カラス部長
俺の職場には、いつも周りに怒鳴り散らしている部長がいる。その怒鳴り声はオフィス中に響き渡り、聴く者のやる気を削ぎ、生産力を低下させる。
うるさいことから、部下は皆「カラス部長」と陰で呼んでいる。
「おいお前、なんだこの適当な仕事は!」
今日記念すべき一回目は、同じ部署の後輩だった。
「こんなもの、中卒でも出来るようなことじゃないか!それに何だ?仕事はやればいいってもんじゃないんだよ!初めから全てやり直せ、非常識が」
後輩が提出した書類を全て丸めて地面に叩きつけ、涙目になった後輩は、地面に無惨にも散らされた書類を集める。それを見て、カラス部長が嘲笑った。
「そんな使い物にもならない書類、さっさとお前のカバンの中にでも捨てておけ」
本当に最低な上司だ。と思っていると、矛先はいきなり俺に向いてきた。
「おい島田ぁ!何こっち見てんだ!お前も溜まってた書類書けたんだろうなぁ?!」
今度は俺かよ…。
喋り方が完全に極道そのもの。いくら聞いても寒気がする。
「はい、今ちょうど終わりました」
「仕事が遅せぇ!何年やってんだ!さっさとこっち持ってこい」
まだ入って1年と3ヶ月。仕事は何年も先の部長のが早く出来るのに決まってる。なのに部長は、自分の仕事のスピード、クオリティを毎日のように語る。
「どーせまた言ったこと、覚えてねーんだろうなー。だから、俺みたいなやつは部下が可愛いからそこまでやってやってんだよ。」
本当に虫唾が走る。でもわざとこちらを煽ってくるのは日常茶飯事。俺は書類が入っていた茶封筒ではない一回り小さいサイズの茶封筒を手に取り、カラス部長の元へと歩く。
そして、部長のデスクをバンッと勢いよく叩いた。社内に響くほど大きな音で、皆驚きこちらを見ていた。
「な、なんだよ急に」
先程の勢いを失ったカラス部長は、萎縮していた。
そして俺は茶封筒をカラス部長に差し出し、周りに訴えるように言い放った。
「僕、辞めます。こんな怒号が飛び交う環境で良い仕事なんて出来ません。部下のお手本にならなければいけない人が、何故こんなにも哀れなのか。それは、ここにいる人全員が思っていることです。短い間ですが、ありがとうございました」
俺は今まで吐ききれなかった鬱憤を全て晴らせた気分になった。頭を一度下げ、カラス部長を見ると、丁度人間の頭部の辺りが、カラスの頭部に入れ替わっていた。
「…えっ?」
すると、カラスの頭部は部長の声で話した。
「君は人間失格だ、もっと礼儀をわきまえたまえ」
瞬間、カラスの頭部は俺の頭を食いちぎった。
「うわあああああああああ!!」
叫び、バッと体を起こすとそこは俺のベッドだった。
寝巻きのTシャツは、汗で染みていた。
「ああ、夢か」
あと1時間後には家を出なければいけない。
嫌な1日が、また始まった。