて絵の具で色を塗っている。
「おー、いいじゃん! うまいな若葉」
小鹿野君が笑いながら私の隣にしゃがむ。石鹸と汗の混じった香りがして、心臓がドキッと弾む。距離が近すぎる。
「そんなことないよ。普通だって」
私は笑いながら少しだけ横にずれ、小鹿野君の香りが届かない位置まで距離を取った。
「若葉が普通だったら美桜なんてどうなるんだよ」
わざと聞こえるように煽ると、彼の期待通りに美桜がやって来て小鹿野君の隣にしゃがむ。
「どういう意味よ、それ」
美桜と小鹿野君の距離は近い。肩が触れ合っていても気にした様子はない。
心の距離はその密着した肩よりも、更に近いのだろう。
「美桜画伯の絵なんて飾ってたら、子供が来たら泣くぞ? 二年でお化け屋敷してるとこがあるから、その絵をプレゼントしてこいよ」
「はあ? 失礼なんですけど!」
美桜は割と本気の顔で怒って小鹿野君の腕を叩いた。
「その虎の絵とかヤバすぎだろ」
「これは猫! マジムカつくんですけど!」
もはや二人だけの会話になっていて、私の入る余裕はない。筆洗いバケツの水を替える振りをしてそっとその場を立ち去る。
親友も片想いの人も、どちらも大好きだ。仲良くしたいと思う。
実際に美桜と小鹿野君が仲良くなり始めたときはとても嬉しかった。
でも二人が付き合い始めたと聞かされた時、目の前が真っ暗になった。頭がクラクラして、その場に倒れそうだった。
泣きながら「おめでとう。よかったね」と言った私を見て、涙の意味を知らない美桜はきっと私のことを素敵な親友だと思ったのだろう。
違う。
私はそんな、いい子じゃない。
親しげに寄り添う二人の背中を見て、キュッと強く唇を噛み締めた。